再会した冷徹上司は、私にだけ過保護です
第22話 ※来年も一緒にいる前提
時は2月14日。
世間がバレンタインであろうとも、仕事は普通にある。
でも、職場に行けたほうが都合がいいこともあるのだ。
「皆さん、お疲れ様です! よかったら、ここに置いときますね!」
疲れには甘いものが効く。
私はお徳用の、小さなチョコがたくさん入った袋を、編集部の空いているスペースに置いた。
「おお、ありがたいねえ」
田島さんが一番乗りに、パクっとチョコを口に入れる。
「んまい。身体に沁みるねえ~」
「頭脳労働だからね」
いつも通り編集部に遊びに来ていた日暮先生もパクリ。
「先生、ときに進捗はいかがですか?」
「やん。春ちゃん、ここではそういうのは禁句だよ」
「ここ編集部ですけど」
田島さん、日暮先生とわちゃわちゃしていると、
「小日向さん、氷室には渡さなくていいの?」
と、不意に犀川さんに声をかけられた。
「え?」
「え、じゃなくて。まさか、用意してないわけじゃないんでしょ?」
「あ、そうでした」
「忘れてたの……?」
信じられないものを見ている顔をする犀川さんの横で、カバンをごそごそと漁る。
「――先輩!」
冬馬先輩のデスクに歩み寄った。
彼は、ピタッとキーボードを叩く手を止めて、私を見上げる。
「先輩、いつもお世話になっているので」
丁寧にラッピングされたチョコを渡した。
先輩は、チョコを上面、側面、底面までじっと回して見ている。
なんか、スキャンされてるみたいだな、という感想が湧いた。
「……これ、いくらした?」
「え、プレゼントするときに値段を教えるのはちょっと」
「そうか」
納得したのかしてないのか、先輩は1人で頷いている。
喜んでもらえたのかな……?
一応「お腹が空いたときにでも食べてください」と声をかけ、席に戻った。
「なによ、氷室のやつ。全然動揺しないじゃない。つまんないわね」
「氷室ちゃんをコンテンツにするのやめな?」
「だって、小日向さんが絡んだ時のアイツ、面白いから」
「それはそうなんだけど」
「田島さんも納得しないでください」
観察していた犀川さんと田島さんのやり取りに苦笑しつつ、仕事に戻る。
そう、バレンタインと言えども仕事はあるし、チョコの受け渡しがあるからといって業務を止めるわけにもいかない。
祝祭があろうとなかろうと、編集部の日々は進む。
そして、いつも通りの残業。
私が新しい企画書をまとめていると、不意に、パキッという音がした。
音のしたほうを見ると、冬馬先輩が私のあげたチョコを噛み砕いている。
「美味しいですか?」
「ああ」
「よかった」
私はふと、ずっと思っていたことを口にした。
「先輩って、いつもプリンとかチョコとか、残業のときに食べますよね」
「ああ……人にものを食べているところを、あまり見られたくない」
「そうなんですね。私と一緒にいるときは、結構食べてる気がしてたから」
先輩の動きが、ピタッと止まる。
「……お前は特別だというのを、いい加減に自覚しろ」
「特別?」
「そう。高校時代から」
――その頃から、先輩は私以外をそばに置かなかった。
その事実を思い返すと、私は「……ん?」と引っかかるものがある。
「……先輩って、私のこと好きなんですか?」
「今更何を言っているんだ」
「言ってないからですよ!?」
「……」
先輩は「言ってなかったっけ……?」みたいな顔をしていた。
しかし、諦めたように、またチョコに視線を落とす。
「……来年は、手作りがいい」
「カカオからですか?」
「いや、湯煎でいい」
「あ、チョコを火にかけるやつですね」
「……いや待て。当日は俺も同席する」
「なんでですか?」
「お前、チョコを直接、火にかける顔をしている」
「え、違うんですか?」
「……俺も作り方を予習してくる」
そんな雑談をしながら、残った仕事を片付けて、いつも通り一緒に帰る。
この日々が、ずっと続けばいいと思った。
なお、その後ホワイトデーに先輩から高級マカロンを箱でもらい、「対価に見合ってないですよ!」とツッコむ羽目になる。
