冷遇された闇王女は、隣国の王に愛される

魔物

 移動魔術の部屋を使い、ルシアン達はフォルテリア城に移動した。ルシアンとライラ、カイル、セレーヌは、第一騎士団と魔法師団を伴い魔の森を目指した。
 フォルテリア城から魔の森への移動は、火急の事態なので、更に移動魔術を使うことになった。光属性の魔法師と闇属性の魔法師が、魔術を練り上げる。
 そうしてルシアン達は瞬く間に魔の森へと到着した。

(光の結界は……魔の森の内側にあるのか)

 魔の森の北端からルシアンは光魔力の流れを見た。同時にカイルは闇魔力の感知をする。報告では魔の森が結界で包まれているという話だったが、ルシアン達の見た限り、結果は魔の森の中央付近にあるようだった。
 報告とのズレにルシアンは疑問を抱きながらも、一同を率いて魔の森へと踏み込んだ。先団は近衞も兼ねる第一騎士団の半分、中団にルシアン、ライラ、カイル、セレーヌと魔法師団、後団に第一騎士団の残り半分が配置された。
 魔の森と呼ばれ、魔物が多くいる森にも関わらず、ルシアンたちは一匹の魔物とも接敵しなかった。ただ魔物がいないとはいえ、森は薄暗く不気味で、不安を必死に隠そうとしながら着いてくるライラの健気さがルシアンの胸を打った。

 一同はやがて、森の最奥へと辿り着いた。ルシアンが結界の所在を探った結果だった。開けた場所には光魔法の結界と、一つの人影……それから巨大な魔物の姿があった。その大きさは、かつてフォルテリアを襲った魔物以上だった。

「あら、随分と遅かったのですわね?」

 人影は、当然ルミナリアだった。青い双眸に憎しみを燃やして、壊れるように微笑んだ彼女は美しかった。

「おかげで、こんなに大きな子を作れましたわ」

(そういうことか!)

 ふわりと笑み続けた彼女の言葉の意味をルシアンは正確に理解した。
 魔物は闇魔力から生まれ、闇魔力を持つ。
 ルミナリアはフォルテリアの結界から光魔力を吸収し、その力も使って目の前にある強力な結界を作った。そして、その闇魔力と魔物を逃さぬ結界を、ゆっくりと縮め、闇魔力と魔物を圧縮し、巨大な魔物を作り上げたのだ。

 顔を強張らせたルシアンにルミナリアは笑みを深めて、すっと結界を指差した。

(結界が壊された!)

 音もなく結界が消え去り、自由を取り戻した魔物は爛々とした赤い目をライラに向けた。そして、その鋭く黒い爪を振り上げた。

「カイル」
「ハッ!」

 事前に申し合わせた通りに、まずカイルが動いた。それほど強くない闇魔法を巨大な魔物へと向けて放つ。

(闇魔法は、やっぱり吸収されるか)

「カイル、あとは手筈通りに。騎士団、かかれ!」
 
 次に動いたのは騎士団だ。今回の編成では前回の経験を活かし、魔物に最も効果的な光属性の剣を使う者を主に編成した。

(ほとんど効いてない、か)

 一撃で普通の魔物なら倒すような光属性の騎士たちの攻撃も、巨大な魔物の前では致命傷には、なり得ない。魔物は、その目を騎士団に向けて、爪を振るった。

「魔法師団、かかれ!」

 ルシアンは魔法師団に指示を出した。動きを僅かに止めた魔物に、光魔法が主となった様々な魔法が襲いかかる。それは一瞬、魔物の姿が見えなくなるほどの攻撃だった。

(やったか……?)

 ズシンとルシアンの期待を裏切る音がした。数多の傷を携えて、それでも魔物は、よろめくこともなく歩を進め、咆哮した。

「私も加勢します」
「……ライラ。……頼む」

 一歩前に出た彼女の手を借りるしかない現状が、もどかしい。出来れば彼女を危険に晒すことなく、倒し切りたかった。

(……けれど、この魔物を野放しにする訳にはいかない)

 この巨大な魔物を逃せば、結界のないフォルテリアは壊滅するだろう。その被害の大きさと、ライラの存在と。王としての彼と、ライラを愛する者としての彼と。天秤にかけて、ルシアンは王としての自分を捨てられなかった。

 ライラは、何でもないことのように微笑んで頷いた。闇魔力を受け止めるかのように、左手を魔物に伸ばす。魔物から闇魔力が流れて、ライラの爪を黒く固く変化させた。流し込まれる濁流のような魔力に、息が苦しくなった。

——それでも

 ライラは魔力吸収の力を使い続けた。手から腕、肩へ変化する場所が広がっていっても、なお、巨大な魔物から闇魔力を受け入れ続ける。

 そんなライラの右手をルシアンは左手で握った。覚えたての相殺の力をライラへと使う。そうするとライラのなかから闇魔力が消えていく。

「ルシアン様? これは……?」

 また倒れるまで魔物の闇魔力を吸い尽くすつもりだったライラは、自分の中に溜まった重苦しい闇魔力が消えたことに首を傾げた。

 けれど、答えのでない答えを探している場合ではないのだと思い出して、再び魔物から、どんどん闇魔力を吸収していく。その度に繋がれたルシアンの手から光魔力が流れてきて、魔物から吸収した闇魔力が消されていく。

 気づけば、巨大な魔物は普通の魔物サイズとなっていた。こうなればルシアンたちの敵ではない。

「総員、かかれ!」
「ハッ!」

 第一騎士団が、魔法師団が、セレーヌが。ライラの吸収により弱った魔物に一斉に攻撃した。今度こそ剣と魔法が、魔物を弱らせていく。総攻撃に満身創痍である魔物は一際大きい断末魔を上げて、倒れた。

 それを信じられないような心地でライラは見ていた。と同時に、自分の力が役に立ったことに安堵した。

「良くやったね、ライラ」

 優しいルシアンの声に、ようやく魔物を倒したのだと……役に立てたのだと実感が湧いてくる。

「さぁ、帰ろうか?」

 その声にライラは笑顔で頷いた。
< 23 / 24 >

この作品をシェア

pagetop