王子様になりたい ~王子様の恋愛指南~

おまけ:第5話

 入社して三年目。
 ある日の昼休み。午前中の仕事を終えた私は、気分転換として社内カフェで昼食を取ることにした。
「齋藤くん、相席いいですか」
 社内カフェの奥まった席で、一人サンドイッチを食べていると、二杯のコーヒーを両手にした加藤先輩が近づいてきた。
「ええ、構いませんよ」
「ありがとう。藤島ちゃんが外回りでいないから、寂しくて」
 加藤先輩は、わざとらしく眉を下げた。本当に落ち込んでいるわけではなく、あくまでも場を和ませるための冗談だろう。
「はい、付き合ってくれるお礼」
 正面に座った加藤先輩は、両手に持っていたコーヒーから一杯を差し出してくれた。気遣いに礼を言い、ひと口飲めば、重厚な香りが口いっぱいに広がった。
「ねえ、齋藤くん。今日はいい話を持ってきたよ」
「いい話、とは?」
 私が興味を示せば、加藤先輩は「待ってました」と言わんばかりに勢いよく両手を叩いた。その衝撃で、コーヒーの水面が微かに揺れた。
「藤島ちゃんの好きな物を知ってるかい」
 藤島さんの好きな物。心当たりのあるものをいくつか思い浮かべてみる。確か、彼女が使っていたボールペンに星型のキャラクターが描かれていた。
「もしかして、スターちゃんというキャラクターですか」
「正解。藤島ちゃんが自分のことを語る機会って少ないのに。さすが、齋藤くんだよ」
 含みのある言い方に加えて、したり顔。
 完全に遊ばれている。
 この空気を変えるため、わざとらしく咳払いしてみる。
「……その、スターちゃんがどうかされたのですか」
「実は、来週の日曜日から山田駅のショッピングモールでイベントを開催するらしいの。せっかくだし藤島ちゃんを誘ってみたら?」
 なんともおせっかいな先輩だ。
 しかし藤島さんとの「同期」の壁が厚く、手をこまねいていたのも事実。
 吉と出るか凶と出るか。
 私は「検討しておきます」とだけ言い残し、コーヒーを一口含んだ。
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