2度目は和風異世界でニャン生を

4.青魚のタタキ

 店を出ると、空は黄昏ていた。花凛はリオンに手を繋がれたまま、少し人の減った大通りを歩く。スイスイと慣れた足取りでリオンは大通りから、少し逸れる。土で出来た脇道も、先ほどの大通りほどではないが賑わっている。

 脇道に並ぶ店の中から、リオンが一軒の店に入る。扉の上に掲げられていた木製の看板には、肉とジョッキの絵が描かれていた。

「ここにしようか。料理が美味しいし、気取らない、いい店だから。ゆっくり出来るかなって」

 店の中は居酒屋風で、ザワザワとした喧騒に包まれていた。厨房からは焼いた肉や魚の香ばしい匂いが漂ってくる。木製のテーブルと椅子が並び、店内には多種多様な獣人たちの姿があった。

「わぁ、なんだか居酒屋さんみたいだね」
「うん、似たような雰囲気かなと思って」
「リオン君って、居酒屋さんを知ってるんだ?」
「……まぁね。……花凛ちゃんの世界には、猫としてだけど、時々、行ってたから……」

 歯切れ悪く答えたリオンの声には後悔が滲み出ていた。きっと花凛が、この世界に来ることになった経緯を思い出してしまったのだろう。気にすることはないよ、という気持ちを込めて、花凛がリオンの手を優しく握ると、ハッとしたようにリオンは顔を上げて、微笑みを浮かべた。

 それから、彼は慣れた様子で壁際にある丸い机に向かうと、備え付けられた木の椅子に花凛を座らせて、自分は隣の椅子に腰掛ける。

 椅子に座った花凛は、周囲を見回した。あちこちから楽しそうな話し声が聞こえて、美味しそうな匂いがしてくる。それは、本当に、どこにでもある居酒屋を思い出させて。

(もしかして、私が緊張しないように、このお店を選んでくれたのかな?)

「うん。こういうところ、好きかも」
「そっか……良かった。でも、向こうみたいにメニュー表はないんだ。識字率が高くないからね」
「そうなんだ」

 なるほど、だからこの店の看板は記号で表されていたのかと納得しながら、どうやってメニューを頼むんだろうと花凛は首を捻った。そこに店員の女性が、やってくる。

「今日のオススメは鳥の唐揚げと、青魚のタタキだよ」
「じゃあ、それを一つずつ。他に肉料理はある?」
「肉と芋の煮物と、生姜焼きならあるよ」
「じゃあ、それも一つずつ。あと赤身魚の刺身とご飯も。飲み物は果実ジュースを2つ。あ、小皿も欲しいな」
「はいよ」

 女性が厨房の方へと消えていくのを見送って、花凛は驚きの感情のまま口を開いた。

「和食、あるんだね?」
「うん、ここ猫神之都(ねこがみのみやこ)は割と和風のものも多いよ。北大路(北の大通り)は十三比良坂(ダンジョン)の影響で、異国の店が多いけど、南大路(南の大通り)は基本は和風の建物だね。服装も冒険者は異国風だけど、都の人たちは着物の人もいるよ」
「……そうなんだ」

 なら食べるものには困らなさそうかも、と思いながら花凛は頷く。そうこうしている間に、手早く出来る赤身魚のタタキと刺身が出て来る。一緒に出てきたのは箸だ。

「猫神之都は海にも近くてね。こうしてお刺身も食べられる。花凛ちゃんも、良かったら食べてみて?  美味しいから」
「うん」

 花凛は、リオンが手早く取り分けてくれた赤身魚の刺身を食べてみる。

「マグロだ! 美味しい」
「良かった。こっちのタタキはカツオ風だよ」
「ホントだ! こっちも美味しい!」
「ここのタタキは絶品で、俺も大好きなんだ」

 ニコニコ笑いながらリオンもタタキへと箸を伸ばす。口に入れる前から、彼の尻尾がピンと立って嬉しさを伝えてきて、花凛まで嬉しくなった。

「リオン君も、カツオが大好きなんだね」
「……リ(・)オ(・)ン(・)君(・)も(・)?」
「うん、レオもカツオが大好きでね。食べる時、いつも尻尾をピンと立ててたなって。私、ご機嫌でご飯を食べるレオの姿が大好きだったの」
「……そっか」

 ピタリと箸を止めたリオンに花凛は慌てた。いくらリオンが猫獣人とはいえ、猫(レオ)と一緒にされるのは嫌だったかも知れない。
 花凛は場を和ませようと、他の話題を探す。けれど結局、良い話題は見つからずに、謝罪の言葉が口をついた。

「……ごめんね、猫と一緒の扱いは嫌だったよね……?」
「……ううん、そんなことないよ。でも、花凛ちゃんを……レオと引き離しちゃったなって……ごめんね」
「ううん、レオはね、少し前に……天国に行っちゃったんだ……だから、リオン君が引き離したわけじゃないの」
「そっか……ありがとう。やっぱり優しいね、花凛ちゃんは。……実は、さっきの話、花凛ちゃんがレオを大好きだったんだなって、伝わってきて嬉しくもあったんだよ? 花凛ちゃんが辛くなかったら、いつでもレオの話、聞かせて?」

 そう言ったリオンの目は、切ないような、愛おしような熱を孕んでいた。
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