転生ヒロインが猫耳イケメンと和風異世界を探遊する話
2.猫耳異世界
次に花凛が目を開けた時、そこは見知らぬ部屋だった。
温かな色合いの木の壁と、柔らかな日差しが差し込む窓。木製の家具に、見たことがない複雑な模様の絨毯が彩りを添える。
「……ここが異世界?」
小さく呟いて、花凛はゆっくりと体を起こした。
体に痛みはない。むしろ、事故に遭う前よりもずっと軽い気がする。手を握ったり開いたりしてみても、何の問題もなかった。
そして。
「……おぉ」
視界の端に、ふわりと揺れるものがあった。茶トラ模様の、ふわりと長い尻尾だ。花凛がそっと手を伸ばして触れると、今までにない感覚が返ってくる。
「……しっぽだぁ」
さらに視線を下げると、基本的には人間と変わらない手足が見えた。あえて違う点を探すならば、爪だけ少し鋭いだろうか?
(確か、頭に耳があったよね)
リオンの姿を思い出しながら、そっと手で頭に触れる。するとフワフワとした触感と、耳を触られた感覚があった。
ハッと気づいたようにグルリと花凛は部屋を見渡す。その目が壁際にある大きな鏡を見つけた。
花凛は鏡に駆け寄ると、その中に映る女性を見た。
そこには、茶色の髪と猫耳を持つ女性が映っていた。髪の色は、元の世界で見慣れていた自分の黒髪とは違う。毛質も猫っ毛で柔らかい。瞳は琥珀色をしていた。
顔立ちは元の自分に似ているが、かつてより断然、可愛らしい。けれど、それよりも。
「……本当に猫獣人になってる」
花凛は鏡の中の自分を、しばらくじっと見つめた。恐る恐る尻尾を動かしてみると、ふわりと思いのまま尻尾は動く。
「……動いた」
もう一度、ふわりふわり。
「すごい……!」
花凛が目の前にきた尻尾を掴もうとしたところで、扉が控えめに叩かれた。
「花凛様。目が覚めましたか?」
聞き覚えのある声に、花凛は顔を上げた。
「はい、起きてます!」
「入りますね」
扉が開き、茶色の髪をした青年が入ってくる。猫耳は、今も少しだけ伏せられていた。
「リオンさん!」
「具合はどうですか?」
「大丈夫です! それより、これ!」
花凛は自分の猫耳を指差した。
「本当に猫獣人になってます! 尻尾もあります! すごいですね!」
「……そうですね」
「しかも、猫にもなれるんですよね?」
「はい、できますよ」
キラリと花凛の瞳が光った。
「お手本、見せてくれますか?」
「……見てどうにかなるものでも、ないですが」
「見たいです!」
花凛の圧に苦笑して。リオンの不思議な色の瞳が閉じられた。次の瞬間、そこには前に見た茶トラの猫が居た。
「わぁ……!」
花凛は思わずしゃがみ込む。
「やっぱり可愛い……!」
花凛が手を伸ばすと、猫姿のリオンは迷うことなく彼女の手に首をスリスリと擦り付ける。
「ふふっ。撫でていいんですか?」
返事するようにリオンがニャッと鳴いた。それがレオにそっくりで……花凛は懐かしいような気持ちで彼を撫でる。背中からゆっくりと撫でると、柔らかな毛並みが指の間を滑っていく。
「……あー、幸せ」
思わず呟くと、リオンの尻尾が嬉しそうに揺れた。そのまま花凛が無心でリオンを撫でていると、彼が何か言いたげにニャオンと鳴いた。手を止めた花凛の元から猫の姿が消え、リオンが元の青年の姿に戻った。
「……花凛様」
「はい?」
「そろそろ、こちらの世界について説明をしても良いですか?」
「あ、はい。すみません」
花凛は慌てて立ち上がった。
「リオンさんが可愛くて、つい……」
「いえ。……構いません」
そう言いながらも、リオンの頬は少しだけ赤くなっているように見えた。
リオンが引いてくれた椅子に花凛は腰を下ろす。リオンも向かいに座った。
「まず、ここはリオンさんの生まれた世界なんですよね?」
「はい。様々な獣人族たちが暮らしています」
「獣人しかいないんですか?」
「えぇ。あとは、花凛様の元の世界とは違い、魔術のようなもの——神術が存在しています」
「神術……!」
花凛の目が輝いた。何を隠そう、彼女の趣味は猫とゲームだった。リオンは、そんな彼女の様子に、フワリと笑った。
「……神術に興味があるんですか?」
「あります! 神術があるなら、使ってみたいです!」
「花凛様には、猫神様から祝福が与えられてるはず。なので、基本的な術であれば、すぐに使えると思いますけど……」
