稀代の魔力を持つ転生令嬢、私は一人前であると声を大にして言いたい ~王家に拾われ国を救ったのは、ちびっこと見下されてきた私です~

二十二話

 そして女性騎士と別のテントへと入った瞬間、女性達に囲まれ、似合う服を見繕われはじめる。

「あちゃー。どれもぶかぶかね」

「どうしますー?」

「あ、これは? ほら、短パン」

「あぁ。それならズボンは大丈夫そう。ウェストは縛って……上はぶかぶかだけど、シャツの裾をズボンの中に入れればどうにかなるでしょう。」

「あら、いい感じじゃない?」

 短パンがひざ下くらいのズボンとなり、シャツはぶかぶかなので袖をまくった。

「可愛いわ。」

「うん。さっき、短パンなしでシャツだけ着てたときとか……なんか、私変な方向に目覚めそうだったもの」

「あ、分かるわ。でも、これはこれで……良いわね」
 私は騎士団の女性達に服を脱がされて着せられてと、恥ずかしさから顔を赤らめながらもお礼を伝えた。

「あ、あの、洋服ありがとうございます」

 すると女性騎士達は何となく微妙な表情を浮かべる。

 私は似合っていないのだろうかと不安に思った。

 そんな私の不安とは裏腹に、女性騎士達はこそこそと喋る。

「これ、男共に見せても大丈夫かしら?」

「変な扉開いちゃう男とかでそう」

「そうね……うん。とにかく守ってあげましょう」

「ええ」

 女性騎士達がそう結束を固めたことなど、私は全く気付いていなかったのであった。

 その後は、私は女性達と共に騎士団の食事の準備を手伝っていた。

 聖女だった頃には料理などしたことが無かったが、貧乏男爵家ではシシリーと共によく食事を作った。

 シシリーは年だからなのか、包丁を持たせると少しばかり手元がぷるぷると震え恐ろしく私ははそんなシシリーの手助けをするうちに料理の腕はどんどんと上がって行ったのだ。

「ご令嬢なのに、料理できるなんてすごいわねぇ」

「本当だなぁ。それにしても、久しぶりにまともな料理が食べれそうで、嬉しいな」

「小さいのに、すごいなぁ」

 料理を作る鍋の周りに、いつの間にかに人が集まり始めていた。

 皆が褒めてくれるので、作りながらなんだかこそばゆい。

 騎士団では基本的に男女関係なく、料理をする当番が回ってくるらしい。

 ただし、ほとんどの者が包丁を持った事が無い料理初心者であり、この数か月まともな料理を食べていないと言う。

 私はスープをコトコトと煮ながら、もう少し野菜が欲しいなぁと思い、森の中へと歩いて行く。

「コレット? どこいくの?」

「すぐそこよ。ちょっと待ってね。あった」

 近くに生えていたいくつかの植物を取って大なべの前へと戻ってきた。

 水でしっかりと洗い流し、包丁でざっくりと森で採ってきた木の実や緑の葉を切っていく。

「え? あんな野菜あったか?」

「さっきちびっこが森で採って来たぞ」

「え?! 大丈夫かそれ」

 そんな声が聞こえた為、私はにっこりと笑顔で言った。

「大丈夫ですよぉ。どこにでもよく生えている栄養価の高い植物なので」

 すると近くにいた騎士が目を丸くした。

「え? これ……そんじょそこらの植物じゃねぇぞ。嘘だろ……栄養価はかなり高い、幻級のやつじゃねぇか」

「そんなの生えていたか!?」

「いや……うへぇ。運が良すぎるだろ」

 騎士達がそんな会話を繰り広げているが、私はそんな中手際よく料理を進めていく。

 スープを塩と胡椒で味を調え、大なべを掻き混ぜながら、ゆっくりとじっくりと聖力を注いでいく。

 集中して力を注いでいけば、ハッキリ言えば無意識で作る聖水よりも格段に力の強い物となる。

 つまり大抵の病気を治すくらいの力を持っている。

 みんなが病気がうつらないように、元気でずっといられますように。

 そんな思いを込めながら、大なべをコトコト煮ていく。

 私は無意識に鼻歌を歌っていた。

「ふんふふふーん」

 それを聞きながら、騎士達は苦笑を浮かべた。

「音痴だなぁ」

「だがそれもまた、可愛いなぁ」

 ハッと顔を上げると、皆が私を見て優しく微笑んでいる。

 なんだか居心地はすごく悪い。

「あ、いい香り」

 美味しそうな香りが辺りに広がり始める。それを嗅ぎつけたのは、騎士達だけでなく、村の中の人々も、何の匂いなのだろうかと、封じの魔法陣の中からこちらを覗き込んでいる。

