一か月だけの契約妻のはずが、恋愛経験ゼロの私を社長が溺愛してきます
 小野さんがワンピースをじっと見つめる。
「ブランドのやつじゃないですか?」
「え?」
「ほら、やっぱり!」
 別のスタッフまで身を乗り出してくる。
「えっ、これ結構するやつですよね?」
「そうなの?」
「そうですよ。いいなあ……」
「私、こんなの買えない」
「旦那さんに買ってもらったんですか?」
「うん。そうなの」
 素直に答えると、みんなから一斉に羨ましそうな声が上がった。
「やっぱり!」
「いいなあ!」
「旦那さん、センスいいですね」
「水野さんに似合うものを選んでくれるんだ」
 私は照れくさくなって、ワンピースの裾をそっと撫でた。
 これは、湊が選んでくれたものだった。
 似合うと思う。
 そう言って渡されたときのことを、今でも覚えている。
 そのときは、ただ嬉しかった。
 けれど今、その服を着ている自分を見つめていると、胸の奥が少しだけ苦しくなる。
 今日という日が終わったら、この服を選んでくれた人とも、今のように一緒に暮らすことはなくなるのだから。
 そんなことを考えていたとき、バッグの中でスマートフォンが震えた。
 取り出して画面を見る。
 湊からだった。
『着いた。ロビーにいる』
 短いメッセージを見ただけで、心臓が大きく跳ねた。
 パーティーに来てくれた。
 それだけのことなのに、どうしてこんなにも胸がざわつくのだろう。
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