エタってしまった小説の世界で、ヤンデレ化した勇者が離してくれません。~聖女と呼ばれ執愛されていますが……読者です!~
「――言っておくが僕は知らないぞ。まったく魔力の消費が激しすぎる……200年は寝るから、絶対起こすなよ」
謎の美丈夫によって口付けられ慄いていると、近くで不機嫌そうな口調の少年が片手をひらつかせ背を向けた。
その後ろ姿には蝙蝠のような羽、頭部には羊の角が付いていた。
「あぁ、十分だ。よくやってくれたよ」
「当然だ」
ハロウィン?ならば納得出来るような、謎のコスプレ少年は紗希のことなど目もくれずどこかへ行ってしまった。
残されたのは紗希と美麗な不審者。
二人きりになってしまい、無意識に視線を周囲に巡らせた。
何が、どうして、こんな所にいるのだろう。夢でも見ているのか。
荘厳な静けさの中に退廃的な雰囲気を漂わせる閉塞的な場所ということぐらいしか分からない。
閉塞的と感じたのは、この場所に人為的な青白い灯り以外の自然光がないからで、天井こそ見えないが日光の差し込む気配がまったくなかった。
言わば、廃墟となった大聖堂のような。
少しカビ臭くて、何かに破壊されつくされたようにそこら中が崩壊している。
そして男の側には石像が一体。
その袂にひび割れた祭壇が残っていた。なんとも不気味すぎる。
「大丈夫ですか?聖女様」
男に再び呼びかけられた。
言語は伝わるが、やはり意味が分からない。
「あの……聖女って……」
「あなたです」
「私?」
「はい」
掠れた声でようやく出てきた辿々しい問いに、男は身に覚えのない役職を紗希に押し付ける。しかも何故かどことなく嬉しそうだ。
「多分、人違いだと思うのですが……」
「まさか。俺が聖女様を間違えるわけがありません。でも確かに……こうやって会うのは初めてですからね、混乱されるのも無理ないか……あなたが何もかも見通していると考えるのは短慮だったな」
男は自信を持って宣言する一方で、視線を下げると今度は一人で呟き始めた。
そこで紗希はこっそり三歩ほどじわじわ男から距離を置いた。
日本人男性の平均と比べて抜きん出て大きな身体に、ちょっとした威圧を感じていたのだ。
それに獣と遭遇した時は、騒がずそっと慎重に下がるべきだいうイメージがあったので。
しかし男は徐に立ち上がるや長い脚で一歩、意図も容易く距離を詰め、紗希の腰に腕を回し横抱きにする。
身体がふわりと宙に浮いた。
重力を感じるのに足裏は地面との接点が消えてしまって酷く心許ない。
「なんですか!?あなたっ……」
あまりの手際の良さにまともな反論の余地もないまま紗希は戦慄し生唾を飲み込む。
本当に、一体何のつもりだろう。
謎の美丈夫によるお姫様抱っこも、いきなり迫られるシチュエーションも、これは絶対三次元に持ってきてはならない。
不審者にしかならないから!
しかもその不審者は不敵に微笑むと問答無用で紗希の頭頂部に口付ける。
「改めて名乗らせていただきましょう。俺の名はバルトレッド。転生者だとか自称するクソ女と共に、魔王討伐の任を押し付けられたバルトレッドです。ずっと俺を見てくれていたなら分かるでしょう?」
紫水晶の瞳が柔く細められた。と同時に紗希は、とても信じられず目を瞠る。
これは何かの冗談だろう。でなければ幻覚に違いない。
男の告げた“バルトレッド”という名。その名に聞き覚えがある故に、紗希は自分の記憶を必死に手繰り寄せる。
まさか自分で思っていた以上に、あの続きを熱望していたのだろうか。だからこんな非現実的な夢を?
――――拝啓 『王太子と異世界女に二度裏切られた私は、悪辣勇者に溺愛される』の作者様
初めて問い合わせさせていただきます。
夢か現実か定かでないのですが、作者様の作品をチェックしていたある日、突然ヒーローの名を騙る不審者が現れました。
言動はともかく素晴らしい再現率です。
まるで流行りの異世界転移でもしたのかと疑うほどに。
しかし作者様。彼はたしか冷徹無慈悲な悪辣男で、傲慢なダークヒーロー的な人柄だったと思うのですが、私の認識は誤りだったのでしょうか。
少なくとも初対面の女性に跪き、愛を囁くような人物ではなかったはず……というか、こんなことってあり得ないでしょう!?
