急募 ガチムチ婚約者募集 *但し45歳以上に限る

15

 ドタドタドタ…!と忙しない足音が聞こえる。

(うるさい…またお姉様ね……)

 まだ覚醒しきれていない頭で考えるが、すぐに意識は再び夢の中へ……

「ミーリアム!!」

 バンッ!と扉が外れそうなほど、大きな音を立てて開かれたと思えば、姉の大声が部屋中に響き渡った。

 その時点で意識が浮上していたが、いつもの事だと軽視して布団の中から出ることはしなかった。むしろ、頭まで覆って声を遮ろうとする。

「ミーリ!ミーリアム!起きなさい!」

 淑女らしからぬ足音で近付き、容赦なく布団を剥がされた。乙女の寝台にあるまじき行為だが、この姉は微塵もそんな事は考えていない。

 そんな事よりも、お姉様の声が脳に響いてガンガンする。例えるなら頭の内部からハンマーで殴られているよう。

「……お姉様…もう少し声量を抑えてもらえます?頭に響いて……」
「あれだけ飲めば当たり前でしょう!?レスターが止めるのも聞かずに飲み続けたのは誰!?自業自得でしょう!?」
「うぅ…」

 普段から口煩いのに、今日は更に煩い……

「まったく、その様子じゃ昨夜なにがあったのか覚えていないわね?」
「え?」

 憐れみながら言う姉に若干の危機感を覚えた。

「あのねぇ、まずはこ(・)こ(・)が何処か分かってる?」
「え、そんなの私の部屋に──……あれ?」

 何を言っているんだと部屋を見渡すと、自分の部屋にしては広い室内に、これまた自分の部屋とは似つかわしいほど豪華な装飾品……やんごとなき匂いがプンプンする。

「えっと~……ここはどちら様宅で?」

 ヘラッと引き攣った笑みを浮かべたまま訊ねると、盛大な溜息が聞こえた。

「よく聞きなさいよ!ここは!王宮の一室なのよ!」
「あぁ~、どうりで……」
「なに平然としてるの!」

 だって、別に部屋数のある王宮に泊まったって誰も困ることはないでしょう?酔った令嬢をそこら辺に放置して問題が起きるよりも、隔離された部屋に寝転がしておいた方が陛下の顔も立つしね。

「持ちつ持たれつですね」
「なにがよ!」

 なるほど。と手を叩きながら納得していると、怒りを通り越して呆れ顔のお姉様が膝から崩れ落ちてた。

「まあまあ、今度陛下にお会いした時にお礼は言っておきますから」
「そう言う事じゃないのよ……」

 なんとか体を起こし、私に向き合うお姉様の表情は真顔。その雰囲気に頭の中で少しの不安がよぎる。

「百歩譲って王宮の部屋を借りたのは目を瞑りましょう。でもね、貴族の集う会場であ(・)ん(・)な(・)事(・)……」
「え」

 思い詰めた顔に言葉を失った。

「呆れた。そこも覚えてないの?」
「え、ちょっと待ってください」

 答えを出そうとするお姉様を止め、痛む頭で昨晩の事を必死に思い出してみる。素直に答えを聞けばいいと思うだろう?それだと、ダイレクトに衝撃を受けて致命傷を負いかねない。ちょっとでも思い出せばその衝撃が和らぐはず。

 えっと、確か……レスターがふざけて私に抱き着いてきた所を運悪くアイヴァン様に目撃され、自暴自棄になってヤケ酒を呷ったまでは覚えてる。

「んん゛~…」

 唸り声をあげながら首を傾げるが、まっっったく思い出さない。

「まあ、あれだけの醜態、思い出さない方が幸せかもしれないわね…」

 お姉様がポツリと呟いた『醜態』という言葉に素早く反応する。

「もしかして何かやらかしました!?」
「落ち着きなさい。もしかしなくてもやらかしたのよ」

 声を上げながら立ち上がる私を宥めるように、落ち着いた声色で肩を掴んできた。

「いいこと?息はしっかり吸うのよ?」

 真っ直ぐに目を見ながら言い聞かせてくる。もう、お姉様の口ぶりで相当な醜態を犯したんであろう事は察する事が出来た。

 問題は、相手が誰か……

 あの時、私の傍にいたのはレスターだけだったが、遠巻きに数人の貴族らが物珍しさに見物していた。
 この時点で令嬢としては十分すぎる醜態を犯しているのだが……これ以上となると……

「あぁ!チェンバレン公爵が隠していた頭皮の秘密を晒しちゃいました!?」

 あの公爵、往生際悪くハゲ隠ししてるからなぁ。気付かれていないと思ってるのは本人だけ。とはいえ、あんな公の場で晒すのはほぼ公開処刑に近い。もしそうならば、本当に申し訳なかった……

 反省の色を示していたが、お姉様の答えは「違う」

「えぇ?じゃあ、ルーサム辺境伯の奥方が男娼に入れ込んでるって話ですか?」

 忙しい旦那様に相手にされず、寂しさを紛らわす為に男娼に手を出したらまんまと蟻地獄に堕ちた哀れなご夫人。寂しからって、男娼なんか安易に手を出すべきじゃない。

 今回は正解かと思ったが、その答えは「違う」

「ん~…となると、ニコロス宰相様が実は幼女趣味で、屋敷には幼い子供の姿絵が何枚もって──…」
「違うわよ!なんでそんな事知ってるの!?」

 食い気味で止められてしまった。

「は、愚問ですね。社交界の噂話は淑女の嗜みですよ?お姉様なら知っているものだと」
「逆になんでそんな闇深いところばかり知るのか教えて欲しいわ…」

 教えて欲しいと言われても……こればかりは企業秘密。

「まあ、いいわ。このままじゃ話がズレちゃう。本題に戻すわよ」

 軌道修正を試みるお姉様に、コクンと頷き口を噤んだ。お姉様は深呼吸するように「スゥ」と息を吸い込むと、ゆっくり口を開いた。

「あのね、酔って足元のおぼつかない貴方をレスターが介抱しようとしたんだけど、それを団長様が止めたの」
「!?」
「貴方を抱き上げた団長様はレスターを牽制していたけど、勢いよく抱き上げられた貴方は一気に酔いが回ったのね。あろうことか団長様の服に……」

 言葉を濁そうとしてくれたけど、そこまで聞けば何が言いたいかすぐに理解できた。

『酔いが回って』『あろうことか』『服』この3点の言葉が導き出す答えは……

(ウソでしょ……アイヴァン様にゲ〇を!?)
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