高嶺の花も恋をしたい!
 その後は正直忘れていた。実家のことを忘れていたわけではないが、まだまだ夏成でやりたいことがいっぱいで、目の前のことしか考えていなかったのだ。

 だが、柏原邸のリノベーションとなると……。

「なるべく早く話さないとな……」

 そう考えていると、スマホが明るくなり、メッセージを受信したことに気づいた。

『こっちに帰ってこられないか? 新しいプロジェクトの件で話がある』

 この話が何なのか、聞かなくてもわかった。

 今まさに話題になったところだったからだ。

『それからお前、彼女に何も言ってないのか?』

 うっ……言ってない。マジでまずいな、これは……。

 毎日馬車馬のように働いて、休日返上で業務にあたっているというのに、これからはさらに忙しくなりそうだ。

 そう思っていたら、新たに違うメッセージが。

『話があるから一度帰ってきなさい』

 母親だ。親からの呼び出しでいい事なんてあるだろうか。……絶対にない。
 おそらく再三にわたって催促されているあの話だろう。
 『はいはい』とあいまいな返事のスタンプを返しておく。
 
「ハァ……全く、花緒に会えないくらい忙しいってのに、勘弁してくれよ……」

 にわかに周りが騒がしくなり、俺は憂鬱な気分でウイークリーマンションの狭いベッドの上に転がった。

 自宅のベッドが恋しい。花緒の艶やかな髪に触れながら、彼女を抱き枕にして眠れたらいいのに。

 何としても早く仕事を片付けてしまおう。
 そう心に誓いながら眠りについた。



 この時の俺は、これから怒涛の展開に巻き込まれることになるとまだ気づいていなかった――。



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