勇者として異世界召喚されたら、転生聖女に恋人と作ったカフェを丸ごとパクられていたので、反省するまで魔王討伐はしません
勇者は魔王討伐を拒否した
「二人きりで話をさせてください」
ミレーヌがそう申し出た。
国王は難色を示したものの、怜司は了承した。ただし昨日召喚されたばかりの男の勇者と、国の聖女を完全に二人きりにするわけにもいかない。
王城の応接室を使い、何かあった場合に備えて騎士を扉の外に待機させることになった。
怜司が先に部屋へ入り、ミレーヌが続く。
騎士が扉を閉めた。
その途端だった。
「――アンタッ、余計なこと言うんじゃないわよ!」
先ほどまでの聖女らしい口調が消えた。
「いくらアンタがたいやきくんカフェを知ってたからって、この世界に知的財産権なんて法律はないんだからね!?」
ミレーヌの剣幕にも怜司は動じない。
「確かにこんな中世ヨーロッパ風のファンタジー世界に、現代日本ほど整備された法体系はないかもしれない。それでも、僕たちが作ったカフェが、あんな雑な模倣被害に遭ってるのを見過ごせるわけがない」
「へ? 作ったって……そういえば、さっきもそんなこと言ってたけど」
ミレーヌは怜司をまじまじと見つめた。
この世界の男性貴族用の流行服に着替えているが、薄茶色の髪に緑の目。穏やかで品のある顔立ち。見るからに人に好かれやすい優男である。
昨日召喚されたときには、ずいぶん容姿の整った勇者が来たものだと思った。
だが、それどころではないことに気づいた。
「ヒィッ!」
ミレーヌが後ずさった。
「あ、あんたまさか、高瀬怜司? 本物の!?」
「最初からそう名乗っているけど」
「本名言いたくないから有名人の名前使ったとか思ってた!」
「失礼な。生まれてから今までずっと高瀬怜司本人だが?」
「ひぃぃ……まさか日本のイー◯ン・マスクとか言われてた、あのビジネスモンスター様ご本人!?」
怜司の片眉が上がった。
「へえ。君、どうやら僕のいた世界と同じ世界から来たのかな?」
「…………」
にっこりと品よく微笑まれ、ミレーヌは黙った。
逃げ道がなくなった。
「日本、という言葉も出たね」
「……言いましたね」
「現代日本の知的財産権についても知っている」
「……知ってますね」
「僕のことも知っている」
「知ってます……たまに読んでた雑誌とかテレビとか出てるの見てました……別にファンじゃなかったけど……」
「では、『神の啓示でたいやきカフェを思いついた』という話から聞かせてもらおうか」
「…………」
「この世界の神様は、僕たちの店をずいぶん細かく知っていたみたいだね」
「ごめんなさい!」
ミレーヌは勢いよく頭を下げた。
「やっぱり模倣パクりなんだね?」
「はい! 間違いないです!」
白状するのも早かった。
「僕、恋人がたまになろう系読んでて。僕も流行は押さえてたから、こういうときどうするか知ってるよ。やらかした転生聖女相手に……さて、どう〝わからせ〟て、どんな〝ざまぁ〟を下そうか?」
怜司がつぶやく。
処刑かな。火炙りとかギロチンとか。
「マジでごめんなさいいいいぃ!!!」
勢いよく土下座するミレーヌを見下ろす怜司の目は、ひたすら冷たかった。
話を聞いてみれば、ミレーヌはもともと日本で働いていた会社員だった。
ごく普通のOLとして働き、ある日突然命を落とした。
次に意識を取り戻したときには、この世界で暮らす平民の少女になっていたという。
しかも成長するにつれて聖属性の魔力に覚醒し、教会から聖女として認定された。
この国の王都教会に引き取られて、王族相手にも通用するマナーと教養を叩き込まれることになった。
前世の記憶を持ったまま、魔法のある異世界で聖女になったのだ。
そこで彼女は思った。
これは、あれではないか。
異世界転生、しかも聖女。ちゃんと聖なる魔力も持ってるやつ。
ならば前世知識を活用して、チート無双できるのではないか。
「最初はいろいろ考えたのよ。美容品とか、服とか、料理とか。でも石鹸なんか普通にあったし、マヨネーズもケチャップもソースも似たような調味料があったし、服なんて作り方わかんないし」
