天才外科医の密かなる執愛~傾国の微笑は運命を耽美に狂わせる~
「生活を合わせろとか言うつもりもない。しばらくはそれぞれのペースで暮らそう。俺はだいたい週六で病院だし、呼び出されることも多いから。まあ、休みの日は……俺が食事を作ってもいいし」

(彼が食事を作ってくれるの……?)

あまりにも好待遇で動揺する。

姉の仇と横暴な婚約――あれをしろこれをしろと、こき使われるのではないかと想像していたのだが。

この男はいったいなぜ自分を娶ったのだろう。たいして美人でもない、特殊な技能を持つわけでもない、療養中でなんの力にもなれない女と、どうしてわざわざ婚約したのだろうか。

「……滝沢さんが妻に望むものはなんですか?」

階段を下りたところで尋ねると、彼は能面のような無表情を張り付かせたまま、「望むって?」と尋ね返してきた。

「私との結婚を承諾したのはどうしてですか? なにかしてほしいこととか、妻に求めていることとか――」

「そんなもの、ない」

あまりにもスンとした返答が来て、今度こそ仰天する。

「それと、藍衣はなにか誤解してる」

「誤解?」

「俺が結婚を承諾したって言ってたけど、それは違う。俺から藍衣を婚約者に指名した」

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