再会した冷徹上司は、私にだけ過保護です

第24話(最終話)いつもの帰り道

「――これが、みんなで作った本……」

 私は、印刷所から見本として送られてきた、1冊の本を手に取る。
 ――『著・日暮秋葉』と書かれた表紙は、冬馬先輩や日暮先生と悩みながら、ときに議論しながら作り上げた集大成だ。

「どうだ、小日向。自分が手掛けた本が、世界に生まれた瞬間は」

「すごく……夢みたいです。私、編集者になってよかった」

 私を見つめる先輩の目は、とても優しい。
 
 いよいよ、日暮先生の本が発売される。
 私と先輩は、2人で出版社近くの本屋さんに行ってみることにした。

『映画「渇望の温度」の原作者・日暮秋葉の最新作!』

 そんな手書きのポップが、平積みの本の手前に置かれている。

「なんか……すごいですね」

 私はヒソヒソと小さな声で先輩に話しかけた。
 なにしろ、本がどんどんお客さんの手に取られ、そのままレジへ運ばれていくのだ。

「達成感があるな」

 先輩が頷く。

「先輩と日暮先生が頑張ってくれたから、『可哀想な本』が生まれずに済んだんです」

 私の言葉に、先輩はフルフルと首を横に振った。

「お前がいてくれたからだ」

「え?」

「ずっと、日暮先生と本の方向性で揉めていた。お前がこの編集部に来てくれなかったら、ずっと平行線だった」

 ――私が、この本を世界に生み出す後押しができた、と先輩は言う。
 それが本当なら、すごく嬉しい。

「先輩、私たちも1冊買って帰りましょう」

「そうだな」

 平積みの本を1冊、手で持ち上げる。
 そのずっしりとした現実の重みに、笑みがこぼれた。

「私、このお仕事好きです」

 紙のカバーをつけてもらい、手に抱えながら、駅までの道をゆく。
 いつもと同じ、先輩との帰り道。

「お前は……」

 先輩は何かを言いかけて、ためらった。

「なんですか?」

「……お前は、ずっと編集部に残ってくれるか?」

 多分、色んな編集者さんが色んな道に別れていったのだろうと察せられた。

「未来のことは確約できませんけど」

 私は先輩の目をまっすぐ見つめる。

「私は、たとえ編集部をやめることになっても、ずっと先輩と一緒にいると思いますよ」

 無表情のまま、先輩の灰色の目が細められた。

「……小日向。本、カバンにしまえ」

「え?」

「……手が塞がってたら、繋げないだろう」

 私は、慌てて本をしまう。
 手を差し出すと、先輩がその手を取ってくれる。

 私の左手には、あのとき贈られた指輪が、変わらず光っていた。
< 24 / 34 >

この作品をシェア

pagetop