稀代の魔力を持つ転生令嬢、私は一人前であると声を大にして言いたい ~王家に拾われ国を救ったのは、ちびっこと見下されてきた私です~
二十七話
あの一件から数日がたったある日、私の庭はまたにぎわいを見せていた。
魔法使い達は集まり、植物の採集に夢中になっている。
そんな様子を私は見つめながら小さくため息をついた。
ドラゴニアとの一件がどうなったのかを教えてもらえず、決着がつくまでは屋敷で大人しくしていてほしいとローガンに釘を刺されてしまった。
私はあの一件以来、ヴィシアンドルのことが気になっていた。
自分は聖女様として死に、新しく生を受けた事で前世の事柄は終わったものと考えていた。
けれどヴィシアンドルの中では終わってなどいなかった。
今でも、聖女様を守れなかったことに彼は苦しみ、そしてドラゴニアに対して良い感情を抱いていなかった。
それもそうだろう。
ヴィシアンドルにとっては身近にいた人が毒で死んだのだ。
幼かった頃のヴィシアンドルにとっては相当な衝撃だっただろう。
私は自分の周りにいた人達の事など、自分が全く考えていなかったのだという事に気付き、自己嫌悪に陥っていた。
「私も、そのままにせずに、向き合うべきなのかもしれない」
ずっと、見ないふりをしていた。
どうせ前世のことだと、終わったことだと、そう思っていた。
けれど、それではいけなかったのだ。
私は大きくため息をつくと、庭のさらに奥、屋敷の裏手へと回った。
そこには野草は生えておらず、一本の若木が生えている。
若木にだけ、多様の光がきらきらと降り注いでいる。
コレットは小さく息を吐くと、その若木にそっと触れた。
「……いるんでしょう? 出てきて」
すると、若木が小さく揺れ、その場にシシリーが現れた。
シシリーの姿に私は大きくため息をつくと、苦笑を浮かべた。
「なんだ。ずっと一緒にいたのね。シシリー。いえ、精霊システィリーネ。そうなんでしょう?」
その言葉に、シシリーは微笑むと光を纏い、その姿を老婆から輝かしい光を纏った美しい精霊の姿へと変化させる。
コレットは聖女様として暮らしていた時、仲の良かったその精霊に笑みを向けた。
「その姿では、久しぶりね」
「えぇ。お嬢様。でも……どうして今更呼んだのです? 私はシシリーとして傍に居られればそれで良かったのに」
私はその言葉に悲しそうに目を伏せると言った。
「結局私は守られていたのね。シシリーにも、ヴィアンにも」
その言葉にシシリーは首を横に振った。
「私達が勝手にしたことよ。他の精霊達も貴方の傍にいたがったけれど、人型に慣れるのが私だけだったから、私が貴方の一番の傍にいた。まぁ、庭にも屋敷にも貴方には見つからないようにかなりの数の精霊が住みついているけれど」
私はその言葉に大きくため息をつくと、皆に聞こえるように声を上げた。
「もう、隠れていなくていいわ。姿を見せて頂戴。みんな……ごめんね」
そう言った瞬間、私の周りに光が集まり始め、精霊達が次々に姿を現し始める。
精霊達は私にすり寄り、嬉しそうに歌を歌っている者もいる。
「皆、久しぶり。ごめんね。私……貴方達に遠慮させていたのね? 私は以前のように見えなくなったのだと思っていたけれど。違ったのね? 私の事を想って……距離を置いてくれていたのね」
その言葉に精霊達は優しく微笑む。
私は小さく息をつくと言った。
「ありがとう。でも、私。覚悟を決めたわ。このままじゃあいつまでたっても、ヴィアンも私も結局前に進めていない。だから、ちゃんと前世と向き合うわ。皆も、協力してくれる?」
その言葉に精霊達は嬉しそうに体を輝かせた。
私は微笑み、そしてふと気になっていたことをシシリーに尋ねた。
「ねぇシシリー。あなた、腰が痛いとか体調が悪いとかいつも言って居たけれど、あれってさぼりたかっただけでしょう?」
シシリーはそっと目を反らした。
「もう。でも、貴方らしいわね」
私はその後、精霊達と久しぶりにのんびりと話をしたのであった。
