夏の君が好きだ
夏の君が好き
「今日は今年一番暑い日です。水分ほきゅ…」
いつも見ているニュース番組の天気予報コーナーが始まる。…ということは学校に行く時間だ。
今日は夏休みに入って久しぶりの学校だ。理由は指名者の補習。進学校に入っただけあって、ここまで手厚いとは知らなかった。
俺は食べている途中のトーストを、無理やり口に詰め込んで「行ってきまーす」と家中に響き渡るように大声で叫んで、自電車に飛び乗った。確かに今日はニュースで言ってた通り、いつもより暑い気がする。
俺はタオルで汗を吹きながら、駅へと自転車のスピードをあげる。
駅の改札口はいつもより空いていた。多分普段乗る予定の電車を乗り過ごしたからだ。とは言っても十分人は多い。
俺は汗拭きシートで体を吹き、水分を取った後に英語の単語帳を開いた。
暑い暑い、その単語しか頭の中に浮かばず、ただ単語帳を眺めていると、駅のスピーカーから聴き飽きた音楽が流れてくる。電車がようやく来たようだ。
ゾロゾロと人が流れるように降りて行き、また流れるように人が乗る。
結構学校まで遠いから座れますように、と祈りながら乗ると、祈りが叶ったのか席が空いていた。
俺は周りに恒例の方がいないかを確認して、席につき、また単語帳を開いた。
せめて五分でも、、そう自分に勇気付けようとしたけれどダメだった。睡魔が襲ってくる。
俺は手をつねったり、目薬をさして見たりと色々挑戦したけどダメだった。
少しだけ、少しだけ、心の中で唱えているうちにどんどん眠く練ってきたような...。
「あの、、あの、、」
誰かの声と、誰かが俺の肩を叩いている。俺はゆっくりと目を開けた。
「やっと起きた」
さっきの声だ。俺は声のする右側をみると、見覚えのない同じ学校の制服を着た女子がいた。
俺は扉の上の車内案内表示器を確認した。
「次は…」表示されている駅は、学校の最寄り駅をいくつも過ぎた駅だった。
周りを見渡すと、電車には誰も同じ学校の生徒がいない。いつもなら乗っているはずなのに。
いるのは隣にいる誰か知らない人だ。
俺はさっきの会話を思い返した。もしかして…
「起こそうとしてくれていたんですか?」
彼女は小さく笑って、「そうですよ。おかげで学校絶対遅刻です」と言った。
申し訳ない。どうすればいい。とりあえずこの人の担任に謝罪して、この人の家族にも謝らないと。冷や汗が流れてくる。
「とりあえず急いで引き返しましょう」
俺はスマホを取り出して、時刻表を調べることにした。母や学校から何件か通知がある。終わった…。
「私はもうめんどくさいので、そのまま海へでも行きます。別に気にしないで下さい」
「え…」
俺はどうすればいいのか分からずに固まった。
わざわざ俺を起こすために遅刻してくれた彼女に着いて行くか、自分だけ補習に間に合うように戻るか。
「とりあえず、名前とか聞いて良いですか?」
彼女は少し驚いた表情を見せた。もしかして同じ学年だったりするのだろうか。向こうは俺を知っていたりするのだろうか。もしそうならば、気まずすぎる。
「山下海香です。一年二組です」
「海香?」
俺は不思議な名前に聞き返してしまった。失礼だったと、少し遅れて気づく。
「はい。母は海が大好きで、この名前です」
この名前のせいか私も海大好きなんです、と続ける。だから海へでも行くと言ったんだ。
「急に聞いちゃってなんかごめんなさい。…あ、俺は一年四組の木下空です」
「海と空。なんかいいコンビみたいですね」
彼女はそう言って俺の方を向いて笑った。俺もそう思った、とは言えなかった。こんな優しい彼女と俺が同じレベルに立っていいと、思えなかったからだ。
「まもなく…」
電車の中にアナウンスが流れ始め、電車が駅に到着した。
「降りないんですか?」
