稀代の魔力を持つ転生令嬢、私は一人前であると声を大にして言いたい ~王家に拾われ国を救ったのは、ちびっこと見下されてきた私です~
四話
王妃殿下は満足げにこちらにひらひらと笑顔で手を振っている。
庭の方へと向かって歩きながら、ちらりとローガン様を見上げると、耳に着けた魔法道具で誰かと連絡を取っているようだ。
おそらく、私の素性でも聞き出しているのだろう。
明るい昼間の庭は、舞踏会の夜の庭の雰囲気が全く違う。
太陽の光をさんさんと浴びて花々が輝いており、いきいきとした植物の生命力を感じさせられた。
ただ、噴水の方へと続く道は何故か立ち入り禁止となっており私は首を傾げた。
「この先はどうして行けないのですか?」
「あぁ……少し噴水の調子が悪いようで調整中なんだ」
先日はどうもなかったのになと思いつつ、私は中庭のベンチへとたどり着くと、一度ちゃんと挨拶をするかと、ローガン様と向き直った。
「あの、改めてではありますが、私はステフ男爵家のコレットと申します。案内していただきありがとうございます」
ローガン様は優しく微笑みを浮かべ、優雅な所作で一礼する。
「私はローガン・フェン・ヴェールガ。この国の第二王子だ。母が申し訳なかったね」
「いえ、王妃殿下とご一緒出来て楽しかったです」
「そう言っていただけたら嬉しいよ。私にはいつも小言ばかりでね。さぁ、庭を案内しよう。お手をどうぞ」
「ありがとうございます」
ローガン様は私の歩幅に合わせ、ゆっくりと歩いてくださった。
そして庭に咲いている花の説明や、花言葉など私が退屈しないように教えてくれた。
王子様にエスコートされるのはこんな夢心地なのかと、私は王妃の提案に内心感謝するのであった。
そしてせっかくの機会だと思い、私は今一番話題となっていることについて尋ねた。
「あの、殿下の運命の女性は、どんな方なのですか?」
きっと舞踏会場で皆に紹介したのだろうなと想像していたのだが、予想とは違い、ローガン様は動きを止めた。
「……いや、うーん」
何とも言えない表情に、私は首を傾げ、そしてハッと思い当たった。
こういう時、恋愛話のセオリーは、運命の人には婚約者がすでに別にいた、だとか、人妻だった、とかいう恋敵がいるパターンである。
恋愛などしたことのない私は、やはり現実でもそうしたことが起こりえるのかと妄想が加速していく。
王子であっても、恋愛はやっぱり一筋縄ではいかないのね。
それが、恋とうもの……。
瞳を輝かせて、妄想していると、ローガン様が小さくため息をついた。
「私であれば、ご相談にのりますわ」
「本当に?」
「はい!」
ローガン様は少し思考を巡らせてから、ふむと息をつく。
「コレット上は口は堅いかな?」
「もちろん。神に誓って、他言いたしませんわ。殿下。私、殿下の恋を応援しますわ。私にできる事があれば、何でも協力します!」
ローガン様はにこやかに言った。
「本当に、協力してくれるかい?」
「はい!私にできる事であれば!」
「では、私の婚約者になってくれるかな?」
「はい! ……へ?」
つい勢いで返事をした私は、告げられた言葉を反芻し、小首をかしげる。
「申し訳ございません。今、なんとおっしゃいました?」
「私の婚約者になってくれるかい?」
「耳が、おかしくなったようです。婚約者になってくれと聞こえます」
「うん。そう言っているよ」
私は、目を丸くして、ごくりと息を呑んだ。
王子様が? 私の婚約者?
「ご……ご冗談ですよね?」
「いや、今、本気で尋ねているよ」
「私で、ございますか? 先ほど出会ったばかりでございます」
「うん。そうだね。でも母上は君を気に入っているみたいだし、うん。身分と年齢は、どうにでもなるし。」
「は? え?」
身分は確かに低いが、年齢は同じ年のはずである。
私は意図が分からずに動揺してしまう。
けれど絶対に何か裏がある。
私は角が立たないように断ろうと思った。思ったのだが!
ローガン様の美しいご尊顔に見つめられ、そして、その麗しい瞳が私をじっと見つめて尋ねてくるのだ。
「ダメかな?」
「ダメじゃないです。ハイ喜んで!」
しまった!