ドラゴニアの現王であるダザールが産まれた時、彼は竜神の力を少ししか身に宿していなかった。
十八人いた兄妹の末っ子で、そして力も一番下だった。
力の優劣を知るのは国王くらいのものだったが、そんなダザールが王から目を掛けられるわけもなく、王宮の端にて出来そこないの王子として生活をしていた。
ダザールは何故自分が大切にされないのだろうかと疑問に思ったのは、十歳になった時であった。
そしてそれからは年々自分こそが認められるべき王子だと尊大に育つ。
そして、彼が十四歳になった時、隣国ヴェールガへと訪れた際にダザールは見た事もないほどに美しい少女と出会う。
”聖女様”としてあがめられる少女は陶器の人形のように美しく、ダザールは心を奪われた。
「あれが欲しい」
ダザールも王族である。
欲しいと言えば手に入らないものなどなかった。
けれど、それは初めて手に入らないモノであった。
「お、王子殿下、それは無理でございます」
「聖女様はまだ幼く、その力も絶大とか……そんな聖女様をヴェールガは手放す事などないでしょう」
「何だと?! この役立たずが!」
「も、申し訳ございません!」
それからはどうやったら聖女を手に入れられるかを考えて生きるようになった。
まず手始めに始めたのは、王位を手に入れること。
欲のない兄妹が多かったことから、王位を手にすることは容易かった。
手こずったのは一番上の兄くらいだったが、その兄も、不治の病によって死んだ。
そう、ダザールの邪魔となった者達は、不治の病、不慮の事故、として、始末されていった。
臣下達はこぞってダザールへと少しでも聖女としての力を持つ娘がいるとダザールの元へと差し出したが、どの娘もあの、ヴェールガの”聖女様”のような光は感じられない。
あれが欲しい。
どんな手を使っても。
けれど結局手に入れる作戦は失敗に終わり、手に入らないのならばとダザールは暗部を使い、”聖女様”には永遠の眠りについてもらった。
けれどその日からドラゴニアに聖女が現れることは無くなり、そればかりかダザールは体が常に気怠く、睡眠不足に悩まされるようになった。
「くそっ! ……糞が! ヴェールガの呪いか!?」
ダザールは逆恨みから、ヴェールガ王国の崩壊を望み、暗部を使って最近では第一王子暗殺を企てていた。
だが、それも未遂に終わり、跪く暗部の女に酒瓶を投げつけた。
「……役立たずめ」
「申し訳ありません。ですが、ヴェールガの任務の協力者である男から有力な情報を得ました!」
「何だ?」
「男爵家の屋敷に、不思議な力を持つ庭があるとか」
「なんだと?」
「……その庭にて採取された植物を使って第一王子は救われたそうです」
ダザールはその言葉に目を輝かせると立ち上がった。
「帰ってきたのか聖女様が! ……くそっ! なんでまたヴェールガなんだ! 殺せば次こそは我が国へと生まれ変わると思っていたのに! くそっ!」
ドラゴニアでは魂は輪廻転生を繰り返し、そして求める者の所へと生まれ変わると信じられていた。
だからこそ”聖女様”を求める自分の元へと生まれ変わってくると信じていたのにと、裏切られた感覚を味わう。
ダザールはいら立ちをあらわにするが、昔を思いだし表情を和らげるとクスクスと笑い声を上げる。
「懐かしいな。あの神官の小僧が……こそこそと聖女の薬草を売っていたことが昨日のことのようだ」
常に見張りを聖女につけていたダザールは、ヴィシアンドルの行ってきたことや、売られていた薬草にまで詳しかった。
それほどまでに”聖女様”に執着をしていた。
「”聖女様”を我が国へとお連れしろ」
その言葉に女は体を震わせながら言った。
「で、ですが、その男爵家にいる令嬢は……第二王子の婚約者で」
「関係ないだろう? しっかり、処理し、”聖女様”をお連れしろ」
「は、はい。陛下……その、八つの村で起こった伝染病らしき病についてはどうされますか?」
「ん? そんなもの臣下に任せておけ」
「かしこまりました……」
女は頭を下げ、部屋から下がる。
ダザールは嬉しそうににやりと笑みを浮かべる。
