稀代の魔力を持つ転生令嬢、私は一人前であると声を大にして言いたい ~王家に拾われ国を救ったのは、ちびっこと見下されてきた私です~

十二話

 ルートが薬草を探す中、ローガン様はきょろきょろと魔法使い達の様子を見つめる私に、静かな口調で言った。

「婚約者になってもらった直後に、すまないな。ちゃんと婚約者らしいことが出来ずに申し訳ない」

「え? あ……いえ」

「そうだ。まだ受け取ってはいないんだが、匂い袋のプレゼントを作ってくれたのだな? ありがとう」

 ローガン様の言葉に、私は匂い袋のことを知っていてくれたのだなと思い嬉しく思った。

「はい。初めて人にプレゼントするので、気に入ってもらえるといいのですが。」

「とても嬉しいよ。王宮に帰った後必ず受け取る。ありがとう」

 爽やかな笑みを浮かべるローガン様を見つめ、王子様とはこんなにも爽やかなのかと、私は驚く。

 これはご令嬢方の任期の的になるはずだ。

「そう言えば、コレット嬢は何故庭で植物を育てるようになったのだい? 令嬢の趣味にしては珍しいね」

 普通令嬢は日に焼けることを嫌うものだ。

 私はローガン様の問いかけにどう返したらよいものか悩む。

 前世の私は、一人の時間が長かった。

 話し相手もおらず、ただ時間がゆっくりと流れていく。

 そんな時間を紛らわしてくれるのが植物の世話だったのだ。

 世話をする時間は私にとっては楽しみであり、だからこそ、今世も続けていた。

「私は、植物の世話が好きなんです。その、令嬢らしくはないのですが。もしかして、ローガン様はそうした令嬢はお嫌いでしょうか?」

 嫌いだとしたらどうしよう。

 そんなことを思いもじもじとしていると、ローガン様は慌てて答えた。

「いや、嫌いとかはない。むしろ、育てられて凄いなと思ってね」

「本当にですか? 良かった。」

「ああ」

 なんとなく、甘い雰囲気が流れているような気がする。

 私はさらにもじもじとしていると、庭を大体調べ終えたのか、ルート様が難しい表情でローガン様の元へと小走りで戻ってきた。

 ローガン様は表情を引き締めるとルート様の言葉を待つ。

「第二王子殿下。目的の植物、全てありました。これは奇跡としか言いようがありません!」

 興奮した様子のルート様の言葉に、ローガン様は大きく安堵の息を吐いた。

 しかし、ルート様の次の言葉に緊張を走らせる。

「ただ、これからその植物を乾燥させるなどの手間が必要となります。一つでも間違えば、治療薬は完成できないので、まだ安心するには早いかと」

 その言葉に私は説明なくともレオナルドの治療薬を作ろうとしているのだなと悟る。

 確かに私の庭になら、薬草はそろっている。

 ただ……それなら小屋の乾燥させている物を使った方が早いんじゃないかと思い至る。

「ローガン様。ルート様。私、庭の植物を乾燥させたり、煎じたりして保存もしているんです。ご覧になりますか?」

 ローガン様が答えるよりも先にルート様が勢いよく返事をする。

「見せて下さい!」

 あまりにも勢いがいいものだから、私は若干引きながら、庭の先にある小屋へと二人を案内した。

「結構匂いがきついので、あまり長時間はいられませんが、どうぞ」

 白い扉を開き、中に入ると植物の匂いが一瞬にして鼻先を抜けていく。

 ローガン様は鼻をハンカチで覆った。 
 
 ルート様は天井や壁にぶら下げて干してある植物や、瓶に詰められている煎じられている薬草を見て言葉を失った。

「ルート魔法使い長、どうだ?」

「……完璧です。これと、あと、これと……あぁ、これも使いたい! すごい。これは本当に凄い」

 私は今まで誰にも話したことのない趣味が認められているような気がして、少し照れくさそうに頬を掻く。

「お力になれそうなら、良かったです。でも、ここにある植物全て、そんなに珍しいものではないと思うんですが」

 おずおずと尋ねると、ルート様はその言葉に眉を吊り上げた。

「ご令嬢。一体全体、そんな出鱈目を誰に言われたのです?」

「え?」

 頭の中をよぎっていくのは、赤髪を後ろで一つにくくり、そばかすのある顔に糸目の瞳をした少年である。

 神殿に務めている神官であろうヴィアンという少年は、前世の私を馬鹿にするように笑って言ったのだ。

『そんな価値のないものを育ててどうするの? まぁ仕方ないから僕が買い取ってあげる』

 私を見かける度にヴィアンは顔を歪めて意地悪く言った。