「だろうね。この世界、それなりに産業化されてて、比較的高度な文明を築いてるみたいだし」
「そうなんです! OLが現代日本に住んでたからって、何でも一から作れるわけじゃないのよ!」
怜司は頷いた。自分も同じ立場ならできることが少なくて、最初はかなり右往左往しただろう。
「だから、自分が詳しく知ってて、実際に利用してたものにしようと思って……」
ミレーヌの声が小さくなる。
「転生前、会社の近くにたいやきくんカフェがあったの」
「…………」
「ランチとか、仕事帰りとか、休日にも通ってました」
「客だったんじゃないか」
「客でした! たいやきくんの背景とかはそこまで詳しくなかったけど、お店自体はすごく好きで」
「それで店ごとパクったの?」
「言い方!」
「他にどう言えばいいんだ」
ミレーヌは反論できなかった。
前世では、平日の出勤日には毎日通うほどの、たいやきくんカフェのファンだった。
赤い鯛のキャラクターが可愛くて、限定商品が出れば買い、季節限定メニューが始まれば食べに行ったものだ。
もし会社員から脱サラするなら、こういうカフェがいいなあ……と思ったこともある。
だから異世界で商売を始めると決めたとき、真っ先に思い浮かんだのがその店だった。
「だって、もう二度と元の世界に戻らないと思ったのよ! 転移じゃなくて転生だったし! この世界にたいやきくんカフェなんてないし、誰も知らないし!」
「だからパクってもばれないと思った?」
「……はい」
「清々しいほど認めるね」
「経営者本人が異世界転移してきてバレるなんて普通思わないでしょ!?」
ミレーヌがテーブルを叩いた。
「異世界よ!? 転生したのよ!? 普通、権利者が追いかけてくると思う!?」
「僕だって追いかけてきたわけじゃない。勝手に召喚されたんだよ」
「なんでよりによってアンタなのよおおお!」
「僕に言われても困る」
扉の外でノック音がした。
待機している騎士が、中へ踏み込むべきか迷っているらしい。
「大丈夫です。話し合いをしています」
怜司が扉越しに伝えると、外が静かになった。嘘ではない、ただちょっとだけ白熱しているだけだ。
「それで? あの偽たいやきくんも君が描いたの?」
「……そうよ」
「やっぱり」
「何よ、その納得した顔!」
「いや。元のデザインを知っている人間が、どうしてあそこまで微妙に怖く描けるのか不思議だったから」
「絵が下手なのよ!」
「あれを商品展開した勇気は評価する」
「褒めてないでしょ!?」
「もちろん」
怜司はピンク髪の頭を抱えるミレーヌを冷たく見下ろした。
しかし、これで事情はほぼ明らかになった。
神の啓示などではない。前世でたいやきくんカフェを利用していた元OLが、異世界転生を機に前世知識チートを思いつき、記憶を頼りに店舗を再現しただけだ。
店名も商品構成もほぼそのままで、キャラクターのたいやきくんの顔が微妙に怖いことだけが違う。
「事情はわかった」
「じゃあ……」
「国王陛下にも、今話したことを説明してもらおう」
「なんでよ!」
「なんでって、神の啓示だと偽って国家規模で事業を展開したんだろう?」
「そこまで言わなくてもいいじゃない!」
「僕は君の共犯者になるつもりはないよ」
「魔王は!? 魔王討伐はどうするのよ!?」
「だから言っただろう」
怜司は椅子から立ち上がった。
「この問題が解決するまで協力しない」
「国が滅びるかもしれないのよ!?」
「それは国王陛下と君が考えることじゃない?」
「勇者でしょ!?」
「昨日なったばかりの他人だよ」
怜司は扉へ向かった。
「待って! 本当に待って!」
「待たない」
「せめて一緒に言い訳考えて!」
「嫌だよ」
「あんたビジネスモンスターって言われてめちゃくちゃ仕事できる男なんでしょ! なんか雑誌で読んだことあるわ! なんとかしてよ!」
「まずパクったことを君が反省しなよ」
怜司が扉を開けると、外で待っていた騎士たちが一斉に姿勢を正した。
「お待たせしました。話はまとまりました」
「まとまってないわよ!」
