ノンデリ男の敗北  ~モテる俺が法学部女子に告白したら「私は好きではありません」と普通に振られた~
2章:恋人編

第21話「俺、ずっと負けっぱなしだわ。」


「今は、佐藤くんが好きです。」

凛がそう言った。

「…………。」

何も言えなかった。

たぶん、人生で初めてだった。

思ったことはすぐ口に出る。
言わなくていいことまで口に出る。

そのせいで田中には何度も怒られたし、凛にも何度も呆れられた。

なのに。

「……佐藤くん?」

凛が俺を見上げた。

「……今、好きって言った?」

「はい。」

「俺を?」

「他に誰がいるんですか。」

「…………。」

また黙った。

なんか、この会話。

前にもした気がする。

あのときは俺が好きだと言って、凛に振られた。

『今、振った?』

『はい。』

『俺を?』

『他に誰がいるんですか。』

ほぼ同じ会話なのに、結果が真逆だった。

「佐藤くん?」

「待って。」

「はい。」

「今、めっちゃ頑張ってる。」

「何をですか。」

「喋るのを。」

凛が目を瞬いた。

「佐藤くんが?」

「俺が。」

自分でも信じられなかった。

女の子に好きだと言われるのは初めてじゃない。
告白されたことだって何度もあった。
どう返せばいいのか、考えなくても言葉が出てきた。

でも凛には、いつもそういうのが通用しなかった。

初めて会ったときも。
告白したときも。
連絡先を交換したときも。

俺の予想なんて、簡単に外れてきた。

そして今も。

「……じゃあさ。」

やっと声が出た。

「はい。」

「俺と付き合ってくれる?」

「そのつもりで言いました。」

「…………。」

「また黙るんですか。」

「いや、だって。」

思わず顔を手で覆った。

やばい。
めちゃくちゃ嬉しい。

「俺、今たぶん人生で一番嬉しい。」

「大げさですね。」

「大げさじゃないって。俺、凛ちゃんに一回振られてんだよ?」

「知っています。振ったのは私なので。」

「そうだけど。」

なんだか笑えてきた。
ずっと俺が追いかけていた。

好きだと言ったのも俺。
振られても諦めなかったのも俺。

それが今、凛から好きだと言われている。

「凛ちゃん。」

「はい。」

「好き。めちゃくちゃ好き。」

「知っています。」

凛の目元が少しだけやわらかくなった。
それだけで、また嬉しくなる。

「じゃあ、今日から彼女ってことだよな。」

「そうですね。」

「やば。めっちゃ嬉しい。」

「さっきも聞きました。」

「何回でも言うよ。俺、凛ちゃんのこと――」

言いかけたときだった。
凛が一歩、俺に近づいた。

「ん?」

俺が少しかがむと、凛は何か言いたそうに口を開いて、また閉じた。
それから少し迷ったあと。
俺の頬に、ほんの一瞬だけキスをした。



「…………。」

凛はすぐに離れた。
顔が赤かった。
たぶん、俺も同じくらい赤かったと思う。

「……佐藤くん?」

「…………。」

「佐藤くん。」

「……今、何した?」

「聞かないでください。」

「いや、待って。無理。ちょっと待って。」

「何が無理なんですか。」

「いろいろ。」

告白されて、何も言えなくなった。
やっと喋れるようになったと思ったら、今度はこれだった。
この子にはいつもそうだ。

俺の予想できないことをしてくる。

「……俺、ずっと負けっぱなしだわ。」

「何の話ですか。」

「凛ちゃんに会ってからの話。」

「私と何か勝負していましたか?」

「してないけど。」

「では、負けていないのでは?」

「いや。負けてんの。」

「よく分かりません。」

「俺は今、めちゃくちゃ分かった。」

俺は笑った。

「俺、こんなに誰かに調子狂わされたことない。」

「私、佐藤くんを振り回した覚えはありませんが。」

「そういうとこ。」

「どういうところですか。」

やっぱり凛は分かっていなかった。

モテるとか。
恋愛経験が多いとか。
女の子の扱いに慣れているとか。
そんなの、凛の前では何の役にも立たなかった。

好きになったのは俺が先。
振られたのも俺。
追いかけたのも俺。
嫉妬したのも俺。

それで最後には、たった一言で何も言えなくされて。
やっと立ち直ったと思ったら、今度はたった一回のキスで、また何も言えなくされた。
思ったことを何でも口にしてきた俺が。
凛の前でだけ、何度も言葉をなくした。

……ああ。

俺、完全に負け続けてんだ。
たぶんこれからも、凛には勝てない。
そのときの俺は、そんなことを考えていた。

まあ――。

付き合ってからのほうが、もっと負けることになるんだけど。

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