『冥府の門番は今日も忙しい!――聞いてないぞ! 死神が仕事放棄とか!――』
 天界へ向かう転移門は、冥府庁のものとは比べものにならないほど静かだった。

 白い光が足元からゆっくりと立ち昇り、視界を包んだと思った次の瞬間には、空気そのものが変わっている。冥府のひんやりとした空気とは違う柔らかな温かさが全身を包み、頭上にはどこまでも淡い青空が広がっていた。

 遠くには白銀の塔が幾つも浮かび、その間を翼を持つ天界人たちが行き交っている。ところどころでは金色の光を纏った巨大な鳥まで悠然と空を飛び、久しぶりに来た俺ですら一瞬目を奪われるのだから、子どもたちにとってはなおさらだった。

「すごーい!」

 転移した瞬間から目を輝かせていた朔が走り出そうとしたため、すぐに襟を掴んで引き戻す。

「走るなよ」

「だって広いもん」

「広くても駄目だ」

 灯里が面白そうに笑う。

「パパ、ここで迷子になったら?」

「探すけど面倒だから迷子になるな」

「パパらしい」

 何だ、その納得の仕方。

 千景はそんな俺たちを見ながら、小さく笑っていた。

「でも、本当に久しぶりね」

「お前が来るのは久しぶりか」

「灯里たちが小さい頃以来じゃない?」

 言われてみれば確かにそうだった。

 母さんが孫たちだけを天界へ連れていくことは時々あったが、俺と千景まで揃って来ることは滅多にない。そもそも俺自身、必要がなければ天界へ来ようとはしなかった。

 嫌いなわけじゃない。ただ、ここへ来ると妙に疲れる。

 
< 38 / 54 >

この作品をシェア

pagetop