一か月だけの契約妻のはずが、恋愛経験ゼロの私を社長が溺愛してきます
 門から玄関までのアプローチも広く、その脇には手入れされた植木が並んでいる。
 きちんと整えられているのに、どこか派手すぎない。
 それでも、一人暮らしの男性が住んでいる家だと思うと、やっぱり驚いてしまう。
 そして何より目を引いたのが、家の前に広がる庭だった。
 芝生が敷かれた庭は、一人暮らしの家にしてはあまりにも広い。
 こんな庭、どうやって手入れしているんだろう。
 そんなことまで考えてしまうくらい、私の住んでいたワンルームとは何もかもが違っていた。
 湊さんが玄関の鍵を開ける。
 その瞬間だった。
「わんっ!」
 玄関の奥から、トイプードルが勢いよく飛び出してきた。
「おい、こら」
 湊さんが笑う。
 さっきまで車の中で見せていた落ち着いた表情とは、少し違う。
 犬は嬉しそうに二本足でぴょんぴょん跳ねながら、湊さんの足元で尻尾を振っている。
 まるで、帰ってくるのをずっと待っていたみたいだ。
「ただいま」
 湊さんがしゃがみ込むと、犬はさらに嬉しそうに尻尾を振った。
「そんなに喜ぶなよ」
 そう言いながら、湊さんは慣れた手つきで犬を抱き上げる。
「……」
 思わず、見とれてしまった。
 仕事をしているときの湊さんは、どこか隙がない。
 昨日だって、私の突然の申し出を驚くほど冷静に受け止めていた。
 そんな人が、今は犬を抱いて笑っている。
 その顔には、バーで見せた落ち着いた表情とは違う、自然な笑顔が浮かんでいた。
 犬を抱く手つきも優しい。
 声も、少しだけ柔らかい。
 こんな顔もするんだ。
 知らなかった。
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