イケメン男子は、天然美少女を一途に溺愛中。
そのときだった。

「白石」

聞き慣れた声がして、紬ははっと振り向いた。

人の流れの向こうに、湊が立っていた。

黒に近い紺色の浴衣。
いつもの制服姿とはまるで違うのに、静かな空気は変わらない。
でも、その姿を見た瞬間、紬は何も言えなくなった。

きれいだと思った。
かっこいい、では足りないくらい。

「……朝比奈くん」

やっと名前を呼ぶと、湊は少しだけ笑った。

「会えた」

そのひと言だけで、紬の胸がいっぱいになる。
自分だけじゃなかった。
会いたいと思っていたのは、きっと。

「来てたんだ」

「澪と少し回ってた」

「弟くんは?」

「母さんが迎えに来た。俺は少し残るって言って」

そこまで聞いて、紬は小さく息をのんだ。
少し残る。
それはつまり。

「……もしかして」

「白石がいるかもしれないと思って」

提灯の灯りの下で、湊は静かにそう言った。
あまりにもまっすぐで、紬は目をそらすこともできない。

「ずるい」

「言われると思った」

「ほんとにずるい」

声が震えそうになって、紬は笑うしかなかった。
うれしい。
でも、そのうれしさが強すぎて泣きそうになる。
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