つい口が、美形に弱いこの口が勝手にそう告げていた。
このままでは駄目だ。せめて理由を聞かなければと私は尋ねた。
「でも、殿下には運命の相手がいるのではないのですか?」
ローガンの表情が真剣な眼差しに代わり、私はごくりと喉を鳴らした。
「コレット嬢は口は堅いと言ったね。神に誓って秘密を守れるかい?」
「も、もちろんです」
一体何を言われるのだろうか。
そもそも王族から言うなと言われれば、それに従うのは当たり前である。
ローガン様は声を潜めて言った。
「運命の相手というのは嘘だ。私は先日の舞踏会の際、聖女らしき人物の痕跡を見つけた。今回令嬢達を集めたのは聖女を見つける為だったんだ」
「聖女様を? ですが……何故嘘を?」
「……他の貴族の面々に知られたくなかったのだ」
恋敵が現れたり人妻だったりとした愛憎劇ではなかったのだ。
わくわくしていたのに、本当に残念である。
「どうして知られたくないのです?」
尋ねると、ローガン様の表情が硬くなる。
「コレット嬢。君も第一王子が今病気の為に療養しているのは知っているだろう?」
「え? えぇ。ですが、経過は良好であると……」
その言葉にローガンは静かに首を横に振った。
「聖女にも見てもらったが、原因が分からず、現状を維持するので精一杯なんだ。私は、兄上に早く元気になってほしい。聖女がいるならば見つけて兄を見てほしいのだ……ただ、兄ではなく私を王位にと考えている面々も貴族の中にはいてね」
つまり、今、聖女が現れて第一王子殿下に元気になられては困る貴族がいるということか。
だから、秘密裏に探していたのか。
邪魔されないように。
「ですが、今いる聖女で治せない病を、その新たな聖女が治せるのでしょうか」
私がそう尋ねると、ローガン様はうなずいた。
「治せる可能性は高いと思う。何せ、噴水の水を全て聖水に変えていたのだから」
「え?」
私は、思わず聞き返す。
「びっくりするだろう? なんと、聖女と思わしき人が、王城の噴水を全て聖水に変えていたのだ! だから、今、噴水には近寄れないのだよ」
さーっと血の気が引いていく。
噴水……それは、昨日、私が苛立ちをぶつけていた……あの噴水だろうか。
私はちらりと自分の手のひらを見る。
まさか……まさか。
私は、今世も聖水が作れるのか!?
生まれ変わって、まさか今世も聖女だなんて思いもしなかった。
いや、まだ確証があるわけではない。
もしかしたら他の聖女が現れたのかもしれない。
私は、そう思い込むことにした。何故ならば、自分が今世も聖女だなんて絶対に受け入れたくなかったからだ。
前世の聖女も別に悪い人生ではなかった。
しかし、しかしだ。
今世も神殿に閉じ込められるのはうんざりだった。
恋なんて出来ない聖女……アハハウフフが出来ない聖女。
そんなの絶対に嫌だ。
今世こそは普通に恋をしたいのだ。
そこで私はハッと気が付いた。
私はローガンの手をがしっと掴むと、血走った瞳で鼻息荒く言った。
「私は殿下の本当に婚約者にしていただけるんですか!?」
「ん? 突然どうした? ああ。君がいいのであれば」
私の勢いが良すぎて、若干ローガン様が引いている。
けれど、今はそんなのどうでもいい!
