戦闘狂の新妻
 朝食後、リリーは潮風の吹く海沿いの砂浜へやってきた。

 強い潮風が銀髪をさらい、頬に細かな砂を叩きつける。波は規則正しく浜を打ちながらも、その音にはどこか獰猛さがあった。

 リリーは目を細めて沖を見つめた。海の向こうから敵が来るというのも納得できる景色だった。

 砂浜は城のすぐそばにあり、砂浜と城壁の間には幅十メートルほどの黒土が帯のように伸びていた。


「こちらに松を植えましょうね。松と城の間には土塁を築いて笹を植え、どちらも防壁兼資材として活用します」

「……詳しく」


 ついてきたオーガストは眉間に皺を寄せた。供をしている五人の兵たちも顔を見合わせながら首をかしげていた。

 リリーは侍女から持ってきた松の苗を受け取ると、オーガストへ差し出した。


「この松は東の国から我が家が仕入れた品種でして、潮風にとても強いのです。これを植えることで土壌を強化し、防壁としての役割も果たせます」

「たかが木なんて、切られたらおしまいだろう」

「燃やしちまえば跡形もない」

「何の意味があるのか」


 オーガストの後ろに控える兵士たちは、差し出された苗を覗き込みながら口々に呟いた。


「旦那様、ペンバートンの兵士はお行儀が悪いのね」


 リリーは呆れたように肩をすくめ、オーガストは兵士たちを鋭く睨んだ。


「この松という植物は、幹や枝に油を含んでおりますから、切れば剣がべたつきますし、燃やせば勢いよく燃え上がります。松脂と呼ばれる燃料も採れますので、資材としても有益ですわ」

「……申し訳ございませんでした」


 兵士の一人から、呟くような謝罪が聞こえた。


「よろしい。今後はわたくしの話を最後まで聞くようになさってちょうだい。そうしないと痛い目を見るわよ。昨日の旦那様のようにね」


 オーガストと兵士たちがそろって口をつぐんだところで、リリーは侍女に松の苗を返し、代わりに笹の苗を受け取った。


「こちらは笹です。成長が早いのが特徴で、濡れるととても滑りやすくなります。はい、右のあなた。どういうことかわかりますか?」


 突然指名された兵士は、慌てて笹の苗とリリーの顔を見比べた。


「えっ、俺ですか……えっと、濡れると滑りやすい……あ、城壁に上りにくくなる?」

「正解です。蛮族は海からやってきますから、当然濡れています。それに……」


 リリーは作業着のポケットから取り出したナイフで笹の一本を斜めに切った。


「とても鋭く、しなやかで折れにくいんです。矢にも槍にもできますし、成長が早いからすぐに収穫できます。籠城戦にはうってつけですわね」


 リリーは尖らせた笹を差し出した。


「……なるほど」


 オーガストは笹を受け取ると、感心したように頷いた。


「他にも考えているのか。ここで何を育てるか」

「もちろんですわ」

 リリーは得意げににやりと笑った。


「ペンバートンをお花畑にしてさしあげますわよ」


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