青く、淡い、フィルターの向こう側  -あの頃、好きと言えなかった君と大学で再会した-

⑧蒼く、深い、瞳の奥

早朝の透明感あるエモーショナルな画を撮りたいという夏希の要望で、二人は人気のない公園にきていた。
身震いするほどの寒さの中、由紀は朝の日差しに向かって手を伸ばす。
やはり自分の手はエモさを壊すのではないだろうか。

「こんなんでいいのかなぁ……」

光にかざしても大して美しくはない。
自分の目にはそう映り、眉尻を落として夏希に視線を移す。

押し切られるかたちで頷いたものの、夏希は興醒めしないのだろうか。

「骨太いし、華奢な子と並べたらもはや武人だよ」

すると夏希はスマホの角度を何度も変え光源を集めながら白い息を溢す。

「武人に失礼やろ。剣ダコならぬペンダコすら出来とらんやんか」

「そうかもしれんけど男らし過ぎて」
「まだ言う?」

「やって、こういう指はアレじゃん。指輪が似合わんって言われるタイプの指やし……」

自分の指に対する不平不満が次々に溢れる。
それに痺れを切らしたのか夏希はいったんスマホを上着に仕舞い込んでしまった。

グダグダ言いすぎたかな?
慌てて口を紡いだが、しかし夏希は唐突に由紀の手を取る。

「えっ……」

手首に触れた手に優しく引き寄せられ、その瞬間ひんやりとした感触に思わず声が上擦った。

何が起きているのだろう。そんな風に目を瞬いているうちに、柔らかな低い声が宥めるように紡ぐ。

「全然違うやろ」

固定された由紀の手の隣には、比較するように夏希の手が並べられていた。
血管が浮き出る男性らしい骨ばったゴツい手。

これは、やばい。
心臓がもたない。

胸の高鳴りから逃げるように視線を彷徨わせ呟いた。

「ごめん……あんまし変わらん」

「いや、明らかに違うやろ」

夏希は告げるなり手を重ねる。
またやってしまった。

恥ずかしさから逃げようとしたのは間違いだ。

「ほらな。由紀の目ぇが曇っとるだけやん」

ムキになった夏希によって、先ほどよりも恥ずかしいことになっている。
由紀の心音はひっきりなしに胸を打ち、ついに耳まで赤くなる始末。

もはやお手上げ。
降伏するように吐息を逃した。

「……照れただけじゃん」

なんで追撃してくるんだ、と意味を込めて。
すると戦犯であるはずの夏希が僅かに目を瞠って固まった。

その表情の変化に対し“無意識だったのかよ”とツッコミたいが残念ながら声は出ない。

互いに見つめあったまま気不味い沈黙が落ちた。

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