孤高の大富豪は優しい魔女に恋をする
湖の濃いブルーを見つめながら続けた。

「両親はシャドーに見つかった時の事を考えて、隠家や違う名前の戸籍も私と妹の分を用意していました。私たち二人を駅まで送って手はず通りに隠家に行って身分を変えろと言いました。アリシア・ジュノウ・ホークというのが私の名前だったのですが、その日からシア・ウィルソンになりました。妹はリリー・ウイルソンに…両親は小さな牧場をもって畜産業を営んでいたのですが、私と妹を駅で降ろすと別れを言う間もなく車でシャドーを反対方向に誘導するために後ろを振り返りもせずに行ってしまいました。私はテレパシーが届く距離までは母と話ができました。牧場の方もいざと言う時には任せる人も決めていてある日突然家族が消えてしまったら、牧場は譲ると言う事になっていたようです。だからビューテイの事も心配いらないと教えてくれました。」

「君のビューテイがいた牧場だね?何という名前の牧場だったんだ」

「B&R牧場です。父の名前がボビイで母の名前がリンデイだったので…私はビューテイにお別れも言えなかった。きっと怒っているわ」

シアはまた泣きそうになったが何とか堪えた。

「馬は賢いからね。きっとビューテイは何もかもわかってくれているよ」

「そうだといいんですが…その後妹と隠家で二カ月ほど過ごしました。妹をカナダの大学に入学させるためにカナダに行く事にしたので、パスポートも両親は用意してくれていました。大学を調べたりしてその後カナダに向かいました。とにかく妹は大学に入学して寮生活ができるようにしました。両親は私たちと別れた三日後に崖から車ごと落ちて亡くなりました。身元を特定できる物を何も持っていなかったので身元不明者として共同墓地に埋葬されたようです。私も妹も両親の亡くなった場所にもお墓にもお参りにいけていません。絶対に関連のある所には来てはいけないと言われていたからです。シャドーは本当に執念深いんです。きっと今でも住んでいた家や牧場を見張っているはずです」

「シアはどうして妹さんと一緒にカナダに移住しなかったんだ?」

「魔女の血でしょうね。スコットランドからは出ていけないし出て行きたくないんです。それから一人で二年半以上あちこち自分の居場所を見つけるために放浪しました。両親が沢山お金を残してくれていて投資も上手くやっていたので、お金には困りませんでしたから自分が住みたいと思えるところを焦らずに見つけようと思っていたんです。色々な土地に行って色々な仕事もしました。でも自分の心が震えるような所には出会えなかった」

「そしてここフォートケイパックに来てくれたのか?」

「ええ、ここのキャッスルホテルを知ってどうしても泊まってみたくて贅沢でしたが一泊だけ泊ったんです。素晴らしい体験でした。そしてあの家を見つけたんです。“FOR RENT”の札が下がってました。不動産屋さんがその日札を下げたばかりだったそうです。ふふっ、余程縁があったんですね。家にも一目ぼれしました」

「あはは、そうか。それは何よりだ。家もシアを待っていたようだな」

「ええ本当にそう思いました。あの家で母と同じように自分のオリジナルのポプリやアロマを作ってゆっくりと暮らしたい、そう思ったんです。それまでに“ホーク“と言う名前で作っていた物も評判が良くてその収入もあったので焦らずに店を整えられました。住み始めて二週間後にロブが来てくれてその一週間後にマギーが来てくれました」

シアは少し明るく笑うと運命がここに引き寄せたのだと思うと言った。
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