急募 ガチムチ婚約者募集 *但し45歳以上に限る

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「はい。現行犯逮捕~」

 唇まであと数ミリというところで、目の前に手が割って入ってきた。
 誰だ!?と風を切りながら振り返ると、紺碧の瞳と視線が合った。

「……チッ、副団長か……」
「ルディガーね。君はもう少し自分の感情を隠す努力をした方がいいよ?」

 忌々しいと思いながら悪態をつくが、ルディガーは気にせず私をアイヴァン様から引き離した。

「全く、団長ともあろうお方が一回り以上離れた女性に組み敷かれるなんて前代未聞ですよ?」
「言い返す言葉もない……すまん。助かった…」

 ルディガーが差し出した手を取り、バツが悪そうに呟いた。

「面白いお嬢さんだと思ってたけど、同意のない行為は犯罪だからね」
「いいえ、同意の上です。だって、婚約者ですもの」

 自信満々に言ってやる。

「──って言ってますが?」
「ん~……」

 ルディガーが確認を取ろうとするが、アイヴァン様は苦い笑みを浮かべたまま言葉に詰まっているようだ。

「えっ!そんな……アイヴァン様は私と関係を持つのが嫌なんですか!?」
「そ、そんな事は断じてない!」

 わざとらしく口元を覆って傷付いた素振りを見せれば、案の定アタフタと狼狽えている。

(本当、可愛い人)

 もし本気で嫌なら体に触れた時点で拒絶されている。戸惑いながらも受け入れてくれたということは、そういう事だろう。

「こらこら、団長は素人童貞なんだから揶揄ったりしては駄目だよ」
「えぇ!童貞じゃないんですか!?てっきり私が初めての相手だと思って喜んでいたのに…」

 年頃の女性が口にしていい言葉じゃないとは思うが、訊かずにはいられなかった。

 愕然としながらショックを受ける私にルディガーは堪らず噴き出した。

「ぷっ…あははははははっ!ヤバッ!団長、この子面白すぎる!」

 だって、硬派が服着ているような人だよ?身体だけの関係とか持たなさそうでしょ?一度関係を持ったら最期まで面倒見るって言いそうな人じゃん!

「団長の歳で真性の童貞だったらヤバいでしょ。もしそうなら、今頃妖精か魔法使いだよ」
「ムゥ…」

 目に溜まった涙を拭いながら説明され、気分は最悪だが納得できちゃう自分がいた。

「若いお嬢さんには分らないと思うけど、騎士ってのは戦場に出て血を浴びたりすると、アドレナリンが全開に出ちゃって制御が効かなく事がある。そんな事にならない為に、手っ取り早く落ち着かせるのが身体を重ねることなんだよ」

 ……なんかの本で読んだことがある。常に命の危険に晒されている騎士は、本能的に自分の遺伝子を残そうと性欲が昂揚するのだと。

「まあ、団長に関しては娼婦(プロ)としか経験がないから、君みたいな素人とは初め──いてッ!」
「喋り過ぎだ」

 意気揚々と話し続けるルディガーを面映ゆげなアイヴァン様の拳が止めた。

 騎士としても男性としても大事なことだってこと分かってる。仕方ないことで、嫉妬するのはお門違いだと言うことも……でも、他所の女が私の知らないアイヴァン様を知ってるなんて……

「ズルい!私もアイヴァン様とあれやこれやしたい!」

 納得は出来るけど、嫉妬はする!

「なんなら、ホクロの数まで知りたいです!」

 身を乗り出しながら私の意思を伝えたところ、ルディガーは「ブハッ!」と肩を震わせていたが、アイヴァン様は腕を組みながら片手で顔を覆っていて表情が読み取れない。

「団長、諦めて抱いてあげればいいじゃないですか」
「……簡単に言うな。物事にはちゃんとした順序があるだろ」

 いかにもアイヴァン様らしい答え。順序なんてクソ喰らえと強硬手段に出た私は最早何も言うまい。

「お堅いですねぇ。いいですか?よく考えて下さいよ。彼女に通俗的ルールが通用すると思います?」
「うむ…」

 ルディガーの言葉に口ごもる。

「欲望のまま突き進むような娘(こ)ですよ?躾のなっていない犬と同じです」
「……」

 ついには唸り声すらもあげなくなってしまった。

 こちらの意見としては、犬と同じ扱いにされたのは腹立たしいが、あながち間違いじゃないので反論していいものか悩む。

「あぁ、そうだ。最初の相手は俺なんてどう?」
「は?頭沸いてんの?」

 名案とばかりに手を叩いて私に言うものだから、苦虫を噛み潰したような顔で蔑み返した。

「俺の事をそんな目で見る子は初めてだから興味があるんだよね。その目が蕩けるところ俺に見せて?」

 顎を持ち上げ、不敵な笑みを浮かべながら見つめてくる。

 なんで私の大事な初めてをコイツにやらなきゃいけないの?金を積まれてもごめんだわ。仮に、アイヴァン様が生娘に気後れしたとしてもコイツにだけは相談しない!

(…って言うか、いつまで触ってんの?)

 同意のない行為は云々言ってた本人が気安く触るんじゃないよ。私は触れることを許した覚えはないけど?
 それとも、自分は触れても嫌がる女はいないとか自惚れてんじゃないでしょうね?

(…ありえるわ…)

 じゃなきゃ、純潔を寄越せなんて意気揚々と言ってこない。……改めて考えるとヤバイなコイツ。

「ルディガー、調子に乗るのもいい加減にしろ」

 私が手を下す前にアイヴァン様の逞しい腕が護るように包み込んでくれた。
 直に感じる体温と匂いに、先程までの苛立ちが嘘のように浄化されていく。

「彼女は私の婚約者だ。それを分かった上での発言か?」

 追及する声色があまりにも重く低いものだったので、護られている私も手に汗が滲む。

「そうは言いますけど、団長が乗り気じゃないんでしょ?それなら俺がっていう善意ですよ」
「どこが善意だ!彼女は俺のものだ!」

(え?)

 私の肩を強く抱きながら言い放った言葉に、聞き間違いか?と一瞬耳を疑った。そっと顔を上げると、鬼気に迫る表情で睨みつけるアイヴァン様が目に入り、自分の耳が確かなことを知った。気付いた瞬間、体を回る血が沸騰したように熱くなった。

「ふ~ん。団長も案外嫉妬深いんですねぇ」
「なッ!」

 ニヤニヤとほくそ笑むルディガーに、アイヴァン様は顔を真っ赤にしている。耳まで真っ赤にさせて「見ないでくれ」と顔を逸らし、恥じらう姿にキュンキュン胸が跳ねまくってる。

「良かったねお嬢さん。まあ、団長に飽きたら俺の所においで」
「は?」

 余韻に浸っているところに、余計な一言を投げられ不快感を露わにしながら睨みつけた。ルディガーはクスクス笑うだけで、気にしている素振りは一切ない。

「さて、面白いもの見れたし、俺は行きますね」

 満足気な顔をしながら踵を返したが、すぐに「そうだ」と向き直った。アイヴァン様の側によると、何やら耳打ちしていたようだが、私の耳には届かなかった。

 その時は、アイヴァン様の表情が硬くなるのが分かったので面倒事かな?ぐらいにしか思っていなかった。


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