愛しのオオカミ
雑貨屋を出てから、手を離さずに駅の方へ歩く修と美紀。
歩幅が大きく鳴る修に、美紀は小走りでついて行くのに必死になった。

しかし、息も切れてきた頃、修を呼び止める。


「く、黒井くん…!」

「…っ…悪い…」

「はぁ…はぁ……ごめんね、いっぱい待たせて…さっきの人知り合い?」

「違う」

「そっか……えっと、よかったら…」


パッと美紀から手を離すと、視線を逸らす修。
美紀は、ガサガサと紙袋に手を入れて取り出した紺色のタオルを、修に差し出した。

一瞬、体の動きも反応も止まる修は、タオルを見てから美紀を見る。


「あ…その、黒井くんにもお礼と、体育祭もあるし…その、使ってもらえると、嬉しい…な…」

「…お礼を言われることはしてない」

「本!本友達になってくれたお礼!…じゃダメかな…」

「……」


黙って受け取る修は、タオルを持つ手に力が入るが、鞄に入れる。
受け取ってもらえたことが嬉しい美紀は、笑みをこぼして、改めて自分がよく行く場所を案内した。


夕方に差し掛かった頃、二人は駅のホームに到着した。


「いっぱい歩かせちゃったけど、疲れてない?」

「あぁ…」

「今日はありがとう」

「いや…」


修は、そのまま自販機に向かうと、オレンジジュースと水のペットボトルを買った。
ガコンと買った飲み物が落ちる音が二回すると、両方を美紀に差し出す。


「え?」

「押花はどっちがいい?」

「………お、お水で…ありがとう」


水のペットボトルを受け取ろうとしたが、修はオレンジジュースを渡した。


「目がこっちって言ってる」

「…そんなに言ってた…?」


フッと笑う修の顔が夕焼けに照らされると、少し照れてしまう美紀は、顔を下に向けてオレンジジュースの蓋を開ける。
冷たいオレンジジュースが喉を潤してくれるのを感じると、ついゴクゴクと飲んでしまった。


「美味しい…!体育祭の練習も頑張ろうね…!」

「…体力」

「はい…」


思わず吹き出して笑ってしまう美紀は、ふと亮太の言葉を思い出した。


『オレ、笑ってる美紀ちゃんが好き』


赤くなる顔を暑さのせいにした美紀は、ホームに止まった電車に修と乗り込む。
もう冷房が効いている車内のドア付近に立つと、修が対面で立った。

修の視線も自然と美紀の方へ向いてしまうが、顔を下に向けているため、視線が合うことはなかった。


(き、緊張してきた……亮太くんなら、どんなふうに話すのかな…)


「…本」

「へ?」

「…押花のおすすめの本、読んだら感想言う」

「うん!待ってる!」


顔を上げた美紀が笑顔で頷いていると、電車が発車した。


(そういえば…今日ずっと、亮太くんのことばっかりだったなぁ……)


流れる景色を眺めながら、美紀はぼんやりと思った。
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