未完成のワンフレーズ


服が汚れることも気にせず囲いを潜ると、

目の前には無人の道路が広がっていた。



「ほ、ほんとに外に出れた⋯⋯」


なんだかんだ今まで逃げ出してはいても外には行っていない。


今夜が記念すべき初めて病院から脱走した日だ。



「あはっ、あははっ! 自由だー!」


両手を広げてこうだいな夜空に向かって叫べば、気分は最高にいい。



病気なんてなければ、当たり前にこうして外を走り回れるのに。


そんな考えを振り払うように首を振って宛てもなく走る。



そろそろ私がいなくなった事に病院にいる皆が心配し始めた頃だろうか。


案外気づかれないままなのだろうか。



後者の方が楽だけど、そうだと私は誰にも気づかれないようにいてもいなくてもいい人間になる。


それはそれで、

寂しいな。




「ん⋯⋯?」




適当に走り回っていた時、不意にこの静かな人通りのない大通りには不自然な音が聞こえてきた。



この音は⋯⋯。


「⋯⋯ギター?」



目を閉じて耳を澄ませてみると、次ははっきりと聞こえた。


自分の頭よりも少し上。


目を開けてみると、気づけば古びた歩道橋の傍まで来ていた。


正体不明のギターの音は、歩道橋の上から聞こえてくる。



ごくりと喉を鳴らし、一段階段に足を掛ける。




かつん、

かつん、かつん。



一段登るごとにギターの音も近く大きくなっていく。



そうして階段を上りきった時、

私の視線はある一点に惹き付けられてしまった。




「⋯⋯⋯」




思わず口を開いたまま固まってしまうくらい、


びっくりするほどギターが下手だ。



音楽の知識なんて微塵もないけど、

そんな私でも奏でられる音が不協和音であることは分かる。
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