愛しのオオカミ
「押花さんの進路?いい大学狙えるでしょう~あの子なら」
「そうなんですけど……進学はしないみたいで…。いいところに行けるよう尽くします」
進路調査票に書かれた第一希望の欄には『就職』のみが記入されていた。
じっと見つめていた担任は、美紀の分をクラスでまとめていた調査票のファイルの中に入れた。
教室についた美紀が出入り口を解錠していると、バタバタとした音が聞こえてくる。
「みーきーちゃん!」
「亮太くん。おはよう」
「はぁっ…はぁっ、はぁっ…はよ!!」
走ってきた亮太が美紀の隣で止まると、膝に手を置いて二パッと笑った。
先週の手を繋いでいたことや、休みの間の考えで恥ずかしくなった美紀は少し視線を逸らす。
「梅雨入りしたってニュースで見たけど、あちーね!全然夏だよっもう」
「汗…」
「そー。美紀ちゃんついてると思って、バス停からダッシュしてきた…」
一緒に教室へ入りながら、ニコニコと話す亮太。
美紀は、冷房のスイッチを押してから、自分の机に向かうが、バッグの柄をギュッと握って緊張した面持ちになる。
「う、お、わ!!」
「…!」
顔を上げると、亮太が持っていたペットボトルから飲み物が溢れて、亮太の手だけではなく、床にこぼれた。
「ははっ、炭酸すっごいねぇ~!」
「そ、それよりも手、洗わないと…!」
「そうするね~」
机にペットボトルを置いた亮太は、手洗い場に向かうために教室を後にする。
美紀は、掃除道具入れからモップを取り出して、床にこぼれたジュースを掃除していった。
すると、戻ってきた亮太は慌てて、美紀の方へ駆け寄り、モップを受け取ろうとした。
「ごめんごめん!オレやるからいいよ!」
「ううん、もう終わるから。それよりも、制服とか大丈夫?」
「あ、うん。大丈夫。ありがとね!」
ちょうど掃除を終えた美紀は、モップを掃除道具入れの横に置いて、席に戻る。
制服をパタパタとあおいで、自分の体に風を送り込んでいた亮太は、少し咳き込んだ。
美紀は、その様子を見て、バッグから紙袋を取り出す。
(…今…だよね…)
立ち上がった美紀は、ギクシャクと動きながら亮太の隣に立った。
不思議そうに見上げる亮太だが、二パッと笑う。
「美紀ちゃんどしたん?」
「…あ、あの…これ…!お、お礼…です…」
「へ…?」
赤くなった顔で紙袋を差し出す美紀と、紙袋を交互に見ると、亮太はガタタッと立ち上がった。
「亮太くんには、いつも助けてもらってるし…な、仲良くしてもらって嬉しいから…その、と友達へのお礼…で…」
「…えぇー…~…どうしよう…」
(困らせた…!?)
バッと顔を上げた美紀は、顔を真っ赤にさせて両手で目の部分だけを隠す亮太を見た。