とにかく言質を取らなければ。
「後からなしとか、ウソだったとかは、ないんですよね?!」
「うん? 私はそんなに最低な男に見えるのかな?」
おそらくだが、ローガン様は第一王子殿下の王位継承の邪魔にならないような婚約者を見繕うとしているのだろう。
私であれば、男爵令嬢と身分も低い。
貴族達に対し爵位の低い令嬢との婚約は王位に興味がないことのアピールになるだろう。
「不躾な質問をしても、よろしいでしょうか?」
「ああ。どうぞ」
「ローガン様は第一王子殿下を支えていく立場でありたいと、いうことでしょうか?」
私の言葉に、ローガン様が目を見開く。
「へぇ。感がいいな。ああ。その通りだ。元々兄上が結婚をしてから婚約者も決めようと思っていたのだがね。母上のあの様子からして、これ以上待たせるのは難しそうなんだ」
「あの、本当に私でよろしいのですか? お相手はたくさんいるかと思いますが」
ローガン様が微笑みうなずいた。
「男に二言はないよ。君さえよければ。あぁ、ただ、もしコレット嬢が大きくなって好きな人が出来たら、私との婚約を解消してもいいよ」
「え? そ、それは困ります」
「困る?」
私はどう説明しようかと思っていた時であった。
「第二王子殿下。お話し中に申し訳ありません。少し時間を頂きたいのですが」
建物の中から神官が現れ、ローガン様に声を掛けた。
庭の方へと向かって歩きながら、ちらりとローガン様を見上げると、耳に着けた魔法道具で誰かと連絡を取っているようだ。
おそらく、私の素性でも聞き出しているのだろう。
明るい昼間の庭は、舞踏会の夜の庭の雰囲気が全く違う。
太陽の光をさんさんと浴びて花々が輝いており、いきいきとした植物の生命力を感じさせられた。
ただ、噴水の方へと続く道は何故か立ち入り禁止となっており私は首を傾げた。
「この先はどうして行けないのですか?」
「あぁ……少し噴水の調子が悪いようで調整中なんだ」
先日はどうもなかったのになと思いつつ、私は中庭のベンチへとたどり着くと、一度ちゃんと挨拶をするかと、ローガン様と向き直った。
「あの、改めてではありますが、私はステフ男爵家のコレットと申します。案内していただきありがとうございます」
ローガン様は優しく微笑みを浮かべ、優雅な所作で一礼する。
「私はローガン・フェン・ヴェールガ。この国の第二王子だ。母が申し訳なかったね」
「いえ、王妃殿下とご一緒出来て楽しかったです」
「そう言っていただけたら嬉しいよ。私にはいつも小言ばかりでね。さぁ、庭を案内しよう。お手をどうぞ」
「ありがとうございます」
ローガン様は私の歩幅に合わせ、ゆっくりと歩いてくださった。
そして庭に咲いている花の説明や、花言葉など私が退屈しないように教えてくれた。
王子様にエスコートされるのはこんな夢心地なのかと、私は王妃の提案に内心感謝するのであった。
そしてせっかくの機会だと思い、私は今一番話題となっていることについて尋ねた。
「あの、殿下の運命の女性は、どんな方なのですか?」
きっと舞踏会場で皆に紹介したのだろうなと想像していたのだが、予想とは違い、ローガン様は動きを止めた。
「……いや、うーん」
何とも言えない表情に、私は首を傾げ、そしてハッと思い当たった。
こういう時、恋愛話のセオリーは、運命の人には婚約者がすでに別にいた、だとか、人妻だった、とかいう恋敵がいるパターンである。
恋愛などしたことのない私は、やはり現実でもそうしたことが起こりえるのかと妄想が加速していく。
王子であっても、恋愛はやっぱり一筋縄ではいかないのね。
それが、恋とうもの……。
瞳を輝かせて、妄想していると、ローガン様が小さくため息をついた。
「私であれば、ご相談にのりますわ」
「本当に?」
「はい!」
ローガン様は少し思考を巡らせてから、ふむと息をつく。
「コレット上は口は堅いかな?」
「もちろん。神に誓って、他言いたしませんわ。殿下。私、殿下の恋を応援しますわ。私にできる事があれば、何でも協力します!」
ローガン様はにこやかに言った。
「本当に、協力してくれるかい?」
「はい!私にできる事であれば!」
「では、私の婚約者になってくれるかな?」
「はい! ……へ?」
つい勢いで返事をした私は、告げられた言葉を反芻し、小首をかしげる。
「申し訳ございません。今、なんとおっしゃいました?」
「私の婚約者になってくれるかい?」
「耳が、おかしくなったようです。婚約者になってくれと聞こえます」
「うん。そう言っているよ」
私は、目を丸くして、ごくりと息を呑んだ。
王子様が? 私の婚約者?
「ご……ご冗談ですよね?」
「いや、今、本気で尋ねているよ」
「私で、ございますか? 先ほど出会ったばかりでございます」
「うん。そうだね。でも母上は君を気に入っているみたいだし、うん。身分と年齢は、どうにでもなるし。」
「は? え?」
身分は確かに低いが、年齢は同じ年のはずである。
私は意図が分からずに動揺してしまう。
けれど絶対に何か裏がある。
私は角が立たないように断ろうと思った。思ったのだが!
ローガン様の美しいご尊顔に見つめられ、そして、その麗しい瞳が私をじっと見つめて尋ねてくるのだ。
「ダメかな?」
「ダメじゃないです。ハイ喜んで!」
しまった!
