一か月だけの契約妻のはずが、恋愛経験ゼロの私を社長が溺愛してきます
 ただ、それを認めるのが怖いだけなのだ。
 
 彩乃にキスをしてから、数日が経った。
 俺たちは、以前と変わらない生活を送っている。
 朝になれば一緒に食事をして、それぞれ仕事へ向かう。
 帰宅する時間が合えば、一緒に夕食を食べる。
 何も変わっていない。
 ……いや。
 正確には、変わってしまった。
 彩乃が、俺と目を合わせなくなった。
 俺も、以前のように気軽に話しかけることができなくなっている。
 あのときの彩乃の驚いた顔が、頭から離れない。
 キスしたことを後悔しているわけじゃない。
 ただ、もう少し考えてから行動するべきだったとは思っている。
 彩乃に恋愛経験がないことは、知っていた。
 なのに、あの瞬間は、そのことをすっかり頭から飛ばしていた。
 彩乃にとって、あれが初めてのキスだったことを、キスをしたあとになって思い出したのだ。
 そんなことを考えていた夕食後。
「あの……」
 彩乃が、食器を片づけながら声をかけてきた。
「ん?」
「今日、ちょっと出かけてもいいですか?」
「用事でもあるの?」
「いえ……」
 彩乃は少し迷うように視線を落とした。
「来週末にパーティーがあるでしょう? そのときに着る服を取りに、自宅に行こうかと思って」
「ああ」
 パーティー。
 そういえば、もう来週だった。
「でも、わざわざ取りに行かなくてもいいんじゃない?」
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