急募 ガチムチ婚約者募集 *但し45歳以上に限る
13
※後半アイヴァン視点です。
「ミーリ、その辺にしておきなさい」
「煩い!放っておいて!」
アイヴァン様の誤解を解きたいのに、陛下の側に付きっきりで傍に寄れず、せめて目で合図を送ろうと試みたが、目が合ってもすぐに逸らされてしまう始末。
絶望的状況に婚約破棄の文字が脳裏に浮かぶ。
(もう…最悪……)
本来なら、正装姿のアイヴァン様を眺めながら優雅に立食しているはずだったのに……こうなってはヤケクソだと、陛下の目下だと言うのに暴飲暴食。今の私にはもはや怖いものなんてなにもない。
レスターが気にして止めに入るが、誰のせいでこうなったのか思い知らせてやる為にも、絶対に手は止めてやらない。
因みに、アイヴァン様のお姿は控えめに言っても最&高。いつもは下ろしている前髪もキッチリ整えられ、その美しく凛々しいご尊顔が良く見える。──はずなのに涙で視界がボヤけてよく見えない。
踏んだり蹴ったりな状況に、神も仏もない。
「……うぷッ」
「あ~ぁ、ほら、もう限界なんですよ」
胃袋も気分も心も限界。それでもグラスとフォークは離さない。もはや執念と言わざるを得ない。
「控え室へ行きましょう?」
「ちょっと待って…動いたら出る……」
レスターが耐えかねて腕を掴んで連れ出そうとしてくれるが、ちょっとの衝撃が命取りな状態。
「まったく……仕方ありませんね」
呆れ顔のレスターが私の肩に手を回し、抱き上げてくれようとした。その時──
「私が連れて行こう」
大きな腕に抱き上げられた。
***
──夜会は苦手だ。
ギラギラと着飾り、香油と白粉の匂いを放ちながら近寄る令嬢たち。
値踏みしながら声をかける令息に、薄ら笑いを浮かべながら媚びへつらう貴族共。
煌びやかな社交の場と呼ばれているが、そんなのは表面上だけ。実際は、欲望塗れの戦場のような場だ。
だが、今回の夜会は少しばかり楽しみでもあった。
「すまないな。婚約者殿を護衛したかっただろうに」
申し訳なさそうに言うのは、この国の王であり俺の仕えるお方、オリヴァ=エーリッヒ・ハーゲドルン様。
「いいえ、陛下を護るのは私の務めですので」
本音を隠した定型文のような言葉で返す。本来なら、今宵の指揮はルディガーが取り、俺はミーリアムをエスコートするはずだった。そのルディガーだが、急遽遠征へ行くことが決まり、指揮が取れなくなり俺が出ざるを得なかった。
その事を伝えた際に見た彼女の顔が忘れられない。
『それは仕方ありませんね』
俺を気遣い、責めることもせずに必死に笑顔を取り繕う姿は、胸が締め付けられる思いだった。次に会った時には、せめてもの償いとして彼女のしたいことをしてやろう。そう考えながら会場へと足を進めた。
──そして、真っ先に目にしたものは、彼女が他の男と抱き合っている場面だった。
その時の感情はとても口には言い表せない。嫉妬なんて優しいものじゃない……あれは憎悪だ。陛下と一緒でなければ自分を抑えられなかったかもしれない。
視界に長い事入れていたら正気を保てないとすぐに目を逸らしたが、俺と目が合ったミーリアムはこの世の終わりのような顔をしていた。
その後の事は正直、よく覚えていない。
「気になるか?」
「え?」
陛下から唐突に声をかけられ驚いた。
「先ほどから、あの娘はお前と喋りたそうにしているぞ?」
視線の先にはチラチラとこちらの様子を伺うミーリアムの姿があった。その背後には、例の子息の姿もある。
「……いえ、私がこの場を離れる訳には……」
他の男と一緒にいるところなんて一瞬でも映したくなくて、フイッと顔を逸らす。彼女の事を疑っている訳じゃない。ただ、この心境で彼女と対峙した時に、自分を保てるか自信がない。
「お前は本当にクソ真面目で不器用だな。見ているこちらの方が気を揉む」
「……陛下、言葉遣いには気を付けてください」
「お前しか聞いていなんだ許せ」
「そう言う事を言っているんじゃないんですよ」
諭すように伝えるが、陛下は口元を緩めたままだった。分かっているのか分かっていないのか……
「しかし、面白い娘を見つけたな」
笑みを含みながら向けられる視線の先には、料理の並べられたテーブルに齧りつき暴飲暴食をするミーリアム。周りは遠巻きにしているのに、例の子息は甲斐甲斐しく世話を焼いている。
(その場所は俺の……)
ギリッっと歯を食いしばった。
「意地を張らずに行けばいいだろ?」
「……」
「お前が後悔しないと言うのなら構わないが、本当にいいのか?」
肘を付きながら訊いてくる。この人は、俺の気持ちを悟った上で容赦なく追い詰めてくる。
「私は──……」
そう口を開いたところで「おやおや」とわざとらしく驚いた声が聞こえ、顔を上げるとミーリアムが酔いつぶれ、子息に抱かれそうになっているところだった。
「ッ!」
一瞬で頭に血が昇り、気が付けば子息を押し退けミーリアムを抱き上げていた。
「私が連れて行こう」
冷静を装っていたが、血管が破裂しそうなほど血が沸いていたこともあり、大人気ないと思いつつ子息を睨みつけてしまった。
そこでようやく、子息の正体がマクナリー侯爵家の子息だという事を知った。
(確か、兄の方がミーリアムの姉上と婚約中だったな)
という事は、家族同然の関係?
