孤高の大富豪は優しい魔女に恋をする

魔女

アリシア・ジュノウ・ホークは、愛犬のロブを従えてといってもロブについて行っているのだがお気に入りの青い自転車に乗って、5月に入ったばかりで珍しく雲一つなく晴れた空に誘われて家から少し遠出をしてきた。

ここはスコットランドのハイランド地方への観光の玄関口となるインヴォネスから車で40分ほど南に下った所に位置するフォートケイパック村という自然の豊かなのどかな所だ。

春から初夏に移り替わろうとするこの時期でもこんなに晴天の日は珍しいのだ。

雨の日も多い

一日でも四季があると言われるスコットランドの天気だ。

特にここはハイランド地方の裾野地域、冬は厳しくその代わり夏は涼しい。

アリシアは訳があって名前をシア・ウイルソンという名前の戸籍を使っている。

シアはフォートケイパック村のメイン通りの端っこの1軒家を借りて“HAWK”という雑貨ショップを営んでいる。

ショップの名前は鷹という意味なのだが、自分の捨てなくてはならなかった本来の苗字だ。

絶対に忘れてはいけない両親の思い出とともに大切な名前なのだ。

この村に秋の終り去年の11月中旬に引っ越してきてからまだ半年位だ。

引っ越してきて2週間位した雨の日に1匹の泥だらけになった犬が裏の勝手口のドアの前で雨宿りをしているのに気が付いた。

シアは彼を勝手口から続くマッドルームに入れてさっと拭いてマッドルームの足洗で洗ってやり、お腹を空かせている様子の彼にご飯を食べさせた。

そしてじっくり観察するとどうもゴールデンレトリバーと何かの雑種の様だった。

リトリバーのように鼻はとがっていなくてブルドックのような垂れた耳と垂れた目が愛嬌のある可愛い顔をしている。

彼の目を見て話してみると(シアは動物と意思疎通ができる能力があるのだ)どうも飼い主が彼を残して引っ越して行ってしまったらしい。

知能の高い犬や馬は自分の気持ちを伝えるのにシアに映像で見せるのだ。

引っ越しのトラックが去っていくのを彼はじっと見送っていたが後を追う事はしなかった。

なんてひどい事をするのだろうとシアはその飼い主に腹を立てたが、彼はそんなに怒っている風ではなかった。

ずっと外の檻に入れられていたので、今の自由な身の上の方がいいらしい。

シアはくすっと笑って“ここで一緒に暮らす?うちには檻はないから家の中にいていいのよ。寝るときは私の部屋のベッドの横にマットを敷くからそこで寝ればいいわ”と言うと喜んでシアに飛びついて顔中をなめまくってくれた。

「あはは、もう止めて顔がべたべたになってしまったじゃないの」

そう言うとエプロンで顔を拭いた。

彼は名前をロブというのだと教えてくれたので、ロブと呼んでいる。

時々首をかしげる癖があり散歩に行きたい時や何か欲しい時首をかしげて一生懸命に見つめて来る。

そんなロブがシアは可愛くてたまらない。

女の一人暮らしなので、大きな犬がいてくれるのは防犯上有難い。

ロブはとても利口でお店番もしてくれる。

シアがキッチンで用事をしている時にお客様が来るとお迎えしてくれてシアを呼びに来てくれるのだ。

そして家の中ではめったな事ではほえない。
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