『珍しくもなんともないんだよ。こにある植物。僕が買い取ってあげるんだから、感謝してよね』

 自分に対して口が悪い人と言うのは珍しく、私は嫌いではなかった。

 いつも笑顔ばかり張り付けて心の中で自分を馬鹿にする者達よりも好感が持てた。

 前世の私にとってお金を稼ぐということに興味はなかった。

 だから別に金額はいくらでも良かったのだが。

 ルート様の言葉に、自分が嘘をつかれていたのだということには少しばかり落ち込む。

「ここにある植物は、本当に珍しいものばかりです。ここにある植物全てを売れば、城下町の一等地も買えますよ」

 前世はお金に興味のなかった私だが、今世は違う。

 貧乏男爵家にはお金が必要だ。

 出来れば馬車をふかふかのクッションのある、お尻に優しいものに買い替えたい。

 そして、王宮にあったようなふかふかのソファを買ってみたい。

 私の小さな野望に火が付いた。

 それを見て、ルート様はにっこりと笑うと言った。

「しっかりと見合った金額を支払います。ですので、王宮と独占契約を結んでいただけませんか?」

 王宮ならばぼった来るようなことはしないだろう。

 私は満面の笑顔でうなずいた。

 ルート様はその様子にほっとしたように息をつくと、ローガン様の方へと視線を移して言った。

「必要な物は手に入りました。私はそれらを持って一度王宮へと帰り、治療薬作りに取り掛かります。ご令嬢。私の部下はここに残し
ていってもかまいませんか? 使った薬草などの支払いは後程まとめていたしますので」

「はい。かまいませんわ」

「ありがとうございます。では一度失礼いたします」

「あぁ。よろしく頼む」

 ルート様は先に王宮へと戻り、ローガン様は私に向き直ると両手を取り嬉しそうに笑顔を向けて言った。

「コレット嬢。ありがとう! 君のおかげで兄上は……兄上は助かるかもしれない!」

 きらきらと輝くような笑みを向けられて、私の胸はきゅんと高鳴る。

 王子様はこんなにも輝いて見えるのだなと、美形に弱い私は顔を赤くしながらそう思った。



 魔法使い長であるルートの手によって、治療薬はすぐに作られた。治療薬に必要な薬草はそのほとんどがコレットの庭から取られたものであり、コレットが乾燥したり煎じたりしていた分、作業はかなりの時間を短縮して行うことが出来た。

 治療薬を服用してから一週間でレオナルドは歩くことが出来るまでに回復し、国王や王妃、そしてローガンは心から喜び、安堵した。

 ただしレオナルドが回復した後はやはり問題となってくるのがコレットの庭についてと、そしてだれがどのようにしてレオナルドの私室へと毒花を仕込んだかという点である。

 コレットの庭については、最高神官長であるヴィシアンドルが内密に視察に向かい、魔法使い長ルート共に調べを進めていた。

 そしてその結果、男爵家の庭は”精霊の庭”と呼ばれる珍しい植物が育つ庭なのではないかと推察された。

 この世界に住まう精霊達は不可思議な存在であり、人に好意を抱くこともあれば害をもたらすこともある。そんな彼らがまれに悪戯で気に入った相手が住まう場所に力を与えることがある。

 そんな場所の俗称が”精霊の庭”なのである。

 精霊の庭では普通が通用しないことが多く、精霊の庭であるならば男爵家の庭に珍しい植物が生えていたことも納得できるのだ。

 コレットが聖女であるとは、誰も思っていない。

 何故ならば、聖女の力は人の怪我や病気を治癒する能力や、歴代最強の聖女が生み出した”聖水”によって外傷や体力回復をもたらすもの、とされているからだ。

 珍しい植物を育てる力があるということは、記録に残っていない。

 いや、意図的に残されていない。

 故に、コレット自身ではなく、男爵家の庭が特別な物として、認識されることとなった。

 ”精霊の庭”の力は不思議なものだが、精霊の機嫌を損ねれば消えることもある為、王宮は今後もコレットが庭を管理し、それを買い取る方向にするということが決められた。

 そんな薬草の買い取り金額に、コレットが目を丸くし、さっそく両親と馬車とソファを新調しようと話をしている。

 コレットの頭の中では、王宮のふかふかの馬車が想像されており、あの馬車で移動するだけでどれほど幸せな気持ちが味わえるだろうかと、妄想が止まらないのであった。
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