その時、雷鳴が轟き、天から煌めく光が降り注いだ。
「何だ?」
その光景は美しく、民は皆、空を見上げた。
魔法使い達は集まり、植物の採集に夢中になっている。
そんな様子を私は見つめながら小さくため息をついた。
ドラゴニアとの一件がどうなったのかを教えてもらえず、決着がつくまでは屋敷で大人しくしていてほしいとローガンに釘を刺されてしまった。
私はあの一件以来、ヴィシアンドルのことが気になっていた。
自分は聖女様として死に、新しく生を受けた事で前世の事柄は終わったものと考えていた。
けれどヴィシアンドルの中では終わってなどいなかった。
今でも、聖女様を守れなかったことに彼は苦しみ、そしてドラゴニアに対して良い感情を抱いていなかった。
それもそうだろう。
ヴィシアンドルにとっては身近にいた人が毒で死んだのだ。
幼かった頃のヴィシアンドルにとっては相当な衝撃だっただろう。
私は自分の周りにいた人達の事など、自分が全く考えていなかったのだという事に気付き、自己嫌悪に陥っていた。
「私も、そのままにせずに、向き合うべきなのかもしれない」
ずっと、見ないふりをしていた。
どうせ前世のことだと、終わったことだと、そう思っていた。
けれど、それではいけなかったのだ。
私は大きくため息をつくと、庭のさらに奥、屋敷の裏手へと回った。
そこには野草は生えておらず、一本の若木が生えている。
若木にだけ、多様の光がきらきらと降り注いでいる。
コレットは小さく息を吐くと、その若木にそっと触れた。
「……いるんでしょう? 出てきて」
すると、若木が小さく揺れ、その場にシシリーが現れた。
シシリーの姿に私は大きくため息をつくと、苦笑を浮かべた。
「なんだ。ずっと一緒にいたのね。シシリー。いえ、精霊システィリーネ。そうなんでしょう?」
その言葉に、シシリーは微笑むと光を纏い、その姿を老婆から輝かしい光を纏った美しい精霊の姿へと変化させる。
コレットは聖女様として暮らしていた時、仲の良かったその精霊に笑みを向けた。
「その姿では、久しぶりね」
「えぇ。お嬢様。でも……どうして今更呼んだのです? 私はシシリーとして傍に居られればそれで良かったのに」
私はその言葉に悲しそうに目を伏せると言った。
「結局私は守られていたのね。シシリーにも、ヴィアンにも」
その言葉にシシリーは首を横に振った。
「私達が勝手にしたことよ。他の精霊達も貴方の傍にいたがったけれど、人型に慣れるのが私だけだったから、私が貴方の一番の傍にいた。まぁ、庭にも屋敷にも貴方には見つからないようにかなりの数の精霊が住みついているけれど」
私はその言葉に大きくため息をつくと、皆に聞こえるように声を上げた。
「もう、隠れていなくていいわ。姿を見せて頂戴。みんな……ごめんね」
そう言った瞬間、私の周りに光が集まり始め、精霊達が次々に姿を現し始める。
精霊達は私にすり寄り、嬉しそうに歌を歌っている者もいる。
「皆、久しぶり。ごめんね。私……貴方達に遠慮させていたのね? 私は以前のように見えなくなったのだと思っていたけれど。違ったのね? 私の事を想って……距離を置いてくれていたのね」
その言葉に精霊達は優しく微笑む。
私は小さく息をつくと言った。
「ありがとう。でも、私。覚悟を決めたわ。このままじゃあいつまでたっても、ヴィアンも私も結局前に進めていない。だから、ちゃんと前世と向き合うわ。皆も、協力してくれる?」
その言葉に精霊達は嬉しそうに体を輝かせた。
私は微笑み、そしてふと気になっていたことをシシリーに尋ねた。
「ねぇシシリー。あなた、腰が痛いとか体調が悪いとかいつも言って居たけれど、あれってさぼりたかっただけでしょう?」
シシリーはそっと目を反らした。
「もう。でも、貴方らしいわね」
私はその後、精霊達と久しぶりにのんびりと話をしたのであった。
ドラゴニアの現王であるダザールが産まれた時、彼は竜神の力を少ししか身に宿していなかった。
十八人いた兄妹の末っ子で、そして力も一番下だった。