つい口が、美形に弱いこの口が勝手にそう告げていた。
このままでは駄目だ。せめて理由を聞かなければと私は尋ねた。
「でも、殿下には運命の相手がいるのではないのですか?」
ローガンの表情が真剣な眼差しに代わり、私はごくりと喉を鳴らした。
「コレット嬢は口は堅いと言ったね。神に誓って秘密を守れるかい?」
「も、もちろんです」
一体何を言われるのだろうか。
そもそも王族から言うなと言われれば、それに従うのは当たり前である。
ローガン様は声を潜めて言った。
「運命の相手というのは嘘だ。私は先日の舞踏会の際、聖女らしき人物の痕跡を見つけた。今回令嬢達を集めたのは聖女を見つける為だったんだ」
「聖女様を? ですが……何故嘘を?」
「……他の貴族の面々に知られたくなかったのだ」
恋敵が現れたり人妻だったりとした愛憎劇ではなかったのだ。
わくわくしていたのに、本当に残念である。
「どうして知られたくないのです?」
尋ねると、ローガン様の表情が硬くなる。
「コレット嬢。君も第一王子が今病気の為に療養しているのは知っているだろう?」
「え? えぇ。ですが、経過は良好であると……」
その言葉にローガンは静かに首を横に振った。
「聖女にも見てもらったが、原因が分からず、現状を維持するので精一杯なんだ。私は、兄上に早く元気になってほしい。聖女がいるならば見つけて兄を見てほしいのだ……ただ、兄ではなく私を王位にと考えている面々も貴族の中にはいてね」
つまり、今、聖女が現れて第一王子殿下に元気になられては困る貴族がいるということか。
だから、秘密裏に探していたのか。
邪魔されないように。
「ですが、今いる聖女で治せない病を、その新たな聖女が治せるのでしょうか」
私がそう尋ねると、ローガン様はうなずいた。
「治せる可能性は高いと思う。何せ、噴水の水を全て聖水に変えていたのだから」
「え?」
私は、思わず聞き返す。
「びっくりするだろう? なんと、聖女と思わしき人が、王城の噴水を全て聖水に変えていたのだ! だから、今、噴水には近寄れないのだよ」
さーっと血の気が引いていく。
噴水……それは、昨日、私が苛立ちをぶつけていた……あの噴水だろうか。
私はちらりと自分の手のひらを見る。
まさか……まさか。
私は、今世も聖水が作れるのか!?
生まれ変わって、まさか今世も聖女だなんて思いもしなかった。
いや、まだ確証があるわけではない。
もしかしたら他の聖女が現れたのかもしれない。
私は、そう思い込むことにした。何故ならば、自分が今世も聖女だなんて絶対に受け入れたくなかったからだ。
前世の聖女も別に悪い人生ではなかった。
しかし、しかしだ。
今世も神殿に閉じ込められるのはうんざりだった。
恋なんて出来ない聖女……アハハウフフが出来ない聖女。
そんなの絶対に嫌だ。
今世こそは普通に恋をしたいのだ。
そこで私はハッと気が付いた。
私はローガンの手をがしっと掴むと、血走った瞳で鼻息荒く言った。
「私は殿下の本当に婚約者にしていただけるんですか!?」
「ん? 突然どうした? ああ。君がいいのであれば」
私の勢いが良すぎて、若干ローガン様が引いている。
けれど、今はそんなのどうでもいい!
とにかく言質を取らなければ。
「後からなしとか、ウソだったとかは、ないんですよね?!」
「うん? 私はそんなに最低な男に見えるのかな?」
おそらくだが、ローガン様は第一王子殿下の王位継承の邪魔にならないような婚約者を見繕うとしているのだろう。
私であれば、男爵令嬢と身分も低い。
貴族達に対し爵位の低い令嬢との婚約は王位に興味がないことのアピールになるだろう。
「不躾な質問をしても、よろしいでしょうか?」
「ああ。どうぞ」
「ローガン様は第一王子殿下を支えていく立場でありたいと、いうことでしょうか?」
私の言葉に、ローガン様が目を見開く。
「へぇ。感がいいな。ああ。その通りだ。元々兄上が結婚をしてから婚約者も決めようと思っていたのだがね。母上のあの様子からして、これ以上待たせるのは難しそうなんだ」
「あの、本当に私でよろしいのですか? お相手はたくさんいるかと思いますが」
ローガン様が微笑みうなずいた。
「男に二言はないよ。君さえよければ。あぁ、ただ、もしコレット嬢が大きくなって好きな人が出来たら、私との婚約を解消してもいいよ」
「え? そ、それは困ります」
「困る?」
私はどう説明しようかと思っていた時であった。
「第二王子殿下。お話し中に申し訳ありません。少し時間を頂きたいのですが」
建物の中から神官が現れ、ローガン様に声を掛けた。