ソラはまだ空を知らない
プロローグ
「またゲームしてるの?」
返事はない。
リビングのソファに寝転がった娘は、両手でゲーム機を握ったまま、せわしなく指を動かしている。
小さな画面の中では、巨大な人型兵器がビルの谷間を飛び回っていた。
銃声。
爆発。
耳障りな警告音。
ずいぶん派手なゲームだ。
「聞いてる?」
「聞いてるー」
「じゃあやめなさい」
「あと一戦!」
「昨日も聞いた、それ」
「今日は本当にあと一戦だから!」
私はため息をついた。
まったく。
誰に似たんだろう。
そう考えてから、たぶん私なんだろうな、と気づく。
窓の向こうへ目をやった。
夏の空が広がっている。
白い雲がゆっくり流れ、庭の木々が風に揺れていた。
近所の子どもたちが、汗だくになって走り回っている。
「せっかく外で遊べるんだから、ゲームばっかりしてたらもったいないよ」
「暑いもん」
「子どもは暑くても外で遊ぶものなの」
「古い」
「……誰にそんな言葉教わったの?」
「学校」
「先生に言いつけるよ」
「先生も言ってた」
「最近の学校は……」
私が呆れていると、娘がようやくゲーム機から顔を上げた。
「ねえ、お母さん」
「なに?」
「お母さんもゲームしてたんでしょ?」
「まあね」
「上手かった?」
「そこそこ」
「どれくらい?」
少し考える。
「結構かな」
「なにそれ」
「結構は結構」
「絶対弱かったでしょ」
「失礼な」
娘は笑って、またゲームへ戻った。
私はもう一度、窓の外を見る。
青い空は、どこまでも広がっていた。
あの頃の私は、何も知らなかった。
世界がこんなに広いことも。
自分の名前が、こんなにも広いものだったことも。
何も知らない、ただの子どもだった。
ただゲームが好きで。
ゲームなら誰にも負けないと思っていた。
だからその日も私は――
いつものように、ゲームを始めた。
返事はない。
リビングのソファに寝転がった娘は、両手でゲーム機を握ったまま、せわしなく指を動かしている。
小さな画面の中では、巨大な人型兵器がビルの谷間を飛び回っていた。
銃声。
爆発。
耳障りな警告音。
ずいぶん派手なゲームだ。
「聞いてる?」
「聞いてるー」
「じゃあやめなさい」
「あと一戦!」
「昨日も聞いた、それ」
「今日は本当にあと一戦だから!」
私はため息をついた。
まったく。
誰に似たんだろう。
そう考えてから、たぶん私なんだろうな、と気づく。
窓の向こうへ目をやった。
夏の空が広がっている。
白い雲がゆっくり流れ、庭の木々が風に揺れていた。
近所の子どもたちが、汗だくになって走り回っている。
「せっかく外で遊べるんだから、ゲームばっかりしてたらもったいないよ」
「暑いもん」
「子どもは暑くても外で遊ぶものなの」
「古い」
「……誰にそんな言葉教わったの?」
「学校」
「先生に言いつけるよ」
「先生も言ってた」
「最近の学校は……」
私が呆れていると、娘がようやくゲーム機から顔を上げた。
「ねえ、お母さん」
「なに?」
「お母さんもゲームしてたんでしょ?」
「まあね」
「上手かった?」
「そこそこ」
「どれくらい?」
少し考える。
「結構かな」
「なにそれ」
「結構は結構」
「絶対弱かったでしょ」
「失礼な」
娘は笑って、またゲームへ戻った。
私はもう一度、窓の外を見る。
青い空は、どこまでも広がっていた。
あの頃の私は、何も知らなかった。
世界がこんなに広いことも。
自分の名前が、こんなにも広いものだったことも。
何も知らない、ただの子どもだった。
ただゲームが好きで。
ゲームなら誰にも負けないと思っていた。
だからその日も私は――
いつものように、ゲームを始めた。