力の優劣を知るのは国王くらいのものだったが、そんなダザールが王から目を掛けられるわけもなく、王宮の端にて出来そこないの王子として生活をしていた。
ダザールは何故自分が大切にされないのだろうかと疑問に思ったのは、十歳になった時であった。
そしてそれからは年々自分こそが認められるべき王子だと尊大に育つ。
そして、彼が十四歳になった時、隣国ヴェールガへと訪れた際にダザールは見た事もないほどに美しい少女と出会う。
”聖女様”としてあがめられる少女は陶器の人形のように美しく、ダザールは心を奪われた。
「あれが欲しい」
ダザールも王族である。
欲しいと言えば手に入らないものなどなかった。
けれど、それは初めて手に入らないモノであった。
「お、王子殿下、それは無理でございます」
「聖女様はまだ幼く、その力も絶大とか……そんな聖女様をヴェールガは手放す事などないでしょう」
「何だと?! この役立たずが!」
「も、申し訳ございません!」
それからはどうやったら聖女を手に入れられるかを考えて生きるようになった。
まず手始めに始めたのは、王位を手に入れること。
欲のない兄妹が多かったことから、王位を手にすることは容易かった。
手こずったのは一番上の兄くらいだったが、その兄も、不治の病によって死んだ。
そう、ダザールの邪魔となった者達は、不治の病、不慮の事故、として、始末されていった。
臣下達はこぞってダザールへと少しでも聖女としての力を持つ娘がいるとダザールの元へと差し出したが、どの娘もあの、ヴェールガの”聖女様”のような光は感じられない。
あれが欲しい。
どんな手を使っても。
けれど結局手に入れる作戦は失敗に終わり、手に入らないのならばとダザールは暗部を使い、”聖女様”には永遠の眠りについてもらった。
けれどその日からドラゴニアに聖女が現れることは無くなり、そればかりかダザールは体が常に気怠く、睡眠不足に悩まされるようになった。
「くそっ! ……糞が! ヴェールガの呪いか!?」
ダザールは逆恨みから、ヴェールガ王国の崩壊を望み、暗部を使って最近では第一王子暗殺を企てていた。
だが、それも未遂に終わり、跪く暗部の女に酒瓶を投げつけた。
「……役立たずめ」
「申し訳ありません。ですが、ヴェールガの任務の協力者である男から有力な情報を得ました!」
「何だ?」
「男爵家の屋敷に、不思議な力を持つ庭があるとか」
「なんだと?」
「……その庭にて採取された植物を使って第一王子は救われたそうです」
ダザールはその言葉に目を輝かせると立ち上がった。
「帰ってきたのか聖女様が! ……くそっ! なんでまたヴェールガなんだ! 殺せば次こそは我が国へと生まれ変わると思っていたのに! くそっ!」
ドラゴニアでは魂は輪廻転生を繰り返し、そして求める者の所へと生まれ変わると信じられていた。
だからこそ”聖女様”を求める自分の元へと生まれ変わってくると信じていたのにと、裏切られた感覚を味わう。
ダザールはいら立ちをあらわにするが、昔を思いだし表情を和らげるとクスクスと笑い声を上げる。
「懐かしいな。あの神官の小僧が……こそこそと聖女の薬草を売っていたことが昨日のことのようだ」
常に見張りを聖女につけていたダザールは、ヴィシアンドルの行ってきたことや、売られていた薬草にまで詳しかった。
それほどまでに”聖女様”に執着をしていた。
「”聖女様”を我が国へとお連れしろ」
その言葉に女は体を震わせながら言った。
「で、ですが、その男爵家にいる令嬢は……第二王子の婚約者で」
「関係ないだろう? しっかり、処理し、”聖女様”をお連れしろ」
「は、はい。陛下……その、八つの村で起こった伝染病らしき病についてはどうされますか?」
「ん? そんなもの臣下に任せておけ」
「かしこまりました……」
女は頭を下げ、部屋から下がる。
ダザールは嬉しそうににやりと笑みを浮かべる。
その時、雷鳴が轟き、天から煌めく光が降り注いだ。
「何だ?」
その光景は美しく、民は皆、空を見上げた。