その結論に至ると、少しばかり安堵する自分がいた。
「私がミーリアムの姉の婚約者の弟だと知ってホッとしました?」
俺の心を読んだような言葉にドキッとした。
……レスター・マクナリー。執務官で頭角を発揮し、将来を期待されている人物。常に冷静に物事を考えれる所は、軍事にも役に立つだろうと紹介されたことがあった。
「兄と姉が婚約してようが、私とミーリアムが婚約できない理由にはなりませんよ?」
「……どういう意味だ」
「さあ?私は間違った知識を正しただけです」
シレッと言うこの男の本心が読めない。
牽制……?
それにしては手温い。俺なら二度と近づけないぐらい揺さぶりをかける。
(一体何を考えてる……)
腹の内が視えないヤツは警戒するに越したことはない。
しばらくレスターと睨み合いが続いていたが、腕をギュッと掴まれる感覚で我に返った。
「ミーリアム?」
視線を向けると、顔面蒼白で涙を浮かべたミーリアムが必死に俺にしがみ付いていた。
「……も、もう限k……」
言い切る前に、勢いよく口から吐かれた物が降りかかった……
「ミーリ、その辺にしておきなさい」
「煩い!放っておいて!」
アイヴァン様の誤解を解きたいのに、陛下の側に付きっきりで傍に寄れず、せめて目で合図を送ろうと試みたが、目が合ってもすぐに逸らされてしまう始末。
絶望的状況に婚約破棄の文字が脳裏に浮かぶ。
(もう…最悪……)
本来なら、正装姿のアイヴァン様を眺めながら優雅に立食しているはずだったのに……こうなってはヤケクソだと、陛下の目下だと言うのに暴飲暴食。今の私にはもはや怖いものなんてなにもない。
レスターが気にして止めに入るが、誰のせいでこうなったのか思い知らせてやる為にも、絶対に手は止めてやらない。
因みに、アイヴァン様のお姿は控えめに言っても最&高。いつもは下ろしている前髪もキッチリ整えられ、その美しく凛々しいご尊顔が良く見える。──はずなのに涙で視界がボヤけてよく見えない。
踏んだり蹴ったりな状況に、神も仏もない。
「……うぷッ」
「あ~ぁ、ほら、もう限界なんですよ」
胃袋も気分も心も限界。それでもグラスとフォークは離さない。もはや執念と言わざるを得ない。
「控え室へ行きましょう?」
「ちょっと待って…動いたら出る……」
レスターが耐えかねて腕を掴んで連れ出そうとしてくれるが、ちょっとの衝撃が命取りな状態。
「まったく……仕方ありませんね」
呆れ顔のレスターが私の肩に手を回し、抱き上げてくれようとした。その時──
「私が連れて行こう」
大きな腕に抱き上げられた。
***
──夜会は苦手だ。
ギラギラと着飾り、香油と白粉の匂いを放ちながら近寄る令嬢たち。
値踏みしながら声をかける令息に、薄ら笑いを浮かべながら媚びへつらう貴族共。
煌びやかな社交の場と呼ばれているが、そんなのは表面上だけ。実際は、欲望塗れの戦場のような場だ。
だが、今回の夜会は少しばかり楽しみでもあった。
「すまないな。婚約者殿を護衛したかっただろうに」
申し訳なさそうに言うのは、この国の王であり俺の仕えるお方、オリヴァ=エーリッヒ・ハーゲドルン様。
「いいえ、陛下を護るのは私の務めですので」
本音を隠した定型文のような言葉で返す。本来なら、今宵の指揮はルディガーが取り、俺はミーリアムをエスコートするはずだった。そのルディガーだが、急遽遠征へ行くことが決まり、指揮が取れなくなり俺が出ざるを得なかった。
その事を伝えた際に見た彼女の顔が忘れられない。
『それは仕方ありませんね』
俺を気遣い、責めることもせずに必死に笑顔を取り繕う姿は、胸が締め付けられる思いだった。次に会った時には、せめてもの償いとして彼女のしたいことをしてやろう。そう考えながら会場へと足を進めた。