ドアが開いたのに座ったままの俺に彼女はそう聞いた。
「俺も一緒に海行きます。補習行きたくないし」
海か、久しぶりの海になんだかワクワクしてきた。親や学校には体調不良だと連絡することにしよう。それなら親の仕事が終わるまでに帰ればOKだ。
「空さんが良いなら一緒に行きましょう」
彼女はてか、と続けた。
「敬語なのやめません?あ、、やめよう。同い年だし」
確かに同い年なのだから、敬語を使う必要はない。
「そうしよう」
海までは後一時間はあるだろう。彼女と学校のことについて色々話すことにしよう。
俺と海香はそれぞれ呼び捨てで呼び合うことにした。
俺たちは担任のこと、担当教科のこと、仲良い友達のこと、好きなバンド、好きなゲーム色んなことを話した。そうすると一時間が経っていて、海の近い駅に着いた。ここからはすぐだ。
ICカードを通して、まずは飲み物を買った。カードにはまだ残金が残ってそうだ。
駅を出ると、そこには白い砂浜が広がり、青い海が広がっていた。海、やっぱりきれいで良いところだ。
海を見て唖然としている俺の肩を叩いて、海香は靴を脱いで駆け出した。
俺も負けないぞ、と急いで靴を脱いで走り始める。潮風が心地良い。
荷物を同じ場所に放り投げて、早速足を水につけた。
「うわ、冷たいっ!」
「ほんとだ。きもちいい!」
どこからか鳥の鳴き声もする。ウミネコだろうか。
そのまま何分か足に浸かり、コンビニにお昼ごはんを買いに行き、また同じ場所に戻ってきた。
海香はおにぎりとパンで、俺はおにぎり三個だ。お互い偏った食事だ。
「「いただきます」」
まるで小学生の給食のように、声を合わせる。…それがまたなぜかいい。
俺たちは電車の話の続きを始めた。
「てことは、空は戦う系じゃなくて、建築とか作っていく系が好きってことか」
「確かにそうなる。逆に海香は戦う系が好きってことだな」
「あれ、ここだけ気が合わないね」
「それ以外気が合うのに」
「全部一緒は逆に怖い」
「それもそうだ」
「話変わるんだけど、夏って良いよね」
「わかる。イベント多いからちょー楽しい。海行けるし、夏休みあるし、花火あるし、あとは夏祭りも!」
「あー夏祭りあること忘れてた」
「海香誰かと行かないの?」
「いやいや、忘れてたぐらいだから誘われてないよ。そういう空は?」
「俺も誘われてないわ」
「なんだーびっくりした」
「じゃあ誘われていない人通し一緒に行こう」
「うん、いいね行こう。」
そうやって出会ったその日に、次遊ぶ予定が決まった。
気温が一番上がる時間に、俺たちはまた電車に乗って帰宅した。
まだ親は帰ってきていなくて、なんとかセーフだ。帰ってきて元気だったら怒られるから大人しくすることにしよう。
次の日の補習の放課後。俺は海香と一緒に教室で二人残った。
こっそりとスマホを出して、昨日の写真を見返していた。
「あ、これ、海香が俺に水かけた時の」「こっちはおにぎり落とした時の」「これ服濡れて詰んでた時のだ」
昨日のことを俺たちは思い出して話した。なんだかその時間が俺には居心地よかった。
昨日立てられなかった夏祭りの計画を立てて下校時間ギリギリに帰宅した。
夏祭りは後三日だ。
眠い。昨日眠れなかった。夏祭りが楽しみで眠れなかった。
俺は眠い目をこすりながら、支度をした。いつの間にか目が覚めて、楽しみでいっぱいだった。
海香はどんな服で来るんだろう。海香はどんな髪型だろう。気づけば海香のことばかり考えていた。
時間は四時。まだ始まったばかりの大きな夏祭り。
海香はいつもと違うストレートの髪をさらりと靡かせ、浴衣を着て現れた。
「どう?私可愛い?」
「うーん、どうだろう」
「正直に答えてよーあれ、空なんか顔赤くない?照れてるの?」
海香はそう言って俺をからかう。顔が赤いのは暑いからだ。そう。