世間がバレンタインであろうとも、仕事は普通にある。
でも、職場に行けたほうが都合がいいこともあるのだ。
「皆さん、お疲れ様です! よかったら、ここに置いときますね!」
疲れには甘いものが効く。
私はお徳用の、小さなチョコがたくさん入った袋を、編集部の空いているスペースに置いた。
「おお、ありがたいねえ」
田島さんが一番乗りに、パクっとチョコを口に入れる。
「んまい。身体に沁みるねえ~」
「頭脳労働だからね」
いつも通り編集部に遊びに来ていた日暮先生もパクリ。
「先生、ときに進捗はいかがですか?」
「やん。春ちゃん、ここではそういうのは禁句だよ」
「ここ編集部ですけど」
田島さん、日暮先生とわちゃわちゃしていると、
「小日向さん、氷室には渡さなくていいの?」
と、不意に犀川さんに声をかけられた。
「え?」
「え、じゃなくて。まさか、用意してないわけじゃないんでしょ?」
「あ、そうでした」
「忘れてたの……?」
信じられないものを見ている顔をする犀川さんの横で、カバンをごそごそと漁る。
「――先輩!」
冬馬先輩のデスクに歩み寄った。
彼は、ピタッとキーボードを叩く手を止めて、私を見上げる。
「先輩、いつもお世話になっているので」
丁寧にラッピングされたチョコを渡した。
先輩は、チョコを上面、側面、底面までじっと回して見ている。
なんか、スキャンされてるみたいだな、という感想が湧いた。
「……これ、いくらした?」
「え、プレゼントするときに値段を教えるのはちょっと」
「そうか」
納得したのかしてないのか、先輩は1人で頷いている。
喜んでもらえたのかな……?
一応「お腹が空いたときにでも食べてください」と声をかけ、席に戻った。
「なによ、氷室のやつ。全然動揺しないじゃない。つまんないわね」
「氷室ちゃんをコンテンツにするのやめな?」
「だって、小日向さんが絡んだ時のアイツ、面白いから」
「それはそうなんだけど」
「田島さんも納得しないでください」
観察していた犀川さんと田島さんのやり取りに苦笑しつつ、仕事に戻る。
そう、バレンタインと言えども仕事はあるし、チョコの受け渡しがあるからといって業務を止めるわけにもいかない。
祝祭があろうとなかろうと、編集部の日々は進む。
そして、いつも通りの残業。
私が新しい企画書をまとめていると、不意に、パキッという音がした。
音のしたほうを見ると、冬馬先輩が私のあげたチョコを噛み砕いている。
「美味しいですか?」
「ああ」
「よかった」
私はふと、ずっと思っていたことを口にした。
「先輩って、いつもプリンとかチョコとか、残業のときに食べますよね」
「ああ……人にものを食べているところを、あまり見られたくない」
「そうなんですね。私と一緒にいるときは、結構食べてる気がしてたから」
先輩の動きが、ピタッと止まる。
「……お前は特別だというのを、いい加減に自覚しろ」
「特別?」
「そう。高校時代から」
――その頃から、先輩は私以外をそばに置かなかった。
その事実を思い返すと、私は「……ん?」と引っかかるものがある。
「……先輩って、私のこと好きなんですか?」
「今更何を言っているんだ」
「言ってないからですよ!?」
「……」
先輩は「言ってなかったっけ……?」みたいな顔をしていた。
しかし、諦めたように、またチョコに視線を落とす。
「……来年は、手作りがいい」
「カカオからですか?」
「いや、湯煎でいい」
「あ、チョコを火にかけるやつですね」
「……いや待て。当日は俺も同席する」
「なんでですか?」
「お前、チョコを直接、火にかける顔をしている」
「え、違うんですか?」
「……俺も作り方を予習してくる」
そんな雑談をしながら、残った仕事を片付けて、いつも通り一緒に帰る。
この日々が、ずっと続けばいいと思った。
なお、その後ホワイトデーに先輩から高級マカロンを箱でもらい、「対価に見合ってないですよ!」とツッコむ羽目になる。