キミがいたから。
私が私でいるために
───翌朝。
なんだか眠れなくて私はいつもより早く学校へ来ていた。
いつもガヤガヤと賑わっている教室にはまだ数人しかいない。
鞄を机に置き、席に座る。
昨日、爽に言われた言葉が頭から離れなかった。
『一人で決めつけないでよ』
あの言葉には、何か意味があったのだろうか。
でも、聞く勇気はなかった。聞いたところで何かが崩れたら?嫌な顔されたら?…私にはとてもその勇気がなくて…
「燈、おはよう」
「……美桜」
美桜が隣の席に座る。
「昨日、爽と何か話した?」
「うん。でも……私、逃げちゃった」
「そっか」
美桜は少し困ったように笑った
そのとき。
「ねえ、二人とも」
クラスの女子が近づいてきた。
「この前の爽の噂なんだけどさ」
私の心臓がうるさいくらいに跳ねる。
「実は、違ったみたい」
「……え?」
美桜も顔を上げる。
「爽に好きな人がいるって話、聞いたんだけど……どうも話が変わってたらしくて」
「どういうこと?」
「爽が“最近よく話す子がいる”って友達に話したらしいの。それを聞いた子が、“爽には好きな人がいる”って勘違いしたんだって」
燈は何も言えなかった。
──好きな人がいる。そう思っていた。
でも、それは、ただの噂だった。
「……じゃあ」
私の声が震えながらも私の心臓が嘘みたいに穏やかになって。
「爽に……好きな人がいるっていうのは……」
「分からない。少なくとも、本人から聞いたわけじゃないよ」
私は思わず俯いた。そっか、あの噂が事実じゃないってだけで好きな人はいるかもしれないのか…
でも、それでも…今は大丈夫。今まで胸の奥にあった重いものが、少しずつほどけていく。
でも同時に。
別の気持ちが込み上げてきた。
――私、何してたんだろう。
勝手に傷ついて、勝手に距離を取って…爽まで傷つけてしまった。
───放課後。
私は一人で廊下を歩いていた。窓の外には、少し赤くなった木々。
秋の夕暮れが、校舎を静かに染めている。
すると
「燈」
背後から声がして振り返る。
そこには爽がいた。
「……爽」
昨日と同じ。けれど今日は、燈のほうから逃げなかった
「少し、話していい?」
「……うん」
2人は人の少ない廊下の窓際に並んだ。