そのまま順番に屋台を回った。お揃いのブルーハワイ味のかき氷に、ながーいポテト。夏祭りと言えばの焼きそばを食べながら堤防に座った。
「楽しいね。夏はやっぱり」
彼女はそう言って新たに買ったフランクフルトを頬張った。
「うん、楽しい」
俺はまだ花火の上がらない空を見上げた。来た頃よりはだいぶ暗くなった。
あのさ、海香も同じように空を見上げた後、俺の方を向いて言った。
「好き」
お互い顔が赤いのは、暑いからにしておこう。
「なんかおっちょこちょいな空を守りたい。実は私、入学した時から気になってたんだよねー」
「俺も好き」
最初に伝えたのは海香なのに、海香は驚いて、えっ、と呟いた。
「優しい海香がもう好き。好きすぎる」
言った後に恥ずかしいでいっぱいになる。でもこの気持ちは伝えても良いと思う。出会った時から恋に落ちていたから。
「じゃあ付き合おう」
海香は優しい口調でそう言って、俺の手を取った。あたたかい海香のぬくもりを感じる。
俺は海香と出会ってから、いつもは気にしなかったことが気になるようになった。髪型、眉毛、整理整頓、勉強のレベルも全部。それはきっと海香と隣に立てる自分になりたかったからなんだと思う。
「うん。…じゃあよろしく」
お互い小さく微笑み合う。
「まもなく、花火が始まります」
アナウンスが聞こえる。
すると大きな花火が打ち上がる。俺は海香と肩を寄せ合い、花火を見上げる。
「きれいだね」
海香は少し涙交じりの声で小さく呟いた。
「うん。…二人で見れてよかった」
「来年も来よう。絶対一緒に」
海香は握る手を強く握り直す。俺もそれに返すように握り返す。
「うん」
きっと海香となら、また来年も来れる。そう信じている。
隣の海香をそっと見る。花火を見る海香の顔はやっぱりかわいい。好きだ。
冬の君がどんな表情をするかなんて分からない。
でも、夏を楽しむ君が好きだ。
夏の君が好きだ。もう少し秋は待っていて。
いつも見ているニュース番組の天気予報コーナーが始まる。…ということは学校に行く時間だ。
今日は夏休みに入って久しぶりの学校だ。理由は指名者の補習。進学校に入っただけあって、ここまで手厚いとは知らなかった。
俺は食べている途中のトーストを、無理やり口に詰め込んで「行ってきまーす」と家中に響き渡るように大声で叫んで、自電車に飛び乗った。確かに今日はニュースで言ってた通り、いつもより暑い気がする。
俺はタオルで汗を吹きながら、駅へと自転車のスピードをあげる。
駅の改札口はいつもより空いていた。多分普段乗る予定の電車を乗り過ごしたからだ。とは言っても十分人は多い。
俺は汗拭きシートで体を吹き、水分を取った後に英語の単語帳を開いた。
暑い暑い、その単語しか頭の中に浮かばず、ただ単語帳を眺めていると、駅のスピーカーから聴き飽きた音楽が流れてくる。電車がようやく来たようだ。
ゾロゾロと人が流れるように降りて行き、また流れるように人が乗る。
結構学校まで遠いから座れますように、と祈りながら乗ると、祈りが叶ったのか席が空いていた。
俺は周りに恒例の方がいないかを確認して、席につき、また単語帳を開いた。
せめて五分でも、、そう自分に勇気付けようとしたけれどダメだった。睡魔が襲ってくる。
俺は手をつねったり、目薬をさして見たりと色々挑戦したけどダメだった。
少しだけ、少しだけ、心の中で唱えているうちにどんどん眠く練ってきたような...。
「あの、、あの、、」
誰かの声と、誰かが俺の肩を叩いている。俺はゆっくりと目を開けた。
「やっと起きた」
さっきの声だ。俺は声のする右側をみると、見覚えのない同じ学校の制服を着た女子がいた。
俺は扉の上の車内案内表示器を確認した。
「次は…」表示されている駅は、学校の最寄り駅をいくつも過ぎた駅だった。
