僕らのノイズ ※最後の願いは、よく考えたうえで送信してください。
*
私が夢で見たことをすべて話し終えた頃。
タツさんはつたない単語を繋ぎ合わせながら話す私をじっと見つめながら、ときどき頷いて、まるでウサギの目のように自身の目を赤くしていた。
「……ごめ、ん、なさ……い……」
震える涙声でしゃくりあげながらやっとの思いで言い終わると、タツさんは私を抱きしめてきた。
その感触はないけれど、タツさんが私に身を乗り出して、細長い両腕で私の肩から背中を覆ったから、きっと抱きしめられたんだと思う。
その温もりに、体が緩んでいく。私は、自分の体が知らない間に強ばっていたんだ、と気づかされた。
タツさんが私の頭をそっと撫でたあと、私から離れる。そして、座り直して微笑む。
「夕夏さんが初めてです。夢であったとしても、そうやって助けようと、必死になってくれた人は」
タツさんは儚げに微笑んだまま、そうぽつりとこぼした。
「夢の話を聞いている最中、ふと夕夏さんの最後の願いはこれじゃないか、と思ってしまいました。」
私は何か言い当てられた感覚で、ごくりと一瞬、息を飲みこむ。
「夕夏さんは今、最後の願いを「タツを助ける」にしようと考えているのでは?」
それまで微かに聞こえていた、風で木々がさわさわと揺れる音が、とたんに聞こえなくなる。
私は図星を突かれたせいで、言葉を失っていた。
それ以上は何も言えなくなり、スカートの裾をぎゅっと強く握る。
「私はもう死んでいます。でも、私は、夕夏さんが私が置いてきてしまった忘れ物を届けてくれた、と思いました。それと同時に、教えてもらったこともあります」
「え……?」
タツさんの言葉が、頭の中を当てもなく泳ぎ回る。
「私は何もできなかった、助けられなかったのに? だいたい、教えた、って何を……」
私は困って、理解できないあまりに半ばパニックになる頭を抱えて、必死に思い当たる節を探す。でも、どれも、違う。
タツさんが何を言っているのか、わからない。
「私は、夕夏さんに助けてもらったことで、誰かに大切にされること、そして、守られること……それが愛されている証なんだと知りました」
曇り空の片隅に、太陽が優しく差し込みはじめている。
「今までは、助けを求められたら全力で助ける、願いを叶えて幸せにする。それだけが私の存在理由で、愛の証明になるんだと思い込んでいました」
「それで十分じゃ「でも充たされなかった!」
タツさんが初めて私の言葉に被せてきて、声を大きく荒げた。
その目には、滲むどころか、もうすぐ溢れ出してしまいそうな涙がたまっている。それなのに、鋭い矢で目の前の的を射抜くように、タツさんの眼差しは私の背中を突き刺し、貫通してしまいそう。
「どれだけ助けても、叶えても……」
タツさんは声を震わせながら俯いた。タツさんの目から何粒も涙が落ちて、地面を濡らす。
そこには、小さな水たまりができていた。
「だけど……」
タツさんは顔をゆっくり上げて、右手の親指で左目から流れる涙を一度拭う。
「そんな日々の中で、夕夏さんと出会いました。夢の中だろうがなんだろうが、必死になって、私を助けようとしてくれた。その話を今ここで聞いて、分かりました。今まで満たされなかった気持ちの正体を」
そのとき、オレンジ色の夕焼けがタツさんを照らし始めた。
タツさんの足元をよく見ると、うっすら透け始めている。
私は、失うのが嫌でたまらなくて、タツさんをこの場に引き留めようと手を伸ばしかけた。でも、そうしてはいけない気がして、すぐに自分の腕を引いた。
もう、これ以上はどうにもできないことを、私は、頭の片隅で気がつき始めているのに。
「夕夏さんに、知ってほしいことがあります」
タツさんはやっと顔を上げてそう告げてきた。
私が夢で見たことをすべて話し終えた頃。
タツさんはつたない単語を繋ぎ合わせながら話す私をじっと見つめながら、ときどき頷いて、まるでウサギの目のように自身の目を赤くしていた。
「……ごめ、ん、なさ……い……」
震える涙声でしゃくりあげながらやっとの思いで言い終わると、タツさんは私を抱きしめてきた。
その感触はないけれど、タツさんが私に身を乗り出して、細長い両腕で私の肩から背中を覆ったから、きっと抱きしめられたんだと思う。
その温もりに、体が緩んでいく。私は、自分の体が知らない間に強ばっていたんだ、と気づかされた。
タツさんが私の頭をそっと撫でたあと、私から離れる。そして、座り直して微笑む。
「夕夏さんが初めてです。夢であったとしても、そうやって助けようと、必死になってくれた人は」
タツさんは儚げに微笑んだまま、そうぽつりとこぼした。
「夢の話を聞いている最中、ふと夕夏さんの最後の願いはこれじゃないか、と思ってしまいました。」
私は何か言い当てられた感覚で、ごくりと一瞬、息を飲みこむ。
「夕夏さんは今、最後の願いを「タツを助ける」にしようと考えているのでは?」
それまで微かに聞こえていた、風で木々がさわさわと揺れる音が、とたんに聞こえなくなる。
私は図星を突かれたせいで、言葉を失っていた。
それ以上は何も言えなくなり、スカートの裾をぎゅっと強く握る。
「私はもう死んでいます。でも、私は、夕夏さんが私が置いてきてしまった忘れ物を届けてくれた、と思いました。それと同時に、教えてもらったこともあります」
「え……?」
タツさんの言葉が、頭の中を当てもなく泳ぎ回る。
「私は何もできなかった、助けられなかったのに? だいたい、教えた、って何を……」
私は困って、理解できないあまりに半ばパニックになる頭を抱えて、必死に思い当たる節を探す。でも、どれも、違う。
タツさんが何を言っているのか、わからない。
「私は、夕夏さんに助けてもらったことで、誰かに大切にされること、そして、守られること……それが愛されている証なんだと知りました」
曇り空の片隅に、太陽が優しく差し込みはじめている。
「今までは、助けを求められたら全力で助ける、願いを叶えて幸せにする。それだけが私の存在理由で、愛の証明になるんだと思い込んでいました」
「それで十分じゃ「でも充たされなかった!」
タツさんが初めて私の言葉に被せてきて、声を大きく荒げた。
その目には、滲むどころか、もうすぐ溢れ出してしまいそうな涙がたまっている。それなのに、鋭い矢で目の前の的を射抜くように、タツさんの眼差しは私の背中を突き刺し、貫通してしまいそう。
「どれだけ助けても、叶えても……」
タツさんは声を震わせながら俯いた。タツさんの目から何粒も涙が落ちて、地面を濡らす。
そこには、小さな水たまりができていた。
「だけど……」
タツさんは顔をゆっくり上げて、右手の親指で左目から流れる涙を一度拭う。
「そんな日々の中で、夕夏さんと出会いました。夢の中だろうがなんだろうが、必死になって、私を助けようとしてくれた。その話を今ここで聞いて、分かりました。今まで満たされなかった気持ちの正体を」
そのとき、オレンジ色の夕焼けがタツさんを照らし始めた。
タツさんの足元をよく見ると、うっすら透け始めている。
私は、失うのが嫌でたまらなくて、タツさんをこの場に引き留めようと手を伸ばしかけた。でも、そうしてはいけない気がして、すぐに自分の腕を引いた。
もう、これ以上はどうにもできないことを、私は、頭の片隅で気がつき始めているのに。
「夕夏さんに、知ってほしいことがあります」
タツさんはやっと顔を上げてそう告げてきた。