「本当ですか?!」
猫神様とは、あの白い部屋の少女のことだろう。彼女に心中で感謝を捧げる。
浮かれた様子の花凛にリオンが少し苦笑した。
「ただし、無理はしないようにしてください」
「分かりました!」
花凛は元気よく頷く。
それから、リオンは、この世界のことを色々教えてくれた。獣人族には猫獣人のほかにも、犬獣人、狼獣人、兎獣人、狐獣人などがいること。
神術や戦闘技術を学ぶための学舎のような場所があり、冒険者のような仕事もあること。
……そして。
「……ダンジョン?」
「えぇ。ある日突然現れた迷宮のような場所です。魔物や魔法石、珍しい素材などが手に入りますよ」
「ダンジョンがあるんですか?!」
リオンの説明に花凛は思わず立ち上がった。憧れのゲームの世界だ。キラキラとした目がリオンを見つめる。
「行きたいです!」
「……」
リオンが黙ったのを見て、花凛は彼を困らせただろうかと、ようやく気づいた。親切にしてくれる彼に迷惑をかけたいわけではなかった。
「……駄目ですか?」
「……いえ。……でも、花凛様は、この世界に来たばかりですし……」
「でも、祝福? ……があるんですよね?」
「……猫神様から祝福が、どの程度のものかは、俺にも分かりません」
心配そうに言うリオンに、迷惑をかけてはダメだと言う気持ちと、それでもダンジョンが気になる気持ちが、せめぎ合う。押し黙った花凛に、リオンは苦笑して条件を出した。
「……俺も一緒なら、いいですよ」
「いいんですか?」
「はい。俺が花凛様を守ってみせるので」
「ありがとう、リオンさん!」
嬉しそうな花凛にリオンも目を細めた。それから、何かに気づいたように口を開く。
「そうだ……そのかわり俺からもう一つ、お願いがあります」
「なに?」
「普通に喋っても良い? 花凛ちゃん?」
「もちろんだよ! 私もリオン君って呼んでいいかな?」
「あぁ、もちろん」
小さく首を傾げたリオンに花凛は頷く。
(せっかくだから、仲良くなれると嬉しいなぁ)
「じゃあ、花凛ちゃん。行こっか?」
「うん」
差し出されたリオンの取って。こうして花凛の異世界生活の幕は上がった。
温かな色合いの木の壁と、柔らかな日差しが差し込む窓。木製の家具に、見たことがない複雑な模様の絨毯が彩りを添える。
「……ここが異世界?」
小さく呟いて、花凛はゆっくりと体を起こした。
体に痛みはない。むしろ、事故に遭う前よりもずっと軽い気がする。手を握ったり開いたりしてみても、何の問題もなかった。
そして。
「……おぉ」
視界の端に、ふわりと揺れるものがあった。茶トラ模様の、ふわりと長い尻尾だ。花凛がそっと手を伸ばして触れると、今までにない感覚が返ってくる。
「……しっぽだぁ」
さらに視線を下げると、基本的には人間と変わらない手足が見えた。あえて違う点を探すならば、爪だけ少し鋭いだろうか?
(確か、頭に耳があったよね)
リオンの姿を思い出しながら、そっと手で頭に触れる。するとフワフワとした触感と、耳を触られた感覚があった。
ハッと気づいたようにグルリと花凛は部屋を見渡す。その目が壁際にある大きな鏡を見つけた。
花凛は鏡に駆け寄ると、その中に映る女性を見た。
そこには、茶色の髪と猫耳を持つ女性が映っていた。髪の色は、元の世界で見慣れていた自分の黒髪とは違う。毛質も猫っ毛で柔らかい。瞳は琥珀色をしていた。
顔立ちは元の自分に似ているが、かつてより断然、可愛らしい。けれど、それよりも。
「……本当に猫獣人になってる」
花凛は鏡の中の自分を、しばらくじっと見つめた。恐る恐る尻尾を動かしてみると、ふわりと思いのまま尻尾は動く。
「……動いた」
もう一度、ふわりふわり。
「すごい……!」
花凛が目の前にきた尻尾を掴もうとしたところで、扉が控えめに叩かれた。
「花凛様。目が覚めましたか?」
聞き覚えのある声に、花凛は顔を上げた。
「はい、起きてます!」
「入りますね」
扉が開き、茶色の髪をした青年が入ってくる。猫耳は、今も少しだけ伏せられていた。
「リオンさん!」
「具合はどうですか?」
「大丈夫です! それより、これ!」
花凛は自分の猫耳を指差した。
「本当に猫獣人になってます! 尻尾もあります! すごいですね!」
