自分を殺した私の話
ーー私は、自分を殺しました。
いつも通りの朝。いつもこの朝が続いたらいいのに。「おっはよー!優理!」「おはよ。未来。」いつもの何気ない挨拶。友達に囲まれて幸せで、囲まれるほど、自分がどこに行ったかわからなくなる。自分がなんなのかわからなくなる。どんな性格で、どんな人だったのかなんて、忘れてしまった。「ねえ優理、次の休みさ、みんなで新しいカフェ行かない?」「あ、いいブレンドがあるんだって!優理、コーヒー好きでしょ?」未来がスマートフォンの画面を見せてくる。画面に映るお洒落なテラス席。実は、私はコーヒーが苦手だ。苦くて、胸がどきどきするから。だけど、私の口は自動的に動く。「うん、行く!ちょうど気になってたんだよね」嘘じゃない。みんなが行きたい場所に行けるのは、本当に嬉しい。みんなの笑顔を見るのは、今のうちだけかもしれない。愛されたい。その一心でずっと生きてきた。どんな性格が、1番愛されるか、どんなギャップを作れば、私は認められるか。自分を放っておいて、ずっと仮面で演じてきた。だけど、そうやって「みんなの正解」を選び続けるたびに、私の足元から少しずつ、色が抜けていくような気がする。授業中、ノートの端にシャーペンで小さな丸を描いた。何度も、何度も重ねて塗って、真っ黒な塗りつぶしを作る。これが私。何色でもなくて、ただ周りの光を全部吸い込んで消えてしまう、ただの影。
昼休みも、放課後も、私は「みんなの好きな優理」であり続けた。たくさん笑った。たくさん頷いた。友達と別れ、夕暮れの道を一人で歩いている時、すれ違う見知らぬ人たちの顔が、みんなはっきりと「その人自身」に見えて、急に足がすくんだ。家に帰り、自室のドアを閉める。夜の闇が降りてきた部屋は、静かだった。誰も私を見ていない。誰も私に期待していない。カチリ、と電気をつける。机の上の鏡に、一人の女子高生が映っていた。楽しそうに笑い疲れて、少しだけ口角が上がったままの、歪な顔。私は鏡に手を伸ばし、自分の頬に触れてみる。指先から伝わる体温は確かにあるのに、鏡の中の瞳には、誰も映っていないような気がした。私は、ゆっくりと唇を動かす。今日、初めて、誰のためでもない自分の声を絞り出した。「私って、誰だったっけ?」誰のために笑ってたんだっけ? 最初はどんな性格だったっけ? なんで愛されたかったんだっけ? もう友達が離れて行かないように? そうだ。失うのが怖いんだ。私。「誰に愛されたいんだろう。」何度も素の自分でいようと思った。でも、その度に『ありのままの自分』が分からなくなってくる。仮面で演じてる自分を、『ありのままの自分』って認めた方が、楽なのかな。昔聞いた陰口を思い出してしまう。忘れたいのに。
「優理って、嘘くさい笑顔だよね。私、あの笑顔苦手だな。」「わかる。いい子ちゃんです。みたいな性格だし。」「みんなに媚び売ってる感じがする。」
中学生の時の記憶だった。じゃあ、どうすればいいんだよ。私は、この笑い方しか知らない。
「愛されたかっただけなのに。」
クラスメイトを一生懸命研究して、どのキャラとどのキャラを合わせたら、嫌われずに居場所がなくならないか。考えた。それでも嘘を見抜いてくる人がいる。嫌われたくない。可愛いって言われても、世間体のためでしょ。とか、どれだけ慕ってくれてる子でも、嫌われたくないから、嘘をついてしまう。無理にくっつきすぎたら、離れていっちゃう。誰か、正解を教えてよ。嘘くさい。嘘くさい。って、じゃあどう笑えばいいのか、答えろよ。吐き出したところで、誰にもわかってくれない。一人、私の嘘を見抜いた子がいた。「優理って、その性格嘘だよね。作ってるよね。」胸が苦しくなる。咄嗟に、「なんのこと?私が嘘つくように見える?」と、きいた。その子は、すぐに真実を言い当てた。「嘘ついてるから、その性格なんじゃないの?ウケ狙ってるだけじゃない。」
私はうっかり、
「じゃあ、どんな性格でいたら、誰も傷つけないの?どんな笑い方でいたら傷つかないの?教えてよ!私はこの笑い方しか知らないんだ!今更『この性格嘘でした』とか言えないじゃない!嘘だからなんなの?あなたには関係ない。私の気持ち、よく知りもしないくせに!答えてよ!答えて!」
その子は黙った。辛そうな目をして。私は、ハッとしてすぐに教室から走り去ってしまった。やっちゃった。なんで見抜かれたんだろ。でも、今更性格変えることもできないし、受け狙ってるのは間違いではない。傷つきたくないし付けたくない。どうしたら......。神様なんて信じちゃいない。親友に相談したところで引かれて離れていくかもしれない。
