擬態

翌日

 翌日。
 今日も街に繰り出す。
 昨日までとは違う。
 今日はアキラはいない。
 俺が自分で困っている人を見つけ、自分で助ける。
 それでいい。
 いつもの街。
 いつもの風景。
 いつもの日常。
 今日もきっと、いくつもの「ありがとう」が待っている。
 そう思っていた。

「火事だーーーーー!」

 遠くから叫び声が聞こえた。
 人々が同じ方向へ走っていく。
 俺もその後を追った。
 住宅街の一角。
 民家の窓から、黒い煙が噴き出している。
 その奥には赤い炎が見えた。

「消防は!?」

「今呼んだ! まだ来てない!」

 周囲では何人もの人間が慌ただしく声を上げている。
 その中で、ひときわ大きな声が聞こえた。

「まだ! まだ娘が中にいるんです!」

 女性が泣き叫んでいた。

「離して! お願い! 娘が!」

「駄目です! 危ない!」

 燃え始めた家へ飛び込もうとする母親を、何人もの人が必死に押さえている。

「お願い! 誰か! 娘を……!」

 俺は燃える家を見た。
 まだ炎は家全体には回っていない。
 煙も出始めたばかりだ。

 ……今なら。
 今ならまだ、助けに行けるかもしれない。
 一歩、足を前に出そうとする。
 動かない。
 失敗したらどうする?
 熱いかな?
 火傷するかも。
 ケガをするかも。
 煙を吸ったら?
 中で動けなくなったら?
 最悪、命を落とすかも?

「…………」

 怖い。
 体が動かない。
 どうすればいい。
 何をすればいい。




 そうだ。



 こんなとき。



 アキラならどうする?
 アキラならどうする?
 アキラならどうする?
 アキラならどうする?
 アキラならどうする?
 アキラならどうする?
 アキラならどうする?
 アキラならどうする?





 答えが出ない。

「……っ!」

 俺は一目散に駆け出していた。
 走った。
 全力で走った。
 息が切れても、足が痛くなっても走り続けた。
 家に飛び込む。




 靴を脱ぎ捨て、押し入れを開ける。
 昨日しまったばかりのそれを引っ張り出した。
 俺と同じ顔。
 俺と同じ体。
 俺の代わりになるために作ったロボット。
 アキラ。
 震える指でスイッチを押す。
 しばらくして、その目が開いた。

「…………」

「ああ! アキラ」

「はい」

 いつもの声だった。
 それを聞いた瞬間、ようやく息ができた気がした。
 俺はアキラの肩に手を置いた。

「アキラ」

「はい」

「これからも俺の見本になってくれよな!」

「はい」



 擬態者はオリジナルがいるからこそ擬態者でいられるのだ。
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