むすび洋菓子店 ―人との縁と縁をつなぐ―

同窓会の知らせ

「ごちそうさまでした」

 秀は空になった皿を見つめて、笑った。

「美味しかったです」

「ありがとうございます」

 結月は笑顔で答えた。

 隣では、由美も食べ終えていた。

「私も美味しかったです。素敵なお店ですね」

「ありがとうございます。また湯布院に来たときは、ぜひ寄ってください」

「はい」

 二人は会計を済ませ、店の扉へ向かった。

 カラン――。

「ありがとうございました」

 結月は笑顔で二人を見送った。

 扉が閉まる。

 二人の姿が見えなくなったところで、結月は小さく息を吐いた。

「……秀」

 誰もいない店内で、その名前を口にする。

 すると、ポケットの中のスマートフォンが鳴った。

「もしもし?」

『結月? 今、大丈夫?』

 聞き慣れた声。

「瑠璃ちゃん?」

『そう! 久しぶり』

「どうしたの?」

『同窓会のことなんだけどね』

「同窓会?」

『うん。大分市のホテルでやることになったの』

 結月は少し驚いた。

「そうなんだ」

『一つのクラスだけで集まるんよ。福祉科のクラス。二十六人』

「二十六人かあ……懐かしいね」

『でしょ? 結月も来るよね?』

「どうしようかな……」

『お願い。一緒に行こうよ』

 瑠璃の声に、結月は思わず笑った。

「瑠璃ちゃんがそこまで言うなら……行こうかな」

『ほんと? よかった!』

「いつなの?」

『今度の土曜日』

「分かった」

『それとね、もう一つお願いがあるんだけど』

「何?」

『ケーキ、作ってきてほしい』

「ケーキ?」

『うん。みんなで食べたいって話になって』

「何のケーキ?」

『チーズケーキとチョコレートケーキ』

 結月は少し考える。

「二種類かあ……」

『二十六人分だから大変だよね』

「ううん。作るよ」

『ほんと? ありがとう!』

 結月は笑った。

「じゃあ、前の日に作っておくね」

『お願いね』

 しばらく二人で話していた。

 そして、電話を切ろうとしたとき。

『あ、そうそう』

「ん?」

『秀も来るよ』

「……え?」

 結月の声が止まった。

『秀。覚えてるでしょ?』

「……うん」

 忘れるはずがない。

 今日、何年ぶりかに会った人。

 自分の店でチーズケーキを食べて、

 「懐かしい味」

 と言った人。

 そして、その隣には由美がいた。

『久しぶりにみんなで会えるね』

「……そうだね」

 結月はできるだけ普通に答えた。

『じゃあ、土曜日ね!』

「うん。またね、瑠璃ちゃん」

 電話が切れる。

 静かな店内。

 結月はスマートフォンを握ったまま、しばらく動けなかった。

「……秀も来るんだ」

 胸の奥が、少しだけ痛む。

 会いたい。

 でも、会いたくない。

 あのとき、彼の隣にいた女性。

 由美。

 彼女が秀にとって、どんな人なのか。

 聞く勇気はなかった。

 結月はショーケースのチーズケーキを見る。

 高校生の頃、秀が好きだと言ってくれた味。

「……今度は、みんなのために作ろう」

 そう呟いた。

 けれど心の奥では、別のことを考えていた。

 ――秀は、私のことを覚えているのかな。

 その答えを知ることになるのは、まだ少し先だった。
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