放課後のジントニック、美術室の魔法
部活の練習を絶対にサボりたくない俺に残された時間は、平日の深夜か、土日のわずかな隙間しかない。スマホの求人アプリを必死に叩き、俺が選んだのは隣町の巨大な物流倉庫の深夜の仕分けバイトだった。
週末の夜、「大輝の家でテスト勉強をして、そのまま泊まってくる」と親に嘘をついて家を出る。ジャージ姿の俺が向かったのは、大輝の家ではなく隣町の物流倉庫だった。夜の一〇時から始まる深夜の仕分けバイトのシフトに入るためだ。
サッカーで体力には自信があったはずなのに、次から次へと流れてくる重量物や日用品の箱をひたすら仕分ける作業は、普段使わない筋肉を猛烈に痛めつけた。
「おい、そこのジャージの兄ちゃん! 手が止まってるぞ!」
怒鳴られながら、汗と埃にまみれて段ボールを運ぶ。頭の中でカウントするのは、時給と、一杯のジンジャーエールの価格、そしてお洒落なシャツの値段。
『これで一歩、あの人に近づける』
ただそれだけの執念が、泥のように疲れた身体を支えていた。朝の五時にバイトが終わり、そのまま朝練へ向かうバスの中で泥のように眠る俺を見て、口裏を合わせる役を引き受けてくれた大輝だけが「お前、マジで死ぬぞ」と本気で引いた目をしていたものだ。
そうして三週間、死に物狂いで稼いだ最初の軍資金をポケットにねじ込み、俺は大輝の制服の袖を引っ張って駅ビルのセレクトショップへと向かった。
ガラス張りの店内に入った瞬間、俺は文字通りフリーズした。
ツンと鼻を突く洗練されたアロマの香りと、店員たちの値踏みするような視線。ラックに並ぶ服はどれも、俺が普段着ている首元の伸びたTシャツや三本線のジャージとは別世界の生き物に見えた。
「おい大輝、やっぱり無理だ。俺、ジャージでいい。ジャージでバーに行く」
「バカ言え、ジャージの高校生が入れるバーがどこにあるんだよ。ほら、チキってないでこっち来い」
大輝は俺の肩をがっしりと掴み、店の奥へと引きずっていった。ファッションのことなんて一ミリもわからない俺の代わりに、大輝は慣れた手つきでラックから何枚かの服を引っこ抜いていく。
「いいか航平、現役高校生が一番手っ取り早く大人っぽく見えるのは、暗めのシャツだ。これ着てみろ」
手渡されたのは、チャコールグレーの長袖シャツだった。
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