『もう、好きじゃないことにした』

II、嫉妬

***

その日の朝。

今日は蓮が仕事で早めに出ると言っていた。


「……ん」

私は目を覚ました瞬間、身体の重さに気づいた。

「……だるい」

喉も痛い。

頭もぼんやりする。

ベッドから起き上がろうとしたけれど、身体に力が入らない。

「……風邪ひいたかな」

そう呟いて、隣を見る。

もう蓮はいなかった。

枕元のスマホを見ると、蓮からメッセージが届いていた。

『おはよう』

『起きた?』

莉央は少し笑って返信する。

『おはよう』

『起きたよ』

すると、すぐに返信が来た。

『今日、帰り何食べたい?』

その文字を見て、少し迷ってから打ち込む。

『ごめんね』

『今日ちょっと体調悪くて……』

送った瞬間。

またすぐに既読がついた。

そして――

『熱ある?』

『体温測った?』

『薬は?』

「……ふふ」

一気にメッセージが届く。

『まだ測ってないよ』

そう返すと、

『測って』

『今すぐ』

「……はいはい」

私は少しフラつきながらも体温計を取りに行く。

「……38.1」

その数字を送った瞬間、スマホが鳴った。

蓮からの電話だった。

「もしもし?」

『莉央』

「うん」

『なんで言わなかったの』

「今気づいたばっかりだよ」

『……そう』

少しだけ安心したような声がした。

「蓮?」

『仕事、早めに切り上げて帰る』

「え?」

『何か食べられる?』

「大丈夫だよ」

『大丈夫じゃないだろ』

「でも、仕事――」

『いいから』

「……」

『ゼリーとか、飲み物とか買って帰る』

「……うん」

『薬は?』

「あるよ」

『ちゃんと飲んだ?』

「まだ」

『じゃあ、帰ったら飲ませる』

「……子どもじゃないんだから」

思わず笑うと、

『笑ってる場合じゃない』

少し呆れたような声。

「でも、蓮にうつったら大変だよ」

『それはいい』

「よくないよ」

『莉央のほうが大事だから』

「……」

あまりにも真っ直ぐ言われて、何も言えなくなる。

『寝てて』

「うん」

『帰るまでちゃんと寝てるんだよ』

「……はい」

『じゃあ、あとで』

「うん。気をつけて帰ってきてね」

電話が切れる。

静かになった部屋で、私はスマホを見つめた。

体はだるいのに。

胸の奥だけは、少しだけあたたかかった。

「……蓮、優しいな」

そう呟いて、私はもう一度ベッドに横になった。
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