軍医と傷読みの花嫁 ~閉じこもり薬師は、傷もちの旦那様に愛される〜
部屋に戻った薫子は、鏡台にかけてある絹の布をそっと外した。
引き出しからあの簪を取り出し、自らの髪に差し込む。
(私は、千条家の『取り引き材料』でしかなかった……)
「でも……こんなに完璧に生きてきたのよっ!? なのにっ!!」
眉を吊り上げ、目が血走る。奥歯を強く噛み締めると、前歯がむき出しになった。
しかし──。
ふと、写真に写っていたあの身窄らしい二ノ宮の姿が脳裏をよぎり、一気に激しい寒気に襲われた。
「ひぃっ!!」
素早い動きで髪から乱暴に簪を引き抜くと、目の前の鏡に向かって思い切り投げつけた。
ガッシャンッ──と、大きな音を立てて、鏡が細かく砕け、床へ飛び散った。
その歪な破片たちに、薫子の三角形に吊り上がった目が、幾重にも醜く映し出されていた。