応接室から聖女の悲鳴が響いたが、怜司は構わず国王の元へ向かうと騎士たちに告げるのだった。
ミレーヌがそう申し出た。
国王は難色を示したものの、怜司は了承した。ただし昨日召喚されたばかりの男の勇者と、国の聖女を完全に二人きりにするわけにもいかない。
王城の応接室を使い、何かあった場合に備えて騎士を扉の外に待機させることになった。
怜司が先に部屋へ入り、ミレーヌが続く。
騎士が扉を閉めた。
その途端だった。
「――アンタッ、余計なこと言うんじゃないわよ!」
先ほどまでの聖女らしい口調が消えた。
「いくらアンタがたいやきくんカフェを知ってたからって、この世界に知的財産権なんて法律はないんだからね!?」
ミレーヌの剣幕にも怜司は動じない。
「確かにこんな中世ヨーロッパ風のファンタジー世界に、現代日本ほど整備された法体系はないかもしれない。それでも、僕たちが作ったカフェが、あんな雑な模倣被害に遭ってるのを見過ごせるわけがない」
「へ? 作ったって……そういえば、さっきもそんなこと言ってたけど」
ミレーヌは怜司をまじまじと見つめた。
この世界の男性貴族用の流行服に着替えているが、薄茶色の髪に緑の目。穏やかで品のある顔立ち。見るからに人に好かれやすい優男である。
昨日召喚されたときには、ずいぶん容姿の整った勇者が来たものだと思った。
だが、それどころではないことに気づいた。
「ヒィッ!」
ミレーヌが後ずさった。
「あ、あんたまさか、高瀬怜司? 本物の!?」
「最初からそう名乗っているけど」
「本名言いたくないから有名人の名前使ったとか思ってた!」
「失礼な。生まれてから今までずっと高瀬怜司本人だが?」
「ひぃぃ……まさか日本のイー◯ン・マスクとか言われてた、あのビジネスモンスター様ご本人!?」
怜司の片眉が上がった。
「へえ。君、どうやら僕のいた世界と同じ世界から来たのかな?」
「…………」
にっこりと品よく微笑まれ、ミレーヌは黙った。
逃げ道がなくなった。
「日本、という言葉も出たね」
「……言いましたね」
「現代日本の知的財産権についても知っている」
「……知ってますね」
「僕のことも知っている」
「知ってます……たまに読んでた雑誌とかテレビとか出てるの見てました……別にファンじゃなかったけど……」
「では、『神の啓示でたいやきカフェを思いついた』という話から聞かせてもらおうか」
「…………」
「この世界の神様は、僕たちの店をずいぶん細かく知っていたみたいだね」
「ごめんなさい!」
ミレーヌは勢いよく頭を下げた。
「やっぱり模倣パクりなんだね?」
「はい! 間違いないです!」
白状するのも早かった。
「僕、恋人がたまになろう系読んでて。僕も流行は押さえてたから、こういうときどうするか知ってるよ。やらかした転生聖女相手に……さて、どう〝わからせ〟て、どんな〝ざまぁ〟を下そうか?」
怜司がつぶやく。
処刑かな。火炙りとかギロチンとか。
「マジでごめんなさいいいいぃ!!!」
勢いよく土下座するミレーヌを見下ろす怜司の目は、ひたすら冷たかった。
話を聞いてみれば、ミレーヌはもともと日本で働いていた会社員だった。
ごく普通のOLとして働き、ある日突然命を落とした。
次に意識を取り戻したときには、この世界で暮らす平民の少女になっていたという。
しかも成長するにつれて聖属性の魔力に覚醒し、教会から聖女として認定された。
この国の王都教会に引き取られて、王族相手にも通用するマナーと教養を叩き込まれることになった。
前世の記憶を持ったまま、魔法のある異世界で聖女になったのだ。
そこで彼女は思った。
これは、あれではないか。
異世界転生、しかも聖女。ちゃんと聖なる魔力も持ってるやつ。
ならば前世知識を活用して、チート無双できるのではないか。
「最初はいろいろ考えたのよ。美容品とか、服とか、料理とか。でも石鹸なんか普通にあったし、マヨネーズもケチャップもソースも似たような調味料があったし、服なんて作り方わかんないし」
「だろうね。この世界、それなりに産業化されてて、比較的高度な文明を築いてるみたいだし」
