イケメン男子は、天然美少女を一途に溺愛中。
やがて閉館の時間が近づき、紬は本を返して立ち上がる。
そのまま廊下へ出た瞬間、少し先の曲がり角に見覚えのある背中が見えた。

湊だった。

胸がどくんと鳴る。
迷うより先に、足が動いていた。

「朝比奈くん」

呼ぶと、彼の肩がわずかに揺れた。
振り返った顔は、驚いたようで、でもすぐに静かな表情へ戻る。

「……白石」

「なんで避けるの」

思ったよりまっすぐに声が出た。
もう、回りくどいことを言っている余裕はなかった。

湊は目を伏せる。

「避けてない」

「避けてるよ」

「気のせい」

「気のせいじゃない」

廊下の窓から、夕方の光が差し込んでいる。
誰もいない静かな校舎で、そのやりとりだけが取り残されたみたいだった。

「夏祭りの日」

紬は震えそうになる声を押さえて続ける。

「好きって言ってくれたのに」

湊の表情が、ほんの少しだけ苦しくなる。

「私、待つって言ったのに。なんで急に、何もなかったみたいにするの」

その問いに、湊はすぐには答えなかった。
長い沈黙のあと、やっと低い声が落ちる。

「白石のため」

そのひと言で、紬の胸は逆に痛んだ。

「そういうの、いちばんずるい」

湊が顔を上げる。

紬はもう、目をそらさなかった。
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