周りを見渡すと、電車には誰も同じ学校の生徒がいない。いつもなら乗っているはずなのに。
いるのは隣にいる誰か知らない人だ。
俺はさっきの会話を思い返した。もしかして…
「起こそうとしてくれていたんですか?」
彼女は小さく笑って、「そうですよ。おかげで学校絶対遅刻です」と言った。
申し訳ない。どうすればいい。とりあえずこの人の担任に謝罪して、この人の家族にも謝らないと。冷や汗が流れてくる。
「とりあえず急いで引き返しましょう」
俺はスマホを取り出して、時刻表を調べることにした。母や学校から何件か通知がある。終わった…。
「私はもうめんどくさいので、そのまま海へでも行きます。別に気にしないで下さい」
「え…」
俺はどうすればいいのか分からずに固まった。
わざわざ俺を起こすために遅刻してくれた彼女に着いて行くか、自分だけ補習に間に合うように戻るか。
「とりあえず、名前とか聞いて良いですか?」
彼女は少し驚いた表情を見せた。もしかして同じ学年だったりするのだろうか。向こうは俺を知っていたりするのだろうか。もしそうならば、気まずすぎる。
「山下海香です。一年二組です」
「海香?」
俺は不思議な名前に聞き返してしまった。失礼だったと、少し遅れて気づく。
「はい。母は海が大好きで、この名前です」
この名前のせいか私も海大好きなんです、と続ける。だから海へでも行くと言ったんだ。
「急に聞いちゃってなんかごめんなさい。…あ、俺は一年四組の木下空です」
「海と空。なんかいいコンビみたいですね」
彼女はそう言って俺の方を向いて笑った。俺もそう思った、とは言えなかった。こんな優しい彼女と俺が同じレベルに立っていいと、思えなかったからだ。
「まもなく…」
電車の中にアナウンスが流れ始め、電車が駅に到着した。
「降りないんですか?」
ドアが開いたのに座ったままの俺に彼女はそう聞いた。
「俺も一緒に海行きます。補習行きたくないし」
海か、久しぶりの海になんだかワクワクしてきた。親や学校には体調不良だと連絡することにしよう。それなら親の仕事が終わるまでに帰ればOKだ。
「空さんが良いなら一緒に行きましょう」
彼女はてか、と続けた。
「敬語なのやめません?あ、、やめよう。同い年だし」
確かに同い年なのだから、敬語を使う必要はない。
「そうしよう」
海までは後一時間はあるだろう。彼女と学校のことについて色々話すことにしよう。
俺と海香はそれぞれ呼び捨てで呼び合うことにした。
俺たちは担任のこと、担当教科のこと、仲良い友達のこと、好きなバンド、好きなゲーム色んなことを話した。そうすると一時間が経っていて、海の近い駅に着いた。ここからはすぐだ。
ICカードを通して、まずは飲み物を買った。カードにはまだ残金が残ってそうだ。
駅を出ると、そこには白い砂浜が広がり、青い海が広がっていた。海、やっぱりきれいで良いところだ。
海を見て唖然としている俺の肩を叩いて、海香は靴を脱いで駆け出した。
俺も負けないぞ、と急いで靴を脱いで走り始める。潮風が心地良い。
荷物を同じ場所に放り投げて、早速足を水につけた。
「うわ、冷たいっ!」
「ほんとだ。きもちいい!」
どこからか鳥の鳴き声もする。ウミネコだろうか。
そのまま何分か足に浸かり、コンビニにお昼ごはんを買いに行き、また同じ場所に戻ってきた。
海香はおにぎりとパンで、俺はおにぎり三個だ。お互い偏った食事だ。
「「いただきます」」
まるで小学生の給食のように、声を合わせる。…それがまたなぜかいい。
俺たちは電車の話の続きを始めた。
「てことは、空は戦う系じゃなくて、建築とか作っていく系が好きってことか」
「確かにそうなる。逆に海香は戦う系が好きってことだな」
「あれ、ここだけ気が合わないね」
「それ以外気が合うのに」
「全部一緒は逆に怖い」
