君のとなり 〜約束の168〜

第45章 それぞれの場所で

大会前日の夜。

ベッドの中でスマホを握りながら、私は翔から届いたメッセージを何度も読み返していた。

『明日、頑張ろうな』

たったそれだけの言葉なのに、不思議と胸が温かくなる。

明日は、翔も大会。
私も大会。

同じ日に、それぞれ違う場所で戦う。

だから、応援には行けない。

『うん。翔も頑張ってね』

そう返すと、すぐに既読がついた。

『瑠夏もな。お互い、精一杯やろう』

その文字を見つめて、私は小さく笑った。

「……うん」

明日は、私も頑張ろう。

翔がいる場所で。

私がいる場所で。

それぞれが、自分の力を出し切るために。

*

大会当日。

会場の空気は、いつもとは違っていた。

張り詰めた緊張感。

周りから聞こえてくる声。

演技を終えた選手たちの表情。

私は深く息を吸った。

大丈夫。

今日まで練習してきた。

何度も繰り返してきた。

だから――

私は、私の演技をする。

翔も、きっと今頃。

自分の競技に集中している。

そう思うだけで、少しだけ勇気が湧いた。

*

そして、翔もまた。

走高跳の競技エリアで、静かにバーを見つめていた。

助走の距離を確認する。

一度、深く息を吐く。

周囲の声が遠くなる。

今は、自分との勝負。

助走。

踏み切り。

身体が宙へ浮く。

――バーを越えた。

歓声が上がる。

翔は着地すると、静かに息を吐いた。

まだ終わっていない。

次の高さへ。

翔はその高さを成功させた。

その瞬間、会場から大きな拍手が起こった。

翔は、ほんの少しだけ空を見上げた。

そして心の中で呟く。

瑠夏も、頑張ってるかな。

*

すべての競技が終わった。

結果が発表される。

私は掲示板の前で、自分の名前を探した。

そして――

そこにあった名前を見つけた瞬間、息を呑んだ。

優勝。

「……私……?」

信じられなくて、何度も見返す。

市内大会、優勝。

そして、県大会への出場が決まった。

胸の奥から、じわっと喜びが込み上げてくる。

嬉しい。

でも。

その瞬間、真っ先に思い浮かんだのは――翔だった。

翔も、どうだったかな。

スマホを取り出す。

すると、ちょうど通知が届いた。

『優勝した』

短いメッセージ。

私は思わず笑ってしまった。

『私も優勝したよ』

送信。

すぐに既読がつく。

『マジ? おめでとう』

『翔も、おめでとう』

少しして、またメッセージが届いた。

『じゃあ、二人とも県大会だな』

その文字を見つめながら、私は胸の奥が熱くなるのを感じた。

同じ場所にはいなかった。

お互いの頑張っている姿も、直接見ることはできなかった。

それでも――

同じ日に。

それぞれの場所で。

私たちは、一緒に頑張った。

『うん。県大会も頑張ろうね』

送信すると、翔から返事が来た。

『もちろん』

たった一言。

なのに。

その言葉が、今の私には何より嬉しかった。
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