好きになる前に、恋人になった――いつか、君につながる

仕事じゃない約束

――奈緒――

ホテルの部屋。

見終わったドラマの余韻が、まだ少し残っている。
テレビを消すと、部屋が静かになった。

今日は土曜日。
日本ではまだ配信されていない中国ドラマを観たくて、上海出張を自費で一泊延ばした。

時計を見る。そろそろ出ないと。

今日は明さんーー小明とご飯だ。

小明は、呉凱のマネージャー。
最初はもちろん、仕事相手だった。

俳優本人の意向も、事務所として守るべきことも大切にする。でも、ただ押し通すわけではなく、難しいときには代案も出してくれる。

仕事がしやすい人だな、と思っていた。

まさか、ライブ会場でばったり会うとは思わなかったけれど。

ファンミーティングの翌日。
私は一人でJYLVOのライブに行った。上海に留学していたときから大好きなバンドだ。

終演後、人の流れに乗って歩いていると、見覚えのある顔があった。

え。

向こうもこちらに気づいて、2人とも足を止めた。

「你也来看JYLVO?」
(あなたもJYLVOのライブ?)

「对啊!怎么会在这里遇到你?」
(そうなの! なんでここで会うの?)

その瞬間、2人で笑った。

しかも、彼女も一人で来ていた。
そのまま飲みに行き、好きな曲やライブの話で盛り上がった。

仕事のやり取りだけではわからなかったけれど、小明はよく笑う人だった。

それで、今回また上海に来ると伝えたら、ご飯に行くことになった。

鏡を見ながら、髪を整える。

仕事相手だった人と、こうやって普通にご飯に行く。
ちょっと不思議で、だいぶ嬉しい。

バッグを手に取ろうとしたところで、スマホが震えた。

小明だ。

「不好意思,可以换个地方吗?有点情况。理由见面再说」
(ごめん、場所変えてもいい? ちょっと事情があって。理由は会ったときに話すね)

続けて、新しい店の住所が送られてくる。
どうしたんだろう。

「当然没问题!等会儿见」
(もちろん大丈夫! またあとでね)

送信。
場所はどこでもいい。小明とゆっくり話せれば。

部屋の灯りを消して、廊下へ出る。

2年前まで住んでいた上海。
東京へ戻ってからも、仕事で何度も来ている。

でも、今になってここで、新しく友達ができるなんて思ってなかった。

しかも、同じバンドが好きで。
2人とも一人でライブへ行くタイプで。
好きな曲の話になった途端、2人とも止まらなかった。

今日も、きっと楽しい。
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