「それもそうだ」
「話変わるんだけど、夏って良いよね」
「わかる。イベント多いからちょー楽しい。海行けるし、夏休みあるし、花火あるし、あとは夏祭りも!」
「あー夏祭りあること忘れてた」
「海香誰かと行かないの?」
「いやいや、忘れてたぐらいだから誘われてないよ。そういう空は?」
「俺も誘われてないわ」
「なんだーびっくりした」
「じゃあ誘われていない人通し一緒に行こう」
「うん、いいね行こう。」
そうやって出会ったその日に、次遊ぶ予定が決まった。
気温が一番上がる時間に、俺たちはまた電車に乗って帰宅した。
まだ親は帰ってきていなくて、なんとかセーフだ。帰ってきて元気だったら怒られるから大人しくすることにしよう。
次の日の補習の放課後。俺は海香と一緒に教室で二人残った。
こっそりとスマホを出して、昨日の写真を見返していた。
「あ、これ、海香が俺に水かけた時の」「こっちはおにぎり落とした時の」「これ服濡れて詰んでた時のだ」
昨日のことを俺たちは思い出して話した。なんだかその時間が俺には居心地よかった。
昨日立てられなかった夏祭りの計画を立てて下校時間ギリギリに帰宅した。
夏祭りは後三日だ。
眠い。昨日眠れなかった。夏祭りが楽しみで眠れなかった。
俺は眠い目をこすりながら、支度をした。いつの間にか目が覚めて、楽しみでいっぱいだった。
海香はどんな服で来るんだろう。海香はどんな髪型だろう。気づけば海香のことばかり考えていた。
時間は四時。まだ始まったばかりの大きな夏祭り。
海香はいつもと違うストレートの髪をさらりと靡かせ、浴衣を着て現れた。
「どう?私可愛い?」
「うーん、どうだろう」
「正直に答えてよーあれ、空なんか顔赤くない?照れてるの?」
海香はそう言って俺をからかう。顔が赤いのは暑いからだ。そう。
そのまま順番に屋台を回った。お揃いのブルーハワイ味のかき氷に、ながーいポテト。夏祭りと言えばの焼きそばを食べながら堤防に座った。
「楽しいね。夏はやっぱり」
彼女はそう言って新たに買ったフランクフルトを頬張った。
「うん、楽しい」
俺はまだ花火の上がらない空を見上げた。来た頃よりはだいぶ暗くなった。
あのさ、海香も同じように空を見上げた後、俺の方を向いて言った。
「好き」
お互い顔が赤いのは、暑いからにしておこう。
「なんかおっちょこちょいな空を守りたい。実は私、入学した時から気になってたんだよねー」
「俺も好き」
最初に伝えたのは海香なのに、海香は驚いて、えっ、と呟いた。
「優しい海香がもう好き。好きすぎる」
言った後に恥ずかしいでいっぱいになる。でもこの気持ちは伝えても良いと思う。出会った時から恋に落ちていたから。
「じゃあ付き合おう」
海香は優しい口調でそう言って、俺の手を取った。あたたかい海香のぬくもりを感じる。
俺は海香と出会ってから、いつもは気にしなかったことが気になるようになった。髪型、眉毛、整理整頓、勉強のレベルも全部。それはきっと海香と隣に立てる自分になりたかったからなんだと思う。
「うん。…じゃあよろしく」
お互い小さく微笑み合う。
「まもなく、花火が始まります」
アナウンスが聞こえる。
すると大きな花火が打ち上がる。俺は海香と肩を寄せ合い、花火を見上げる。
「きれいだね」
海香は少し涙交じりの声で小さく呟いた。
「うん。…二人で見れてよかった」
「来年も来よう。絶対一緒に」
海香は握る手を強く握り直す。俺もそれに返すように握り返す。
「うん」
きっと海香となら、また来年も来れる。そう信じている。
隣の海香をそっと見る。花火を見る海香の顔はやっぱりかわいい。好きだ。
冬の君がどんな表情をするかなんて分からない。
でも、夏を楽しむ君が好きだ。
夏の君が好きだ。もう少し秋は待っていて。


