千代子花火の12週間の恋
 それを聞いた彼は、にっこりと微笑んだ……


 「千代(ちよ)さんのお母さん、優しい方なんですね……今もお元気なんですか?」


 その質問を聞いた瞬間、自分の顔から血の気が引くのが分かった……


 思い出したくない気持ちが一気に頭に押し寄せてきた……あの日……喪服姿で一枚の写真の前に立っていた……たった一人で……


 ずっと忘れようとしてきたことなのに……(よし)さんに聞かれた途端、頭の中に蘇ってきてしまった……


 もちろん……(よし)さんは何も悪くない……悪いのは私の方だ。母のことをいつまでも忘れられずにいるだけ……


 「すみません……」


 「……………大丈夫です……」


 私は消毒液を含ませた綿で、(よし)さんの引っかき傷の周りをそっと拭いた


 ゆっくりと……そっと……そっと……


 「私には……もう母しか家族が残っていないんです……だから大学に入ってからずっと、一人でなんとかやってきました……でもそんな中でも、私は夢を追いかけ続けました……この夢が、私の暮らしを楽にしてくれるわけじゃないって分かっていても……」


 あ……


 あ……


 涙……なんで……


 あっ……涙でぼやけた視界が……だんだんと……見えてくる……


 「でも、あなたはちゃんとやり遂げてるじゃないですか……」


 (よし)さんはハンカチで……私の涙を拭いてくれた……私のネガティブな気持ちごと、拭ってくれた……


 「……………」


 「もしかしたら……これを最後まで書き上げたら……天国のお母さんも、きっと喜んでくれると思いますよ……」


 「本当にそう思いますか?」


 私は彼の手を握った……精一杯の期待を込めた眼差しで、彼の顔を見つめながら……


 「本当ですよ……一緒に頑張りましょう……」


 ……私はずっと独りだった……でも今は、隣に彼がいてくれる……


 私にとって……大切な人……
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