──そして、真っ先に目にしたものは、彼女が他の男と抱き合っている場面だった。
その時の感情はとても口には言い表せない。嫉妬なんて優しいものじゃない……あれは憎悪だ。陛下と一緒でなければ自分を抑えられなかったかもしれない。
視界に長い事入れていたら正気を保てないとすぐに目を逸らしたが、俺と目が合ったミーリアムはこの世の終わりのような顔をしていた。
その後の事は正直、よく覚えていない。
「気になるか?」
「え?」
陛下から唐突に声をかけられ驚いた。
「先ほどから、あの娘はお前と喋りたそうにしているぞ?」
視線の先にはチラチラとこちらの様子を伺うミーリアムの姿があった。その背後には、例の子息の姿もある。
「……いえ、私がこの場を離れる訳には……」
他の男と一緒にいるところなんて一瞬でも映したくなくて、フイッと顔を逸らす。彼女の事を疑っている訳じゃない。ただ、この心境で彼女と対峙した時に、自分を保てるか自信がない。
「お前は本当にクソ真面目で不器用だな。見ているこちらの方が気を揉む」
「……陛下、言葉遣いには気を付けてください」
「お前しか聞いていなんだ許せ」
「そう言う事を言っているんじゃないんですよ」
諭すように伝えるが、陛下は口元を緩めたままだった。分かっているのか分かっていないのか……
「しかし、面白い娘を見つけたな」
笑みを含みながら向けられる視線の先には、料理の並べられたテーブルに齧りつき暴飲暴食をするミーリアム。周りは遠巻きにしているのに、例の子息は甲斐甲斐しく世話を焼いている。
(その場所は俺の……)
ギリッっと歯を食いしばった。
「意地を張らずに行けばいいだろ?」
「……」
「お前が後悔しないと言うのなら構わないが、本当にいいのか?」
肘を付きながら訊いてくる。この人は、俺の気持ちを悟った上で容赦なく追い詰めてくる。
「私は──……」
そう口を開いたところで「おやおや」とわざとらしく驚いた声が聞こえ、顔を上げるとミーリアムが酔いつぶれ、子息に抱かれそうになっているところだった。
「ッ!」
一瞬で頭に血が昇り、気が付けば子息を押し退けミーリアムを抱き上げていた。
「私が連れて行こう」
冷静を装っていたが、血管が破裂しそうなほど血が沸いていたこともあり、大人気ないと思いつつ子息を睨みつけてしまった。
そこでようやく、子息の正体がマクナリー侯爵家の子息だという事を知った。
(確か、兄の方がミーリアムの姉上と婚約中だったな)
という事は、家族同然の関係?
その結論に至ると、少しばかり安堵する自分がいた。
「私がミーリアムの姉の婚約者の弟だと知ってホッとしました?」
俺の心を読んだような言葉にドキッとした。
……レスター・マクナリー。執務官で頭角を発揮し、将来を期待されている人物。常に冷静に物事を考えれる所は、軍事にも役に立つだろうと紹介されたことがあった。
「兄と姉が婚約してようが、私とミーリアムが婚約できない理由にはなりませんよ?」
「……どういう意味だ」
「さあ?私は間違った知識を正しただけです」
シレッと言うこの男の本心が読めない。
牽制……?
それにしては手温い。俺なら二度と近づけないぐらい揺さぶりをかける。
(一体何を考えてる……)
腹の内が視えないヤツは警戒するに越したことはない。
しばらくレスターと睨み合いが続いていたが、腕をギュッと掴まれる感覚で我に返った。
「ミーリアム?」
視線を向けると、顔面蒼白で涙を浮かべたミーリアムが必死に俺にしがみ付いていた。
「……も、もう限k……」
言い切る前に、勢いよく口から吐かれた物が降りかかった……