「……そうですね」
「しかも、猫にもなれるんですよね?」
「はい、できますよ」
キラリと花凛の瞳が光った。
「お手本、見せてくれますか?」
「……見てどうにかなるものでも、ないですが」
「見たいです!」
花凛の圧に苦笑して。リオンの不思議な色の瞳が閉じられた。次の瞬間、そこには前に見た茶トラの猫が居た。
「わぁ……!」
花凛は思わずしゃがみ込む。
「やっぱり可愛い……!」
花凛が手を伸ばすと、猫姿のリオンは迷うことなく彼女の手に首をスリスリと擦り付ける。
「ふふっ。撫でていいんですか?」
返事するようにリオンがニャッと鳴いた。それがレオにそっくりで……花凛は懐かしいような気持ちで彼を撫でる。背中からゆっくりと撫でると、柔らかな毛並みが指の間を滑っていく。
「……あー、幸せ」
思わず呟くと、リオンの尻尾が嬉しそうに揺れた。そのまま花凛が無心でリオンを撫でていると、彼が何か言いたげにニャオンと鳴いた。手を止めた花凛の元から猫の姿が消え、リオンが元の青年の姿に戻った。
「……花凛様」
「はい?」
「そろそろ、こちらの世界について説明をしても良いですか?」
「あ、はい。すみません」
花凛は慌てて立ち上がった。
「リオンさんが可愛くて、つい……」
「いえ。……構いません」
そう言いながらも、リオンの頬は少しだけ赤くなっているように見えた。
リオンが引いてくれた椅子に花凛は腰を下ろす。リオンも向かいに座った。
「まず、ここはリオンさんの生まれた世界なんですよね?」
「はい。様々な獣人族たちが暮らしています」
「獣人しかいないんですか?」
「えぇ。あとは、花凛様の元の世界とは違い、魔術のようなもの——神術が存在しています」
「神術……!」
花凛の目が輝いた。何を隠そう、彼女の趣味は猫とゲームだった。リオンは、そんな彼女の様子に、フワリと笑った。
「……神術に興味があるんですか?」
「あります! 神術があるなら、使ってみたいです!」
「花凛様には、猫神様から祝福が与えられてるはず。なので、基本的な術であれば、すぐに使えると思いますけど……」
「本当ですか?!」
猫神様とは、あの白い部屋の少女のことだろう。彼女に心中で感謝を捧げる。
浮かれた様子の花凛にリオンが少し苦笑した。
「ただし、無理はしないようにしてください」
「分かりました!」
花凛は元気よく頷く。
それから、リオンは、この世界のことを色々教えてくれた。獣人族には猫獣人のほかにも、犬獣人、狼獣人、兎獣人、狐獣人などがいること。
神術や戦闘技術を学ぶための学舎のような場所があり、冒険者のような仕事もあること。
……そして。
「……ダンジョン?」
「えぇ。ある日突然現れた迷宮のような場所です。魔物や魔法石、珍しい素材などが手に入りますよ」
「ダンジョンがあるんですか?!」
リオンの説明に花凛は思わず立ち上がった。憧れのゲームの世界だ。キラキラとした目がリオンを見つめる。
「行きたいです!」
「……」
リオンが黙ったのを見て、花凛は彼を困らせただろうかと、ようやく気づいた。親切にしてくれる彼に迷惑をかけたいわけではなかった。
「……駄目ですか?」
「……いえ。……でも、花凛様は、この世界に来たばかりですし……」
「でも、祝福? ……があるんですよね?」
「……猫神様から祝福が、どの程度のものかは、俺にも分かりません」
心配そうに言うリオンに、迷惑をかけてはダメだと言う気持ちと、それでもダンジョンが気になる気持ちが、せめぎ合う。押し黙った花凛に、リオンは苦笑して条件を出した。
「……俺も一緒なら、いいですよ」
「いいんですか?」
「はい。俺が花凛様を守ってみせるので」
「ありがとう、リオンさん!」
嬉しそうな花凛にリオンも目を細めた。それから、何かに気づいたように口を開く。
「そうだ……そのかわり俺からもう一つ、お願いがあります」
「なに?」
「普通に喋っても良い? 花凛ちゃん?」
「もちろんだよ! 私もリオン君って呼んでいいかな?」
「あぁ、もちろん」
小さく首を傾げたリオンに花凛は頷く。
(せっかくだから、仲良くなれると嬉しいなぁ)
「じゃあ、花凛ちゃん。行こっか?」
「うん」
差し出されたリオンの取って。こうして花凛の異世界生活の幕は上がった。
