マッチングした相手は片想いの社長でした
「初対面の人に那奈は渡せない」

「そんな……」

その時だった。

春樹さんが私の腕にそっと触れた。

「帰ろう、那奈」

「でも春樹さん……」

怒っていると思った。

こんな扱いをされて、もう来たくないと思ったんじゃないかって。

けれど春樹さんの顔に怒りはなかった。

むしろ、どこか納得したような穏やかな顔をしていた。

私を連れて出口へ向かいかけた春樹さんが、ふと足を止める。

そして父を振り返った。

「また来ます、お父さん」

「……え?」

驚いたのは、父より私だった。

春樹さんはほんの少し笑った。

拒絶されたのに。

帰れと言われたのに。

それでも逃げない。

――ああ、この人は本当に私と結婚するつもりなんだ。

父に認めてもらうまで、何度でもここへ来るつもりなんだ。

私は春樹さんの隣に立ち、その横顔を見上げた。

左手の薬指で、指輪が小さく光っていた。
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