 その様子に、コレットは近くにいた騎士に尋ねた。

「作った料理を、中に運んでもらうのは可能なんですか?」

 女性騎士はうなずいた。

「魔法陣を通して、中に転送できるようになっているんだ。だが、騎士団の食糧庫の事情的にどうかな……」

 その言葉に、私は少し考えると森を見つめて言った。

「なら、森にある食材で作ってもいいですか?」

「あぁ、なら、私達が手伝おう。だが、私達はどれが食べられるのか知らないのだが」

「私が教えて最終チェックまでするので大丈夫ですよ。じゃあ、取りに行きましょうか。ここのスープは出来ているので、食べたい方
は食べられてくださいね」

「私達も、食べたいんだが」

 思わず本音の漏れた女性騎士達に、私は微笑むと言った。

「なら、先に取りに行っているので、食べたら来てくれますか? すぐ近くにいるので」

「あぁ。分かった」

 私は大きなかごを背負って森の中を歩き始めた。

 あまりに自由に動けるので、隣国の者なのにいいのかななんてことを考えていたが、その理由をすぐに知った。

 恐らく、騎士団の中にも逃走する者が出ないようになのだろう。

 かなり広域に、外に出られないように魔法が仕掛けられているようであった。

 木に結び付けられている魔法のリボンは恐らく、魔法を発動するための物なのだろう。

 森の中の至る所に結び付けられている。

 私は次々に食べられる食材を見つけては籠にひょいひょいと入れていく。

 そしてひとしきり入れ終わって戻ると、大なべいっぱいに入っていたスープがすっからかんになっていた。

「わぁ。すごい。綺麗に無くなりましたね?」

 私が驚いてそう言うと、騎士達は瞳を輝かせながら感謝の言葉を述べ始める。

「美味い。とにかく美味かった! ありがとう!」

「美味しすぎて、びっくりよ」

「コレット嬢、本当にありがとう」

「こんな場所であんなに美味しいスープが食べられるとは思わなかった!」

 騎士達は次々に感謝を述べていく。

 私は、その言葉に思わず照れて頬を赤くした。

「いえ、いいんです。あの、美味しかったなら良かったです。ふふ。よしじゃあ、あるだけの鍋を貸してもらってもいいですか? 村の方にも食べてもらえるように作りたいと思うので!」

「え? でも食材はって……すごい。短時間でこんなに集められるもの?」

 かごいっぱいの食材を見た女性騎士達は目を丸くする。

 私は首を傾げた。

 森なのだからたくさん食材があるのは当たり前だ。

 私はあるだけの大なべをかき集め、手の空いている物は皮をむき、取ってきた野草を切る。その間にコレットはもう一度数人の騎士を連れて森に入り、食材を取ってくると、料理を開始した。

