できないって証明はいらないよ
なんでもできちゃう自分でありたかった。
周りが「伊桜(いお)って頭もいいし、なんでもできちゃうよね」なんて言うせい。
だから、完璧でいなきゃって思うようになった。
挑戦したくないし、できるならもっとなにかに打ち込んで楽しい生活をのうのうとしていたいと思っていた。
でも、そんなことは世界が許さない。
テストの順位はいい方だったし、成績だって上位の方だし。
でも、決して本気を出して打ち込んだことはなかった。
だって、本気を出して、ミスして、それが噂されたら?
私は完璧じゃなくなる。
ってことは、“できない”ことの証明がされる。
そんなのやだよ。

出雲(いずも)さん、今度英語の弁論大会があるんだけど、出てみない?」

「えっ、私が…ですか」

突然英語の先生にそう言われた。
私は理由を尋ねる。

「出雲さん、いつもスピーチはS評価で、学年で1番だから。どう?」

先生の期待には応えなきゃいけない。
いい子ちゃんぶってる私に、断る選択肢はなかった。
まもなく弁論大会の練習が始まった。
いい感じの出来だし、結構自信はある。
そんな感じで弁論大会前日を迎えた。

「それでは、これから英語弁論大会に出場する生徒2人の発表です。どうぞ」

前日の全校朝会にて、リハーサルが行われる形となった。
3箇所くらいつっかえたけど、本番じゃないし。
なにより、もうひとりの子より私の方がずっと上手だし。
別に平気。
そんなふうに考えてたけど、全部打ちのめされた。

「出雲さんは、ちょっと早い。聞き取りづらいよ。あとは、抑揚もない。もっと感情込めて」

悔しかった。
なにそれ、うるさい。
私はちゃんと感情込めてやってるし。
1個下の学年の英語の先生に、そんな指摘をされて嫌な気持ちでいっぱいだった。
だから、家に帰って全力で練習した。
全国大会で優勝してる子の動画を見て、頑張ってやってみた。
それで、お母さんに練習に付き合って、と言った。

「うーん、申し訳ないけど、伊桜のスピーチからはなんか、なにも感じられない」

なにそれ、なにそれ…!!
前日でこれって、おかしいじゃん!
でも、ずっと本気じゃなかった。
だってできない証明がされちゃうかもしれないから。
私は自分を落ち着かせた。
ダメだし。
本気出さない程度に、でも1位取れるくらい真剣にやろ。
それから3時間の練習の後。

「うん。いいじゃん。めっちゃ気持ち伝わってくるよ」

やった。
私はぬか喜びした。
そして当日、私はやり切った。
これなら県大会もいけるって思った。
ALTの先生にも、よかったって口々に言ってもらえた。
評価は絶対いい。
私は期待した。
それで閉会式、トップ10の発表があった。

だけど、そこで私の名前は呼ばれなかった。

悔しい、悔しい。
なんで、なんで1位じゃないの!?
1位の子、パッとしない感じでジェスチャーもなかったじゃん!!
意味わかんない。
帰り道、私の気持ちは沈んでいた。

「こう考えると、やっぱ弁論大会、出た意味なかったんじゃないかな。結果出せなかったし」

最悪、って思った。
結果がないんじゃ、意味ない。
高校入試の加点になるって言うからやったのに。
トップ10にも入らないんじゃ、無理じゃん。
とにかく、後悔しか残んなかった。
でも次の日、先生は言った。

「悔しいとか、そういう気持ちはあるだろうけど、でも、この弁論大会に出たってことに大きな意味があるから。だってさ、挑戦するってキツくない?新しいことやるって、ほんとすごいことだと思う。それにさ、今の気持ちは、第一中学校の中で2人しか味わえないものじゃん?なら、それを感じられたことに意味があるんだよ。あそこまでの完成度のスピーチをできたのは本当にすごいことだよ。誇っていいことだ。間違いなく、君たちは一歩踏み出したんだから」

そうだ、私は最初弁論大会に出たくなかったんだ。
でも、こんだけ頑張ってやった。
そのこと全てに意味があるんじゃない?
そう思ったら、練習してきた日々は輝いて見えた。

いい経験だった。

胸を張ってそう言えるんじゃないかって思った。
これはきっと、私の“挑戦”だったんだ。
悔しい思いをしたのは、私は少なからず本気を出したから。
結果なんて二の次でいいんだ。
ただ、挑戦すること、一歩踏み出すこと。


これってこんなに楽しいものだったんだ。

end
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