海から届いたお守り

進路と悩みと、突然の痛み

高校二年生になって、しばらく経った頃。

樹と凪沙は、進路について悩んでいた。

放課後。

二人はいつものように、おじいちゃんと凪沙、竜樹が暮らす家の居間で勉強をしていた。

机の上には教科書とノート。

その横には、進路について書かれたプリントが置かれている。

「樹は、卒業したらどうするん?」

凪沙が聞いた。

「まだ決めてない」

樹はプリントを見つめた。

「凪沙は?」

「私も……まだ分からん」

二人とも、なかなか答えが出なかった。

「高校二年生になったら、進路のことも考えんといけんけんな」

「うん……」

凪沙が小さく頷いた。

「やりたいことがあっても、どうしたらいいか分からんよな」

「そうやな」

二人で進路のプリントを眺めていた、そのときだった。

「……お腹、痛い」

凪沙が突然、お腹を押さえた。

「凪沙?」

樹が顔を上げる。

「大丈夫?」

「うん……」

そう答えたものの、凪沙の顔色がみるみる悪くなっていく。

今日は生理二日目だった。

普段から生理痛はある。

けれど、今日はいつもより明らかに症状がひどかった。

「……気持ち悪い」

凪沙が口元を押さえる。

「え?」

樹が慌てて立ち上がった。

凪沙も立とうとした。

けれど、足元がふらつく。

「凪沙!」

樹がすぐに支える。

「大丈夫?」

「……ふらふらする」

凪沙はその場にしゃがみ込んだ。

お腹の痛みだけではなかった。

吐き気もあり、お腹も下している。

額には冷や汗が浮かんでいた。

「凪沙、いつもよりひどい?」

樹が心配そうに聞く。

凪沙は小さく頷いた。

「うん……いつもより、ずっとひどい」

「……寝かせて」

「うん!」

樹はすぐに凪沙を支えた。

「無理せんでいいけん」

凪沙をゆっくり横に寝かせる。

「おじいちゃん、今日は?」

「海に出てるみたい……」

凪沙が苦しそうに答えた。

「そっか……」

樹は不安そうに時計を見る。

そのとき――。

玄関の扉が開いた。

「ただいま」

聞き慣れた声だった。

碧だった。

今日はたまたま、いつもより早く仕事が終わったのだ。

「母さん!」

樹が慌てて玄関まで走っていく。

「どうしたん?」

「凪沙が倒れた!」

碧の表情が変わる。

「凪沙ちゃんが?」

「うん。お腹がすごく痛いって言って、ふらふらして……吐き気もあって、寝込んでる」

「今どこ?」

「居間!」

碧は急いで居間へ向かった。

そこには、横になっている凪沙がいた。

顔色が悪く、額には冷や汗が浮かんでいる。

「凪沙ちゃん」

碧がすぐにそばへしゃがむ。

「大丈夫?」

「……碧さん」

「無理に起きんでいいよ」

凪沙は目を閉じたまま、小さく頷いた。

「今日は生理?」

「……二日目」

「いつもよりひどいん?」

「……うん」

「そっか」

碧は凪沙の様子を見ながら、落ち着いた声で言った。

「じゃあ、今はそのまま寝てていいよ」

「無理して起きんでいいけんね」

凪沙は苦しそうにしながらも、少し安心したように目を閉じた。

樹は凪沙のそばに座っている。

「母さん……」

「うん?」

「おじいちゃん、海に出てて今おらん」

「分かった」

碧は頷いた。

「今は私がおるけん」

「樹も、そんなに慌てんでいいよ」

「うん……」

けれど樹の顔から不安は消えなかった。

いつも元気な凪沙が、こんなふうに苦しそうに横になっている。

それが心配で仕方なかった。

進路の話をしていたはずなのに。

今は、そんなことを考える余裕もない。

樹は凪沙のそばを離れなかった。

外では海からの風が、庭を通り抜けていた。

おじいちゃんが海から帰ってくるまで――。

碧と樹は、凪沙のそばで静かに見守っていた。
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