ゆびきりげんまん
叫んだところで、颯真兄ちゃんは笑うだけだった。

腹立つ。

ものすごく腹立つ。

絶対、見返してやる。

大人の女になって。

颯真兄ちゃんをメロメロにして。

「すず、好きや」

って言わせて。

そしたらあたしは――。

『えー? どうしよっかなぁ』

って言ってやる。

……いや。

無理。

たぶん、

『あたしもぉぉぉ!』

って抱きつく。

そこは我慢できない。

「……何ニヤニヤしとんねん」

「してない!」

「しとるやん」

「してません!」

「気持ち悪」

「颯真兄ちゃん!」

「はいはい」

くっそぉ。

見てろよ。

絶対、大人の女になってやる。

その日の夜。

あたしは自分の部屋で、スマホを握りしめていた。

検索欄には、
『大人の女 なる方法』
我ながら完璧な検索ワードだと思う。

検索。

ずらっと出てきた記事を片っ端から読む。

――落ち着いた話し方。

なるほど。

――品のある仕草。

なるほどなるほど。

――自立している。

…………。

これは十六歳には難しい。

次。

――色気がある。

これだ。

颯真兄ちゃんは二十二歳。

もう立派な大人だ。

なら、あたしに足りないものはこれに違いない。

色気。

「…………色気」

鏡を見る。

制服姿のあたしが映っている。

首を少し傾げてみた。

「…………」

違う。

髪をかき上げてみた。

「…………」

なんか腹立つ女になった。

唇をちょっと尖らせてみる。

「…………」

タコ。

「難しい……」

ベッドに倒れ込んだ。

大人の女への道は険しい。

だけど、諦めるわけにはいかない。

あたしには時間がないのだ。

颯真兄ちゃんは二十二歳。

いつ彼女ができてもおかしくない。

いや。

今日はいないって言ってた。

でも明日は?

来週は?

来月は?

考えただけで落ち着かなくなって、ガバッと起き上がった。

「ダメ!」

彼女なんて作らせない。

あたしが大人になるまで待っててもらう。

そのためには――。

翌日。

学校帰り。

交番の前で颯真兄ちゃんを見つけたあたしは、一直線に駆け寄った。

「颯真兄ちゃん!」

「おう」

「約束して!」

「嫌や」

「即答すんなぁ!」

昨日と同じやり取りに、近くにいた警察官が吹き出した。

「なんの約束や」

「あたしが大人になるまで、彼女作らないで!」

「嫌や」

「だから即答すんなって!」

「なんで俺がお前の成長待たなあかんねん」

「だって途中で彼女できたら困るもん!」

「俺は困らん」

「あたしが困るの!」

「知らんがな」

「知ってよ!」

颯真兄ちゃんが、深いため息をついた。

そして、あたしの額を指で軽く弾いた。

「いった!」

「高校生は高校生らしく勉強しとけ」

「関係ない!」

「あるわ」

「じゃあ百歩譲って!」

「何を譲んねん」

「彼女できたら、あたしに一番に報告して」

「なんでや」

「別れさせるから」

「お前、怖いわ!」

交番の中から、また笑い声が聞こえた。

だけど、あたしは本気だ。

だって。

ずっと決めてるんだから。

あたしの初恋も。

初デートも。

初めて手を繋ぐのも。

初めてキスするのも。

全部。

全部、颯真兄ちゃんがいい。

「だから、待っててね」

「何をや」

「あたし」

「待たん」

「待てぇぇぇぇ!!」
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