世界で1番近い君と、1番遠い初恋
向こうから歩いてくる幸平と、すれ違う瞬間。
ふっと、幸平の視線がこちらに向いた。
一瞬だけ、息が止まる。
彼の瞳が驚きに揺れたのを、私は見逃さなかった。
だけど私は、胸を刺す痛みを必死で押し殺して、あえて''物分りのいい幼なじみ''の顔を作った。
「あ、幸平。お疲れ」
声が震えないように、短い言葉をかけて、小さく手を振る。
幸平は一瞬、苦しそうな表情を浮かべたように見えたけれど、次の瞬間にはいつもの爽やかなモテ男の笑顔を張り巡らせていた。
「ん、瑠華もお疲れ。またな。」
それだけ。
ごく自然な、どこにでもある幼なじみの挨拶。
すれ違った瞬間、ふわりと私の鼻腔をくすぐったのは、甘いストロベリーのような香水の匂いだった。
私のものではない。
隣にいた彼女の匂いだ。
幸平の手が、私の視界を通り過ぎていく。
かつて、泣きじゃくる私の手をぎゅっと握りしめて、
「ずっと一番好きだ」
と言ってくれた、あの温かい手。
今その手は、別の女の子の手を繋いでいる。
すれ違い、彼の背中が遠ざかっていく。
握りしめた私の拳の中で、爪が痛いほど掌に食い込んでいた。
生まれた時からずっと一緒で、誕生日もたったの3日しか違わない。
世界で一番近くにいたはずの君。
それなのに今の私たちは────
世界で一番、遠い場所にいる。