「そうなんです! OLが現代日本に住んでたからって、何でも一から作れるわけじゃないのよ!」
怜司は頷いた。自分も同じ立場ならできることが少なくて、最初はかなり右往左往しただろう。
「だから、自分が詳しく知ってて、実際に利用してたものにしようと思って……」
ミレーヌの声が小さくなる。
「転生前、会社の近くにたいやきくんカフェがあったの」
「…………」
「ランチとか、仕事帰りとか、休日にも通ってました」
「客だったんじゃないか」
「客でした! たいやきくんの背景とかはそこまで詳しくなかったけど、お店自体はすごく好きで」
「それで店ごとパクったの?」
「言い方!」
「他にどう言えばいいんだ」
ミレーヌは反論できなかった。
前世では、平日の出勤日には毎日通うほどの、たいやきくんカフェのファンだった。
赤い鯛のキャラクターが可愛くて、限定商品が出れば買い、季節限定メニューが始まれば食べに行ったものだ。
もし会社員から脱サラするなら、こういうカフェがいいなあ……と思ったこともある。
だから異世界で商売を始めると決めたとき、真っ先に思い浮かんだのがその店だった。
「だって、もう二度と元の世界に戻らないと思ったのよ! 転移じゃなくて転生だったし! この世界にたいやきくんカフェなんてないし、誰も知らないし!」
「だからパクってもばれないと思った?」
「……はい」
「清々しいほど認めるね」
「経営者本人が異世界転移してきてバレるなんて普通思わないでしょ!?」
ミレーヌがテーブルを叩いた。
「異世界よ!? 転生したのよ!? 普通、権利者が追いかけてくると思う!?」
「僕だって追いかけてきたわけじゃない。勝手に召喚されたんだよ」
「なんでよりによってアンタなのよおおお!」
「僕に言われても困る」
扉の外でノック音がした。
待機している騎士が、中へ踏み込むべきか迷っているらしい。
「大丈夫です。話し合いをしています」
怜司が扉越しに伝えると、外が静かになった。嘘ではない、ただちょっとだけ白熱しているだけだ。
「それで? あの偽たいやきくんも君が描いたの?」
「……そうよ」
「やっぱり」
「何よ、その納得した顔!」
「いや。元のデザインを知っている人間が、どうしてあそこまで微妙に怖く描けるのか不思議だったから」
「絵が下手なのよ!」
「あれを商品展開した勇気は評価する」
「褒めてないでしょ!?」
「もちろん」
怜司はピンク髪の頭を抱えるミレーヌを冷たく見下ろした。
しかし、これで事情はほぼ明らかになった。
神の啓示などではない。前世でたいやきくんカフェを利用していた元OLが、異世界転生を機に前世知識チートを思いつき、記憶を頼りに店舗を再現しただけだ。
店名も商品構成もほぼそのままで、キャラクターのたいやきくんの顔が微妙に怖いことだけが違う。
「事情はわかった」
「じゃあ……」
「国王陛下にも、今話したことを説明してもらおう」
「なんでよ!」
「なんでって、神の啓示だと偽って国家規模で事業を展開したんだろう?」
「そこまで言わなくてもいいじゃない!」
「僕は君の共犯者になるつもりはないよ」
「魔王は!? 魔王討伐はどうするのよ!?」
「だから言っただろう」
怜司は椅子から立ち上がった。
「この問題が解決するまで協力しない」
「国が滅びるかもしれないのよ!?」
「それは国王陛下と君が考えることじゃない?」
「勇者でしょ!?」
「昨日なったばかりの他人だよ」
怜司は扉へ向かった。
「待って! 本当に待って!」
「待たない」
「せめて一緒に言い訳考えて!」
「嫌だよ」
「あんたビジネスモンスターって言われてめちゃくちゃ仕事できる男なんでしょ! なんか雑誌で読んだことあるわ! なんとかしてよ!」
「まずパクったことを君が反省しなよ」
怜司が扉を開けると、外で待っていた騎士たちが一斉に姿勢を正した。
「お待たせしました。話はまとまりました」
「まとまってないわよ!」
応接室から聖女の悲鳴が響いたが、怜司は構わず国王の元へ向かうと騎士たちに告げるのだった。