謎の美丈夫によって口付けられ慄いていると、近くで不機嫌そうな口調の少年が片手をひらつかせ背を向けた。
その後ろ姿には蝙蝠のような羽、頭部には羊の角が付いていた。
「あぁ、十分だ。よくやってくれたよ」
「当然だ」
ハロウィン?ならば納得出来るような、謎のコスプレ少年は紗希のことなど目もくれずどこかへ行ってしまった。
残されたのは紗希と美麗な不審者。
二人きりになってしまい、無意識に視線を周囲に巡らせた。
何が、どうして、こんな所にいるのだろう。夢でも見ているのか。
荘厳な静けさの中に退廃的な雰囲気を漂わせる閉塞的な場所ということぐらいしか分からない。
閉塞的と感じたのは、この場所に人為的な青白い灯り以外の自然光がないからで、天井こそ見えないが日光の差し込む気配がまったくなかった。
言わば、廃墟となった大聖堂のような。
少しカビ臭くて、何かに破壊されつくされたようにそこら中が崩壊している。
そして男の側には石像が一体。
その袂にひび割れた祭壇が残っていた。なんとも不気味すぎる。
「大丈夫ですか?聖女様」
男に再び呼びかけられた。
言語は伝わるが、やはり意味が分からない。
「あの……聖女って……」
「あなたです」
「私?」
「はい」
掠れた声でようやく出てきた辿々しい問いに、男は身に覚えのない役職を紗希に押し付ける。しかも何故かどことなく嬉しそうだ。
「多分、人違いだと思うのですが……」
「まさか。俺が聖女様を間違えるわけがありません。でも確かに……こうやって会うのは初めてですからね、混乱されるのも無理ないか……あなたが何もかも見通していると考えるのは短慮だったな」
男は自信を持って宣言する一方で、視線を下げると今度は一人で呟き始めた。
そこで紗希はこっそり三歩ほどじわじわ男から距離を置いた。
日本人男性の平均と比べて抜きん出て大きな身体に、ちょっとした威圧を感じていたのだ。
それに獣と遭遇した時は、騒がずそっと慎重に下がるべきだいうイメージがあったので。
しかし男は徐に立ち上がるや長い脚で一歩、意図も容易く距離を詰め、紗希の腰に腕を回し横抱きにする。
身体がふわりと宙に浮いた。
重力を感じるのに足裏は地面との接点が消えてしまって酷く心許ない。
「なんですか!?あなたっ……」
あまりの手際の良さにまともな反論の余地もないまま紗希は戦慄し生唾を飲み込む。
本当に、一体何のつもりだろう。
謎の美丈夫によるお姫様抱っこも、いきなり迫られるシチュエーションも、これは絶対三次元に持ってきてはならない。
不審者にしかならないから!
しかもその不審者は不敵に微笑むと問答無用で紗希の頭頂部に口付ける。
「改めて名乗らせていただきましょう。俺の名はバルトレッド。転生者だとか自称するクソ女と共に、魔王討伐の任を押し付けられたバルトレッドです。ずっと俺を見てくれていたなら分かるでしょう?」
紫水晶の瞳が柔く細められた。と同時に紗希は、とても信じられず目を瞠る。
これは何かの冗談だろう。でなければ幻覚に違いない。
男の告げた“バルトレッド”という名。その名に聞き覚えがある故に、紗希は自分の記憶を必死に手繰り寄せる。
まさか自分で思っていた以上に、あの続きを熱望していたのだろうか。だからこんな非現実的な夢を?
――――拝啓 『王太子と異世界女に二度裏切られた私は、悪辣勇者に溺愛される』の作者様
初めて問い合わせさせていただきます。
夢か現実か定かでないのですが、作者様の作品をチェックしていたある日、突然ヒーローの名を騙る不審者が現れました。
言動はともかく素晴らしい再現率です。
まるで流行りの異世界転移でもしたのかと疑うほどに。
しかし作者様。彼はたしか冷徹無慈悲な悪辣男で、傲慢なダークヒーロー的な人柄だったと思うのですが、私の認識は誤りだったのでしょうか。
少なくとも初対面の女性に跪き、愛を囁くような人物ではなかったはず……というか、こんなことってあり得ないでしょう!?