「だれか、助けてよ....。」
いつも通りの朝。いつもこの朝が続いたらいいのに。「おっはよー!優理!」「おはよ。未来。」いつもの何気ない挨拶。友達に囲まれて幸せで、囲まれるほど、自分がどこに行ったかわからなくなる。自分がなんなのかわからなくなる。どんな性格で、どんな人だったのかなんて、忘れてしまった。「ねえ優理、次の休みさ、みんなで新しいカフェ行かない?」「あ、いいブレンドがあるんだって!優理、コーヒー好きでしょ?」未来がスマートフォンの画面を見せてくる。画面に映るお洒落なテラス席。実は、私はコーヒーが苦手だ。苦くて、胸がどきどきするから。だけど、私の口は自動的に動く。「うん、行く!ちょうど気になってたんだよね」嘘じゃない。みんなが行きたい場所に行けるのは、本当に嬉しい。みんなの笑顔を見るのは、今のうちだけかもしれない。愛されたい。その一心でずっと生きてきた。どんな性格が、1番愛されるか、どんなギャップを作れば、私は認められるか。自分を放っておいて、ずっと仮面で演じてきた。だけど、そうやって「みんなの正解」を選び続けるたびに、私の足元から少しずつ、色が抜けていくような気がする。授業中、ノートの端にシャーペンで小さな丸を描いた。何度も、何度も重ねて塗って、真っ黒な塗りつぶしを作る。これが私。何色でもなくて、ただ周りの光を全部吸い込んで消えてしまう、ただの影。
昼休みも、放課後も、私は「みんなの好きな優理」であり続けた。たくさん笑った。たくさん頷いた。友達と別れ、夕暮れの道を一人で歩いている時、すれ違う見知らぬ人たちの顔が、みんなはっきりと「その人自身」に見えて、急に足がすくんだ。家に帰り、自室のドアを閉める。夜の闇が降りてきた部屋は、静かだった。誰も私を見ていない。誰も私に期待していない。カチリ、と電気をつける。机の上の鏡に、一人の女子高生が映っていた。楽しそうに笑い疲れて、少しだけ口角が上がったままの、歪な顔。私は鏡に手を伸ばし、自分の頬に触れてみる。指先から伝わる体温は確かにあるのに、鏡の中の瞳には、誰も映っていないような気がした。私は、ゆっくりと唇を動かす。今日、初めて、誰のためでもない自分の声を絞り出した。「私って、誰だったっけ?」誰のために笑ってたんだっけ? 最初はどんな性格だったっけ? なんで愛されたかったんだっけ? もう友達が離れて行かないように? そうだ。失うのが怖いんだ。私。「誰に愛されたいんだろう。」何度も素の自分でいようと思った。でも、その度に『ありのままの自分』が分からなくなってくる。仮面で演じてる自分を、『ありのままの自分』って認めた方が、楽なのかな。昔聞いた陰口を思い出してしまう。忘れたいのに。
「優理って、嘘くさい笑顔だよね。私、あの笑顔苦手だな。」「わかる。いい子ちゃんです。みたいな性格だし。」「みんなに媚び売ってる感じがする。」
中学生の時の記憶だった。じゃあ、どうすればいいんだよ。私は、この笑い方しか知らない。
「愛されたかっただけなのに。」
クラスメイトを一生懸命研究して、どのキャラとどのキャラを合わせたら、嫌われずに居場所がなくならないか。考えた。それでも嘘を見抜いてくる人がいる。嫌われたくない。可愛いって言われても、世間体のためでしょ。とか、どれだけ慕ってくれてる子でも、嫌われたくないから、嘘をついてしまう。無理にくっつきすぎたら、離れていっちゃう。誰か、正解を教えてよ。嘘くさい。嘘くさい。って、じゃあどう笑えばいいのか、答えろよ。吐き出したところで、誰にもわかってくれない。一人、私の嘘を見抜いた子がいた。「優理って、その性格嘘だよね。作ってるよね。」胸が苦しくなる。咄嗟に、「なんのこと?私が嘘つくように見える?」と、きいた。その子は、すぐに真実を言い当てた。「嘘ついてるから、その性格なんじゃないの?ウケ狙ってるだけじゃない。」
私はうっかり、
「じゃあ、どんな性格でいたら、誰も傷つけないの?どんな笑い方でいたら傷つかないの?教えてよ!私はこの笑い方しか知らないんだ!今更『この性格嘘でした』とか言えないじゃない!嘘だからなんなの?あなたには関係ない。私の気持ち、よく知りもしないくせに!答えてよ!答えて!」
その子は黙った。辛そうな目をして。私は、ハッとしてすぐに教室から走り去ってしまった。やっちゃった。なんで見抜かれたんだろ。でも、今更性格変えることもできないし、受け狙ってるのは間違いではない。傷つきたくないし付けたくない。どうしたら......。神様なんて信じちゃいない。親友に相談したところで引かれて離れていくかもしれない。
「だれか、助けてよ....。」