キミがいたから。
第3章
流れるウワサ
長かったはずの夏休みは気付いたらもう過ぎて、いつの間にか秋の匂いがする季節へ移り変っていた。
──朝の風が以前より涼しくなり、教室の窓から入ってくる風に、燈は小さく肩をすくめる。
「燈、おはよう」
「おはよう、爽」
いつもの朝───爽はいつもと変わらない笑顔で、私に声をかけてくれた。
それだけで、燈の顔にも自然と笑みが浮かぶ。以前の自分なら、こんなふうに誰かと話すことすらできなかった。
美桜と友達になって、クラスの人とも少しずつ話せるようになって。
そして何より――爽と過ごす時間が増えた。私にとって、爽太郎は特別な存在になっていたよ
…けれど、私は自惚れていたのかもね。聞きたくなかった言葉が、耳を塞ぎたくなる苦しい言葉が…私の耳に届いてしまう。
───その日の昼休み。
「ねえ、知ってる?」
ふと女子たちの声が聞こえてきた。
「爽のこと?」
「…っ」
“爽”ってあだ名を聞く度に切なく動くこの心臓。ドキドキと少し聞き耳を立てたけど、次に続く言葉は私の心臓を凍てつかせるのには十分すぎる言葉だった。
「そう。爽って好きな人いるらしいよ」
───私の手が体温を失ったように止まった。
「え……」
思わずもっと聞き耳を立ててしまう。
「なんか…前から仲良くしてる子がいるんだって」
「え、誰?」
「それが分かんないんだよね。でも、爽がその子のこと好きらしいって」
───心臓が、嫌な音を立てた。
――爽の好きな人…
その4文字が頭から離れない。
「……そっか。そう、だよね…」
燈は小さく呟いた。
胸の奥が、急に冷たくなっていくのを感じて、考えてみれば当然だった。
爽は優しくて、明るくて、誰からも好かれている。そんな人に好きな人がいないほうがおかしい。
そして、その相手はきっと――。
自分なんかとは正反対の女の子。
明るくて、可愛くて、自信があって。
爽の隣に立っても、誰にも不釣り合いだと思われない人。
私は自分の胸元をぎゅっと握った。
――私じゃ、ない…
期待はしていなかった。釣り合うって思ってなかった。だけどいざ目の当たりにするとすごく重くなって苦しくなってしまう
爽の隣に似合う人も、爽の好きな人も。
そう思った瞬間…今まで温かかった爽との時間が、急に遠く感じた。