「さぁ! 皆で頑張って作りましょう!」

「「「「「おー!」」」」」

 そうこうしている間に、肉があった方がもっと美味しくなるのではないかと、騎士が数人狩りに出かけ、取ってきたウサギ肉をさばいてそれもスープに入れる。

 辺りには美味しそうなスープの香りがただよう。

「美味そう」

「あああ。もっかい腹減って来たなぁ」

「余ったらどうぞ~」

「「「「はーい」」」」

 そして大量に作ったスープは村の中にも転送してもらう。

 顔色の悪い村人たちはスープを皆で配り合い、目を輝かせてそれを勢いよく食べ始める。

 私はその様子を見つめながら言った。

「足りないようでしたらすぐに作り足しますから、ゆっくり食べて下さいね」

 村人たちは私を魔法陣越しに見つめ、それから手を合わせて感謝を述べる。

 そして誰か一人が呟いた。

「聖女様みたいだ。」

 その呟きはすぐに広がり、村人たちの中で小さな料理上手の聖女様として名を広めていく。

 良い香りが漂ってきたことで、ローガン様とシバ様もテントの外に出てきた。

 そして皆が皿を持ってスープを美味しそうに食べている姿に目を丸くする。

「やけに美味そうな匂いだな」

 シバ様は鼻を鳴らし、つばをごくりと飲み込んだ。

 私は両手にスープを持ち、二人に手渡した。

「持ってきました。良かったら食べて下さい」

 ぶかぶかの服にエプロンをつけ、料理を運んでくる私の姿を見て、ローガン様は笑顔を浮かべた。

「おいしそうだね。ありがとう」

「ありがとう」

 シバ様は仲間の騎士の輪の中へと腰をおろし、私達もその横に座った。

 私はローガン様が食べる姿をどきどきとした表情で見つめた。

 初の手料理である。

 ローガン様は一口食べるとすぐに目を丸くしてパッと顔を明るくした。

「美味しい!」

 そういって、がつがつとスープを食べる姿は王子様と言うよりも、男の子という感じがして、私の胸はそのギャップにキュンと高鳴るのであった。

「何か、すっごく調子がいいんだよ」

「あ、俺も俺も。きっとさ、やっぱり疲れていたんだよなぁ」

「うんうん。でも、美味しい料理ってのは、心も体も癒すもんだなぁ」

 笑い声を上げながらそう話をしている騎士達。

 私は心の中で胸を張る。

 そりゃあ、体調は良くなっているはずである。

 聖女の力を注ぎ込んだ、聖水で作ったスープである。それにプラスして森で取った食材たちはどれも栄養価が高い。

 これで元気にならない方がおかしい。

 食事を終えた後、シバ様とローガン様の元に騎士達は集まり、部隊をいくつか小さなグループに分けられると、十名ほどを残して調査へと向かうこととなった。

 シバ様とローガン様は最も怪しいと思われる、最初の感染者が出た村の近くへと行く予定だそうだ。

 今から出立しても深夜に帰り着くかどうかというくらいの距離がある。

 私は、ローガン様に何か出来ないかなと考え、料理場の隅でこっそりと女性騎士達に材料を分けてもらい、簡単にできる菓子を焼く。

「コレット? それは、何?」

「わぁっ!」

 後ろから急に声をかけられ、私は驚きぴょんと跳ねた。

「ふ、ふふ。今の動き、うさぎさんみたいだったね」

「も、もう。驚かせないで」

 私は動揺を鎮めるために、頬にかかった髪の毛を耳にかけなおし、チラリとローガン様を見ると言った。

「その……これは、非常食用にと思って、その…鉄板でクッキーを作ってみたの」

「え?! 鉄板で…クッキーって作れるものなの?」

「はい。卵とか小麦粉とか砂糖とか、けっこう食材は揃っていたので……片抜きとかはないので形は歪だけど。その、一つ食べる? 焼き立てだから、美味しいよ。どうぞ」

 ローガン様は少し形の悪いクッキーを、私の手からぱくりと食べて、咀嚼する。

 砂糖は少量にしてある。

 甘さが控えめだが、サクサクとしていて美味しいはずだ。

「美味しいね」

 そう言ってローガン様が顔を上げる。

 美味しくてよかったと思ったと共に、無意識に”あーん”をしてしまったと少し恥ずかしくなる。

「あ……ごめん」

「いえその…あの、今包むからちょっと待って。持って行って、お腹がすいたら食べてね」

 私は耳まで赤くしながらも手際よく袋の中にクッキーを入れると、ローガン様に手渡した。

「気を付けていってらっしゃい」

「うん。ありがとう。行ってきます」

 まるで新婚さんのようだななんて想像する。

 すると、建物の陰からこちらを見ていた騎士達の声が聞こえた。

「可愛いなぁ。初々しいなぁ」

「何か、無性に恋愛したくなってきた」

「俺も。生きて帰れたら、幼馴染に告白しに行こう」

「あ、俺も」

 私はそちらを見て、顔が一気に熱くなる。

「み、皆様! のぞき見は駄目ですよ!」

「「「「ごめんなさーい!」」」」

 騎士達は駆けていき、私は、ふんっと息をついた。

「それでは行ってくるね」

「はい。お気をつけて」

 ローガン様が出立したのを私は見送り、小さく息をつく。

「さて、私は私に出来ることをやりますか」

 私はこっそりと村の近くによると、魔法陣の外側から中にいる村人へと声をかけた。

「あの、こんにちは」

 すると、そこにいた女性は瞳を輝かせて傍までやってきた。

「あぁ、小さな料理上手な聖女様! 昨日は美味しいスープをありがとうございました。体調が今日はすごくいいんです!」

 女性の顔色はかなりよく、私はその様子からスープが効いたのだなとほっとする。

「あの、私は聖女じゃないですよ? でも、また後で昼食はスープを作りますから楽しみにしていて下さいね」

「はい!」

 女性にとっては、私が聖女であろうがなかろうが関係ないのだと思う。

「あと、出来るだけ重症の方から、スープを食べさせてあげてください」

「もちろんです! 皆に伝えます!」

「ありがとう」

 私はちゃんと聖力が効いていたことに安堵しながら、調理場へと向かった。

 毒だった場合は、薬草の調合などが必要となるが、病気ならば聖女の力を持つ私にとっては容易く治せることである。

 治せるならば治したい。

 聖女だとばれる可能性はかなり高くなるのは分かっている。

 けれど……自分の為に人を見殺しにするようなことは出来ない。

 手の届く範囲の人は救いたいのだ。

「さぁ! 張り切って料理を作りますかね!」

 昨日スープを食べられなかった人もいるはずである。

 また、聖力によって病気は治っても体力や落ちた体重を回復するためには数日はかかるだろう。

 私は気合を入れると、数名の騎士に手伝ってもらい料理を作り、そして昼食のスープを村へと転送する。

 村人達は喜び、私は村人の笑顔に早く良くなりますようにと願うのであった。

 そして、ローガン達が帰って来てからすぐに食べられるように夕食も準備しなければならないと気合を入れて食材を取りに森に入った時であった。

「へっ?」

 一人でちょこちょこと動き回っていたことが仇となった。

 森の中で一人、首元にナイフを当てられ、私は固まった。
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